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  • 産官学が描く2035年の日本型医療モデルの実装

    2026年4月23日、東京ビッグサイトで開催された「CPHI Japan 2026」の基調講演は、日本製薬工業協会(製薬協)の企画協力により、かつてない熱量の中で行われた。少子高齢化と人口減少という「静かなる有事」に対し、医療DXがいかにして持続可能な日本型医療モデルを構築するのか。登壇者たちの言葉からは、技術論を超えた「社会変革」への強い意志が読み取れた。 現場・技術・行政:それぞれのフロントラインからの提言 医療現場におけるDXの実装と働き方の抜本的改革 社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理事長(公益社団法人全日本病院協会会長) 神野正博氏 神野正博氏は、能登半島地震の際にも機能した自院のデジタル基盤を背景に、現場を救うためのDXの在り方を論じた。同院では、PHSを全廃してスマートフォンに一本化し、チャットによるリアルタイムな多職種連携を実現している。特筆すべきは、客観的な数値データに基づく改善だ。神野氏は、毎年実施しているタイムスタディのデータを示し、かつて深夜まで及んでいた看護師の「記録業務」が、AIによる文章作成支援とバイタルデータの自動転送により、夕方5時半の時点でほぼゼロにまで削減された実態を報告した。神野氏は「医療従事者をPCの前から、患者のベッドサイドへ取り戻すことこそがDXの真髄である」と断言した。また、患者自身がスマホで検査データや画像を確認できる「患者参加型医療」の実現が、医療の透明性を高め、地域の信頼基盤となっていることを強調した。 2035年に向けたAIファースト・ホスピタルの構想 日本アイ・ビー・エム株式会社 ヘルスケア・ライフサイエンスサービス 理事・パートナー 先崎心智氏 先崎心智氏は、世界的な「医療従事者の燃え尽き(バーンアウト)」を解消するための、2035年に向けたテクノロジー・ロードマップを提示した。先崎氏が提唱する「AIファースト・ホスピタル」では、AIは単なる補助ツールではなく、病院経営と診療のOS(基盤)となる。 この構想では、患者が来院する前の段階で、AIが過去のデータと現在の症状から緊急度を判断する「プレ・トリアージ」が行われる。受診時には、AIが診療録から疾患候補をスクリーニングし、最適な治療法や臨床試験(治験)の選択肢を医師にリアルタイムで提案する。先崎氏は、医療の起点が「病院での治療」から「日常の予測・予防」へとシフトし、これまで独立していた診療データと創薬データがシームレスに融合することで、患者一人ひとりに最適化された個別化医療(パーソナライズド・ケア)が完成すると予測した。 医療安全保障としてのデジタル基盤とサイバーセキュリティ デジタル大臣 松本尚氏(ビデオメッセージ) 松本尚氏は、医師としての背景も交えつつ、医療DXを支えるインフラ整備と国家安全保障の観点から語った。松本氏は、マイナンバーカードと健康保険証の一体化(マイナ保険証)を「医療DXの入り口」と位置づけ、その保有率が人口の8割を超えたことで、全国どこでも最適な医療情報にアクセスできる土壌が整ったと述べた。しかし、システムが高度化するほど、サイバー攻撃のリスクは増大する。松本氏は、医療機関を「重要インフラ」として再定義し、攻撃から守り抜くための法的・財政的支援の枠組みを厚生労働省と連携して構築中であることを明かした。さらに、医療従事者一人ひとりが、パスワード管理や不審なメールの排除を「手洗いやうがいと同じ衛生管理」として捉える「サイバーハイジーン(衛生管理)」の概念を提唱し、現場の末端まで浸透させることの重要性を強く訴えた。 パネルディスカッション:日本型モデルの実現に向けた産官学の対話 モデレーターの沼田佳之氏(Monthlyミクス編集長)の進行により、製薬協会長の宮柱明日香氏が加わり、より踏み込んだ討論が行われた。 産業界の視点:ドラッグ・ロス解消とデータ利活用 宮柱氏は、日本の創薬イノベーション・エコシステムが危機的状況にあることを指摘した。特に、海外で承認された革新的な薬が日本で発売されない「ドラッグ・ロス」の現状を打開するためには、臨床現場のリアルワールドデータを標準化し、安全かつ迅速に研究開発へフィードバックできる環境が不可欠であるとの認識を示した。製薬業界としても、単に「高品質な薬を届ける」だけでなく、デジタルを通じて「診断から予後までを支えるソリューション・プロバイダー」へと変革する決意を語った。 現場実装の壁を突破する「トップの覚悟」 ディスカッションでは、なぜDXが進まない医療機関があるのかという問いに対し、神野氏は「システムを入れることが目的になっている」と指摘した。「職員が早く帰れる、ミスが減る、患者に喜ばれる」といった成功体験をトップが示し、現場を巻き込むことの重要性が語られた。先崎氏も、日本の技術力は世界トップレベルにあると評価したうえで、古い慣習や「紙」を前提とした制度運用を、デジタル前提へと書き換える「制度のDX」が必要であると応じた。 安全保障とデータ利活用の両立 松本大臣が提起したセキュリティ問題を受け、パネリスト陣からは「データの利活用と保護は車の両輪である」との意見が相次いだ。サイバー攻撃によって診療が停止すれば命に関わるため、セキュリティ投資は単なるコストではなく、国民の命を守るための「安全保障上の必要経費」として社会全体で許容すべきだという合意形成がなされた。 日本型医療モデルの未来へ セッションの締めくくりとして、宮柱氏は医療DXの未来を以下のように総括した。 「医療DXの実装を加速させるためには、技術や個別の課題解決にとどまらず、制度、現場、そして国民の理解をセットで進める必要がある。標準化やデータ利活用によって、産業界の競争力、現場の効率性、そして患者さんの不安解消が同時に達成される。これらは相互に関連しており、もはや一つの主体だけで解決できるものではない。共通の課題意識を持ち、各主体が役割を持ち寄って『実装を見据えた連携』をすることこそが、2035年、日本が世界に誇る医療モデルを提示するための唯一の道である」

  • 【摂南大学】「横浜フラワー&ガーデンフェスティバル2026」へ出展

    オリジナルドリンク「すももちゃんサイダー」(左)と大阪・関西万博で展示した「出張 摂大薬草園・農場」 薬・農連携プロジェクトの集大成を横浜で披露 摂南大学は、2026年5月2日から4日にかけてパシフィコ横浜で開催される、日本最大級の園芸イベント「横浜フラワー&ガーデンフェスティバル2026(通称:横フラ)」に出展することを決定した。 本出展は、同大学の開学50周年記念事業『「挑む、楽しむ。」プロジェクト』の一つである「摂南アグロボタニカルプロジェクト」の活動として行われる。当日は、本プロジェクトの代表を務める薬学部教授の伊藤優准氏と農学部教授の川崎通夫氏を中心とし、教員と学生が一体となって日頃の教育・研究の成果を学外へ広く発信する。 万博の感動を再び、五感で楽しむ薬草と農場の世界 展示の目玉となるのは、大阪・関西万博で大きな注目を集めた「出張 摂大薬草園・農場」の再現だ。会場では、同大学が誇る薬学部附属薬用植物園や農学部附属農場で実際に栽培・研究されている貴重な薬草の鉢植えが展示され、来場者はその多様な生態を間近に観察することができる。 また、植物を通じた「健康」を体験できる場として、収穫した薬草を活用した健康ドリンクや、農学部が地元農園と共同開発した「すももちゃんサイダー」の試飲会も実施する。香料・着色料不使用で素材の味を生かしたオリジナル飲料の提供を通じ、同大学が推進する食農教育と地域連携の成果を直接肌で感じられる内容となっている。 次世代の園芸博覧会「GREEN×EXPO 2027」への架け橋 今回の出展は、2027年に横浜で開催される国際園芸博覧会「GREEN×EXPO 2027」の開催1年前プレイベントとしての役割も担っている。同大学は2027年の本博覧会への出展も内定しており、本イベントをその重要なステップと位置づけている。 「自然の恵みでいきいきライフ」というテーマのもと、パシフィコ横浜の展示ホールA・Bにて3日間にわたり展開される本展示を通じて、摂南大学は1年後に控えた国際博覧会への関心と期待感を醸成していく。最新の栽培設備や広大な実習地を持つ農学部、そして歴史ある薬用植物園を擁する薬学部という、同大学ならではの強力なリソースを生かした、植物の新たな価値の提案に期待が高まる。 出展概要 開催日時:2026年5月2日(土)~4日(月・祝)10:00~17:00       ※最終日16:00まで 場所:パシフィコ横浜 展示ホールA・B(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1) テーマ:「自然の恵みでいきいきライフ~薬草などの展示と健康ドリンクの試飲~」 URL:https://yfg-fes.jp/booth/1268/

  • 【レッドボックスジャパン】生理用品提供が累計806施設・50万枚を突破― 女性の健康と教育機会を支える「社会インフラ」構築を加速 ―

    NPO法人レッドボックスジャパンは、2019年の設立以来推進してきた生理用品提供事業において、2026年4月時点で累計導入施設数が806施設に達した。これまでに全国の学校、教育機関、公共施設へ提供された生理用品の累計枚数は50万枚を超え、女性の学習機会と健康を支える「社会インフラ」としての役割を強めている。 生理用品の提供を「社会インフラ」へ 生理用品は生活必需品である一方、経済的理由や環境によって十分に入手できない、いわゆる「生理の貧困」が課題となっている。これが原因で欠席や早退を余儀なくされるケースは教育格差を生み、将来的な進学・就業、ひいては収入格差にまで波及する懸念がある。 レッドボックスジャパンは、英国発祥のチャリティー団体「The Red Box Project」の日本支部として始動した。英国を含む欧州では公立学校での無償提供が制度化されるなど、生理用品を教育基盤の一部と捉える動きが先行している。同法人は日本においても同様の環境を整え、誰もが安心して学べる公平な社会の実現を目指している。 自治体・大学・スポーツチームとの連携事例 自治体との連携 沖縄県:教育庁と連携し、離島を含む計496の小中高等学校、インターナショナルスクール等へ導入。 長野県松本市:国際女性デーより公共施設177施設(トイレ392カ所)へ導入。 徳島県徳島市:教育委員会と連携し、市立中学校15校および市立高校へ導入。 神奈川県川崎市:教育委員会と連携し、市立高校9校へ導入。 島根県松江市:女性に優しいまちづくりの一環として、公共施設3カ所へ導入。 大学・スポーツチーム等との連携 専修大学・日本女子大学:学生への食糧支援プロジェクト等にて生理用品を配布。 北海道大学:大学院保健科学研究院と連携し、学生主体の管理運営による「北大生理サポート」を実施。 戸板女子短期大学:授業履修学生との共同プロジェクトとして学内トイレへ導入。 松本山雅FC:スタジアムへの設置や選手向けフェムケア講座を実施。2022 Jリーグシャレン!アウォーズを受賞。 川崎フロンターレ:「フロンタウンさぎぬま」などの施設へ生理用品を設置。 FC琉球さくら:チャリティーイベントを通じ、沖縄県内495校への導入を推進。 地域別の導入内訳(2026年4月時点) 累計806施設のうち、主な導入状況は以下の通りである。 地域 施設数 主な内容 北海道 1件 北海道大学 関東 27件 渋谷区立中学校、明治大学(各キャンパス)、川崎市立高校等 中部 226件 松本市立小中学校・公共施設、藤枝市交流センター等 近畿・中四国 42件 徳島市立中学校、岩国市立小中学校、松江市公共施設、堺市役所等 九州・沖縄 505件 沖縄県内496校、北九州市立高校、日向市立小学校等 今後の展望 レッドボックスジャパンは、生理用品の提供を一時的な支援に留めず、全国どこでも当たり前にアクセスできる「持続可能な社会インフラ」として定着させることを目指す。 今後は未導入地域への展開を拡大するとともに、蓄積された利用実態データを活用し、女性の健康課題の可視化や新たなソリューションの創出に取り組む方針である。レッドボックスジャパンは、活動を支える寄付や協賛などの支援を広く募り、誰もが安心して生活できる環境の構築をさらに加速させていく。

  • 日本獣医療薬学協議会設立:獣医療と薬学の架け橋を目指して

    一般社団法人日本獣医療薬学協議会(JVPSC)が設立された。同協議会は、東京薬科大学薬学部教授の櫻井浩子氏が代表理事を務め、2025年(令和7年)12月23日に設立された団体である。 設立の背景と目的 近年、伴侶動物の家族化および獣医療の高度化に伴い、獣医療現場における負担は年々増大している。こうした課題に対応するためには、獣医師、愛玩動物看護師、薬剤師がそれぞれの専門性を生かして支え合う「多職種連携」の実践が不可欠である。 同協議会は、獣医療と薬学の架け橋として、動物用医薬品に関する正確で信頼性の高い情報および教育機会を獣医療専門職に提供することを目指している。これにより、獣医療の質の向上、安全性の確保、さらには人と動物の健康増進に寄与することを目的としている。 主な事業内容 協議会は「教育と認定」「情報のハブ化」「多職種連携の実践」を活動の三本柱として運営される。主な事業内容は以下の通りである。 情報の収集・提供:動物用医薬品および関連領域に関する情報の収集、整理、提供に関する事業。 教育・認定:獣医療専門職等を対象とする研修、講習会、eラーニング等の企画・実施および認定に関する事業。 連携促進:獣医療専門職等の連携および協働を促進するための事業。 適正使用の推進:動物用医薬品の適正使用、安全管理および薬物療法の質向上を推進する事業。 調査研究・情報発信:動物用医薬品および獣医療薬学に関する調査研究、学術集会、情報発信に関する事業。 組織概要 名称: 一般社団法人日本獣医療薬学協議会 (JVPSC) 代表理事: 櫻井 浩子(東京薬科大学 薬学部 教授/獣医師) 所在地: 東京都中央区八丁堀3-14-4 直平ビル 2F 公式ホームページ: https://jvpsc.or.jp/

  • 書類よりも「対話」を。ロート製薬が挑む選考の常識を覆す「Entry Meet採用」の全貌

    採用市場においてAI選考やエントリーシートによる効率化が進むなか、ロート製薬株式会社が打ち出した方針は、それらとは一線を画す「対話への回帰」であった。2027年新卒採用から導入された「Entry Meet採用」。書類選考を完全に廃止し、全ての始まりを直接の対話に置くこの挑戦が、人財採用の在り方を根本から変えようとしている。 対話を起点とする「Entry Meet」の実施 2026年1月から2月にかけ、ロート製薬は全国8拠点で「Entry Meet」を実施した。一人あたり15分という時間設定のなか、従来の書類選考に代わり、対話を起点とした選考が行われた。 各会場には、同社の商品やカルチャーブックを並べた待合ルームが設けられた。そこには採用担当以外の有志社員が常駐し、企業理解を深めるためのコミュニケーションの場として活用された。こうした対話の時間を重視するプロセスにより、学生と会社の相互理解を図る試みがなされている。 最終選考を経て見えた変化 その後、複数回の面接やグループワークを経て、4月に最終選考までのプロセスを終了した。例年と比較して、以下のような変化が見られている。 選考の質の向上と効率化:初期段階で価値観や成長可能性のマッチングを見極めることで、エントリー母数にかかわらず質の高い採用につなげることができ、選考に関わる時間の短縮に成功した。 多様な人財の確保:対話の時間を重視することで、多様なバックグラウンドや専門性を持つ学生の採用につながった。 学生からの評価:受験した学生からは「自分の言葉で話すことができ、書類選考やAI面接よりも納得感がある」「社員との対話で企業理解が深まった」という声が寄せられている。 入社後の「自律」を支える3つの柱 同社が掲げる「個人と会社の共成長」を支えるのが、以下の3つの主要な制度だ。 社外チャレンジワーク(複業) 2026年3月時点で76人が実践。実践者の99%がウェルビーイング向上を実感し、88%が本業へのプラス効果があると回答している。社外での経験が視座の向上や自信の醸成に寄与している。 社内ダブルジョブ(兼務) 部門の枠を超えて働く制度で、現在233人が参加。スキルの拡張に加え、部門間での「知の循環」が組織全体の価値創出を促進している。 社内起業家支援プロジェクト「明日ニハ」 個人の想いを起点とした起業を支援しており、これまでに9社が設立された。直近では、体験農園の運営を通じて食と農の価値を再発見する「食卓農園合同会社」や、医療的ケア児等の母親が社会とつながり仕事を創出するコミュニティ型事業「合同会社ママズマール」が誕生。個人の志を社会価値へと変換する好循環が継続的に生まれている。 同社の取り組みは、対話重視の採用で個の可能性を見いだし、複業や起業支援によってその能力を社会へ解き放つ流れを構築している。この一連のプロセスが、変化の激しい時代における「個人と会社の新しい関係性」を象徴している。

  • 産学連携で挑む「薬剤師キャリア」の早期確立 愛知学院大学薬学部とマイナビが基本協定

    愛知学院大学薬学部は2026年4月1日、株式会社マイナビと「未来を創造できる薬剤師養成プログラム」の共同推進に関する基本協定を締結したと発表した。単なる就職活動の支援にとどまらず、自身のキャリアを主体的に描く「体験型キャリアデザイン教育」を導入する点が最大の特徴である。 従来の枠組みを超えた「キャリアデザイン」の必要性 近年、薬剤師には創薬・臨床研究、データ活用、国際協力、地域医療への貢献など、極めて高度で多様な能力が求められている。こうした社会の変化に対応するため、同大学は学生が自身の興味に応じて学びを深められる環境整備を推進してきた。 今回の協定により、医療・キャリア支援の両面で実績を持つマイナビの知見を教育現場に直接取り込むことが可能となる。具体的には、マイナビが保有するWebコンテンツや医療関連データを活用した講義・演習を展開し、大学での学びが将来どう直結するかを学生が早期に実感できる仕組みを構築する。 専門領域を切り拓く3つの教育モデル 本プログラムの柱となるのは、将来のビジョンを明確化させる以下の3コースである 。 リサーチ・ファーマシスト(RP)コース:創薬や臨床研究の第一線を志す学生に対し、研究職や技術職への理解を深める支援を行う。 データ・ファーマシスト(DP)コース:DX化が進む医療現場を見据え、データ解析に基づいた論理的な医療提供能力を養う。 グローカル・ファーマシスト(GP)コース:地域医療の深化から国際舞台での活躍まで、幅広いフィールドを視野に入れたキャリア形成を学ぶ。 産学ではくぐむ「次世代の薬剤師像」 今回の連携は、既存の「資格取得」を目的とした教育から、社会のニーズを先取りした「価値創造」ができる薬剤師の育成へとシフトする重要な試みである。学びと将来の選択肢を早期に結びつけるこの仕組みは、学生が多様な薬剤師像を主体的に描くための大きな転換点となるだろう。

  • 第20回日本ファーマシューティカルコミュニケーション学会大会 9月6日に開催

    プログラム 大会URL https://pcoken.jp/conferences/r08/ 9/6(日) 内容 9:30〜9:40 開会式 9:40〜10:20 大会長講演 P-Coに歴史あり~薬学コミュニケ―ション教育のナラティブを語る 有田 悦子(北里大学薬学部) 座長:井手口直子(帝京平成大学薬学部) 10:30〜11:40 特別講演 わたしが見つめた『命の現場』 下村 幸子(株式会社NHKエンタープライズ) 座長:平井みどり(神戸大学 名誉教授) 11:40〜12:30 昼食/一般演題(ポスター)閲覧 12:30〜13:30 一般演題(ポスター)発表 13:40〜14:50 教育講演 患者の価値観を尊重したACPのためのコミュニケーション 大西恵理子(Oregon Health and Science University Department of Family Medicine) 座長:半谷眞七子(名城大学薬学部) 15:00〜16:30 スキルアップセミナー 患者のナラティブを聴くためのコミュニケーション 有田 悦子(北里大学薬学部) 竹平理恵子(北里大学薬学部) 16:30〜16:50 表彰式・閉会式

  • 「猫猫の薬科大探訪」で紐解く、漢方の奥深き世界

    キービジュアル 横浜薬科大学、日本薬科大学、第一薬科大学の3薬科大は、大人気TVアニメ『薬屋のひとりごと』とのコラボレーション企画「猫猫(マオマオ)の薬科大探訪」を始動させた。2026年3月18日から11月1日まで開催される同プロジェクトについて、日本薬科大学の広報部長を務める齋藤博氏と、漢方・統合医療教育・研究センター教授の山路誠一氏が、オープンキャンパスを軸とした漢方教育への熱き思いを語った。 薬学の本質を伝える「最高のマッチング」 今回のコラボレーションの背景について、広報部長の齋藤氏は、作品の世界観と大学の教育環境の親和性を強調する。 「数ある作品の中で本作を選んだのは、薬にまつわる知識を作中で扱っているアニメが極めて稀であり、漢方に注力する3大学にとってこれ以上ないモチーフだったからです。作中で描かれる『毒と薬は表裏一体』という視点は、教育的にも非常に価値が高い。薬学の本質をアピールする上で、ベストな選択だと確信しています」 また、中高生の間で圧倒的な認知度を誇る同作を通じて、薬学業界全体を活性化させたいという狙いも齋藤氏は明かした。 「謎解き」がつなぐ、数千年の知恵と最先端医療 企画のキャッチコピー「時代を超える知恵、漢方の謎を解け。」には、伝統と革新の両面が込められている。漢方薬学教育を担当する山路氏は、現代における漢方の重要性を次のように説く。 「数千年前から続く漢方の知恵は、決して過去のものではなく、現代の医療現場でも形を変えて活用されています。例えば、術後の腸閉塞予防や、抗がん剤の副作用による下痢の抑制など、現代ならではの予防的投与が主流になりつつあるのです。このように古い歴史を持ちながら最前線で使われる漢方の奥深さを、猫猫の『謎解き』というプロセスを通して高校生に伝えたい。それが薬学への興味を喚起する大きなきっかけになると考えています」 学生がナビゲート、五感で味わう薬科大学の魅力 同プロジェクトのメイン舞台となるのは、4月26日や5月6日などに開催されるオープンキャンパスだ。2026年4月24日に公開される、猫猫が大学を訪れるスペシャルコラボ動画の世界観をリアルに体験できる仕掛けが用意されている。 最大の見どころは、薬学生たちがナビゲーターとして参加することだ。参加する高校生に対し、学生たちが自らの学びを交えて薬学の魅力を直接解説する。「学生たちが主体となって高校生を導くことで、より身近に薬学の楽しさを感じてもらえるはずです」と齋藤氏は語る。高校生は学内の漢方資料館や薬用植物園を巡り、生薬や貴重な資料をヒントに謎解きの答えを探していく。この体験を通じて、古来の薬師と現代の薬剤師の技術を比較・体験できるほか、参加者対象の限定ノベルティグッズも用意されている。 漢方史料館 「探求心」こそがAIを超える武器になる 薬用植物園 今回のプロジェクトを通じて両氏が期待するのは、自ら学ぶ姿勢を持つ学生の育成である。山路氏は、薬剤師の新たな可能性について次のように言及した。 「漢方という独自の『武器』を持つことで、医師に対しても治療の提案ができる付加価値の高い薬剤師を目指してほしいと考えています」 また齋藤氏は、技術革新が進む未来を見据えてこう結んだ。 「将来、西洋薬の調剤がAIに取って代わられる可能性がある中で、試行錯誤が必要な漢方を理解する薬剤師こそが、AIには再現できない存在になります。猫猫のような飽くなき探求心を持つ学生が、オープンキャンパスでの先輩たちとの触れ合いを通じて、これからの医療を支える志を持ってくれることを期待しています」 同プロジェクトは10月31日まで継続され、10月25日の学園祭でフィナーレを迎える予定だが、その後も薬用植物園の活用などを通じ、天然物から薬が生まれる「知恵のつながり」を次世代へ伝えていく方針だ。

  • 累計100万冊へ!第6回「オリジナルお薬手帳」無料提供キャンペーン開始

    一般社団法人くすりの適正使用協議会は、2026年4月21日より、病院・診療所・薬局などの保険医療機関を対象とした「第6回 オリジナルお薬手帳無料提供キャンペーン」の募集を開始した。本事業は日本宝くじ協会の「社会貢献広報事業」として助成を受けており、今回は25万5,000冊を配布する。2021年度の開始以来、今回の配布分を合わせると累計発行部数は約100万冊に達する見込みだ。 現場の声から生まれた「使いやすさ」へのこだわり このお薬手帳は、過去6年間にわたり延べ約5,000人の薬剤師の意見を反映し、改良を重ねてきた。単なる記録帳にとどまらず、実用的な機能が数多く盛り込まれている。 各ページには「残ったくすり」の記入欄を設けて残薬解消をサポートしているほか、服用タイミングの図解や外用薬(目薬・貼り薬・軟膏)の正しい使い方のイラスト解説を掲載し、視覚的な分かりやすさを追求した。 また、二次元コードから妊婦・授乳婦向けや保護者向けの専門情報、さらには「くすりのしおり®」へ素早くアクセスできるデジタル連携も備えている。 さらに、ケアマネジャーの連絡先記入欄を設けるなど、緊急時や地域包括ケアにおける多職種連携にも役立つ構成となっている。 今年の表紙は、協議会のキャラクター「カプセル君」と「錠剤ちゃん」をあしらった、全世代が親しみやすい明るいデザインに仕上がっている。 キャンペーンの応募と詳細 募集期間は2026年4月21日から5月31日までとなっており、2027年2月までに150冊以上を配布可能な病院や薬局などの保険医療機関が対象となる。提供は150冊単位で行われ、応募多数の場合は抽選となるが、本体および配送料はすべて無料だ。当選分は2026年6月上旬より順次発送される。 申し込みは、 同協議会ホームページのキャンペーンサイト からインターネット経由でのみ受け付けている。 利用者の評価と適正使用への期待 昨年度の利用者からは、薄くてかさばらないため持ち運びに便利である点や、二次元コードから詳細な情報が見られる機能性が高く評価されている。また、宝くじの助成事業であることを伝えることで、社会貢献活動への理解が深まるきっかけにもなっているようだ。 同協議会は、このお薬手帳の普及を通じて、医薬品の重複投与や相互作用の防止、そして患者自身が薬を正しく使う意識を高める適正使用のさらなる推進を目指している。

  • クオール薬局と「とらほす」が連携、訪日外国人の医療アクセスを多言語で一気通貫サポート

    株式会社メディ・エンジンとクオール株式会社は、2026年4月中旬より、訪日外国人向け医療サポートプラットフォーム「とらほす」と「クオール薬局」のうち、外国人来局者が多い23店舗との連携を開始した。この取り組みにより、処方箋を持たずに来局した外国人への受診勧奨から、オンライン診療後の調剤・服薬指導に至るまでを、シームレスに支援する体制が構築される。 過去最高の訪日客数に対応する「医療のセーフティーネット」 2025年の訪日外国人数が過去最高の約4,268万人を記録する中、滞在中の体調不良への対応は喫緊の課題となっている。特に薬局の現場では、言葉の壁によって症状の聞き取りや適切な医療機関への案内が困難なケースが増加していた。 今回の連携は、こうした現場の課題を解決し、外国人患者が日本滞在中も安心して適切な医療を受けられる環境を整備することを目的としている。 オンライン診療と調剤をつなぐ強固な連携体制 メディ・エンジンが運営する「とらほす」は、24時間体制で多言語によるオンライン診療の手配を担う。英語や中国語、韓国語など複数の言語に対応し、診察までの待機時間を30分以内とすることで、旅行中の急な体調変化にも迅速に対応する。 一方、クオール薬局は処方薬の受け渡しと服薬指導の窓口となり、翻訳アプリなどを活用した多言語サポートによって、安全な薬物治療を支援する。また、提携クリニックと在庫情報を共有することで、医薬品の供給不足時にも適切な代替案を提案できる柔軟な体制を敷いている。 相談から薬の受け取りまでをスムーズに完結 同サービスは、外国人来局者が薬局を訪れてから薬を手にするまで、以下のステップで円滑に進められる。 まず、処方箋を持たずにクオール薬局を訪れた外国人に対し、薬剤師が相談内容を確認する。受診が必要と判断された場合、薬剤師は「とらほす」の概要と問い合わせ先QRコードが記載された資料を提供し、適切な受診を促す。 資料を受け取った利用者は、自身のスマートフォン等からQRコード経由で「とらほす」のサービスページにアクセスし、診療申し込みを行う。申し込み後、メールで送られてくる専用URLからオンライン診察を受診する流れだ。なお、東京都内で対面診察が必要と判断された場合には、提携クリニックへの案内も行われる。 診察が完了すると、患者の現在地や滞在エリアに近い店舗が紹介され、処方箋情報がリアルタイムで薬局へ連携される。最後に、連携先の薬局にて翻訳アプリ等を活用した多言語での服薬指導を受け、調剤された薬を受け取ることで、一連のプロセスが完了する。 両社が語る「外国人でも安心して医療を受けられる国」への展望 メディ・エンジンは、訪日外国人が言葉の壁を理由に適切な医療にたどり着けない現状を変えたいという思いが「とらほす」の出発点であると述べている。今回の連携により、薬局という日常的な医療インフラと組み合わさることで、観光施設やホテルの枠を超えてより多くの方の医療アクセスを支えられるようになるとの期待を寄せた。今後は全国の医療機関との協力関係をさらに拡大し、日本を「外国人でも安心して医療を受けられる国」にすることを目指している。 また、クオールも、薬局を訪れる外国人が増加する中で、迅速かつ適切に医療機関へつなぐ重要性を強調している。今回の「とらほす」との連携によって、言葉の壁を超えた一貫したサポートが可能になるとし、翻訳アプリの活用やクリニックとの情報共有を通じて、外国人患者が滞在中も安心して薬を受け取れる環境を整備し、さらなる利便性と安全性の向上に貢献していく決意を示した。

  • 「混ざり合う」ことで生まれる居場所。薬学生が創るユースセンターと薬育のカタチ

    クレヨン 代表 鈴木憲子 薬学部に在籍しながら、中高生の居場所づくりと「薬育」を軸に活動する任意団体「クレヨン」。2025年3月に設立されたこの団体は、代表の鈴木憲子さん(北里大学薬学部)の実体験と、薬学生としてのアイデンティティーが融合して生まれた。型にはまらない、しなやかな活動の裏側にある思いを聞いた。 ―「クレヨン」を設立した背景について教えてください。 一番のきっかけは、私自身が高校生の時に行っていた「ユースセンター」での原体験です。ユースセンターとは、学校でも家でもない、中高生のための第3の居場所のこと。勉強や役割から少しだけ離れて、ありのままの自分に戻れる自由な空間です。私が行っていた場所(「文京区青少年プラザb-lab(ビーラボ)」)は、無料で音楽スタジオを借りられたり、ゲームができたりと、10代が「ゲスト」ではなく「主役」になれる開放的な場でした。そこでスタッフ(ユースワーカー)と関わる中で、学校の先生や親のように指導する立場ではなく、一人の人間として対等に向き合ってくれる大人たちとの出会いを通じて、自身の価値観が大きく広がる経験をしました。 大学2年生の時、高校時代に行っていたb-labに、今度はユースワーカーとして戻りました。しかし、ここで薬学生特有の壁にぶつかります。ボランティアの期間が終わり、より深く運営に携わるインターンに興味を持ちましたが、薬学部の過密なカリキュラムでは、平日の昼間に関わることが条件となるインターン活動は物理的に不可能でした。 周囲の文系学生たちが自由にボランティアやインターンに励む姿を見て、「自分は勉強しかしていない」という焦りも感じていました。「ユースワークを続けたいけれど、今の仕組みでは関われない」。そんな葛藤の中、b-labの館長にも相談し、「既存の枠組みに合わせるのが難しいなら、自分の生活スタイルに合う形を自分で作ればいい」という、情熱に突き動かされた前向きな衝動で、2025年3月11日に団体を設立しました。 ―「クレヨン」という名前には、どのような願いが込められていますか? 一言でいうと「十人十色」をイメージしています。色鉛筆だと互いの色が重なりにくく、逆に絵の具だと混ざりすぎて元の色が消えてしまいますよね。 その点クレヨンは、自分自身の個性をしっかり保ちつつ、重ねることで相手の色ともちょうどよく混ざり合うことができます。「中高生が自分らしさを失わずに、それでいてバラバラでもない。互いの個性が消えるほど混ざりすぎず、ちょうどいい距離感で他者と交われる場にしたい」にしたいという願いを込めています。 ―具体的な活動内容について教えてください。 高校での出張授業の様子 現在は、「ユースワーク」と「薬育」の2つを軸に活動を展開しています。 ユースワークについては、国立・国分寺エリアで週に1回、中高生が無料で自由に過ごせる場を開いています。おしゃべりやボードゲーム、勉強など、それぞれが好きなように過ごしており、私たちスタッフも何かを押し付けるのではなく、彼らから求められた時に話し相手になるような、フラットな関わりを大切にしています。 一方の薬育については、活動を続ける中で「自分にしかできないアイデンティティー」を模索した結果、薬学部での学びに行き着きました。大分県で薬局薬剤師として薬育を実践されている「NPO法人日本薬育研究会」代表の小路晃平さんの活動を新聞で知り、連絡を取ってオンラインで相談させていただいたことが始まりです。現在は資料提供などの協力をいただきながら、学校での出張授業や、地域の公共施設と連携したイベントを行っています。 ―子供に接する際に大切にしている「距離感」とは? 最も大切にしているのは、こちらから何かを「押し付けない」ことです。ユースセンターには、学校になかなか行けていない子もいれば、進学校でプレッシャーを感じている子も来ますが、私たちは特定のレッテルを貼りません。話し相手になってほしいと言われれば全力で話し、一人でいたい子がいればそっと見守る。付かず離れずの距離感で、彼らが「主役」でいられる空間を維持することを心がけています。私たちが目指すのは、特定の悩みを持つ子だけの支援場所ではなく、どんな子でもふらっと来られる日常の延長線上にある場です。いわゆる「普通」とされる子も、悩みを抱える子も、境目なくみんなが自然に混ざり合える場でありたいと考えています。 ―薬育では、どのような工夫をしていますか? 地域連携イベント「クラフトコーラを作ろう!」を開催 あえて薬育という言葉を前面に出さないように工夫しています。例えば、地域の施設と連携したイベントでは「クラフトコーラを作ろう」という企画を行いました。実はクラフトコーラの材料となるスパイスの多くは、漢方薬の原料にもなる生薬なんです。クラフトコーラを煮出す工程は、漢方薬を煎じる過程にとても似ています。「コーラを飲んでみたい」という好奇心で来た子が、作業を通じて「これって薬の原料なんだ」「漢方って意外と身近なんだ」と、自然に薬への興味を持つ。そんな「いつの間にか学んでいた」という、学びの入り口の設計を大切にしています。 ―運営面で意識していることは? 現在はさまざまな学部の大学生と社会人が入り混じる7名体制です。多様な視点を持つメンバーが集まっているからこそ、中高生に対して多角的な関わりができることがクレヨンの強みです。 私たちは中高生に「やってみたいことをやってみよう」と伝えていますが、運営メンバーに対しても同様に「やりたいことを形にできる」環境でありたいと考えています。実際に、スタッフの「駄菓子屋をやりたい」という声をきっかけにイベントを開催しました。その際も、できる限り地域と関わりたいという思いから、地元のカフェとコラボレーションを行いました。 こうした積み重ねを通じて地域の方々と交流し、確かな信頼関係を築いていきたいと考えています。 スタッフの声をきっかけに開催した駄菓子屋イベント ―学業や実習と活動を両立させる、モチベーションの秘訣は? 今この瞬間にしか得られない体験という感覚が非常に強いですね。薬学部の勉強は確かにハードですが、あえてクレヨンの枠を超えた活動にも積極的に参加しています。例えば春休みを利用して、小学校の特別支援学級でボランティアをしたり、地域のサッカーコーチをしたりと、現場に足を運ぶことを大切にしています。 かつてユースセンターに通う前の高校生の頃の私は、無意識のうちに「不登校」や「障がい」という言葉に対して偏見を持っていたかもしれません。しかし、現場で一人ひとりの子供と向き合うと、そんな枠組みには何の意味もないことに気づかされます。こうした実体験が、机の上での勉強以上に、私を突き動かすエネルギーになっています。 ―任意団体として運営を継続していくうえでの苦労や工夫は? 拠点の確保と周知が最初の高いハードルでした。最初は知り合いの紹介で国立市のつてをたどり、1カ月という短期間で立ち上げに漕ぎ着けました。公民館の協力で市内の中学校に1,500枚のチラシを配ったり、こども食堂の公式LINEで情報を流してもらったりと、地道な広報活動を続けています。 最近では、午前中にフリースクールを行っている場所の空き時間を貸していただくなど、地域の方々の理解を得ながら場所をつないでいます。 ―新しく挑戦したいことはありますか? 今取り組んでいる「ユースワーク」と「薬育」の融合を、さらに深めていきたいです。薬剤師として社会に出たとき、病院や薬局では本当に多様な背景を持つ方々と出会います。これまでの経験は、将来、薬剤師として患者さんの背景に寄り添うためのかけがえのない財産になると信じています。将来的には、地域の薬局が処方箋の有無にかかわらず、学校帰りの子供がふらっと立ち寄って悩み相談や宿題ができるような、ユースセンターの役割も担える場所になれば――。そんな新しい薬剤師のカタチを模索していきたいです。 ―薬学生にメッセージをお願いします。 薬学部の勉強は確かに大変で、私も最初は「勉強しかしていない自分」に焦りを感じていました。でも、「まずはやってみよう」という思いを大切に一歩踏み出したことで、講義室では出会えない多様な価値観に触れることができました。薬剤師として将来、多くの患者さんと向き合うとき、学生時代に多様な経験をしたことは、必ず皆さんの強みになります。難しく考えすぎず、今しかできない経験を楽しみながら、小さな一歩を踏み出してほしいと思います。 プロフィール  鈴木憲子(すずき・のりこ) 2004年生まれ。北里大学薬学部4年。大学2年生時、文京区青少年プラザb-labにて8カ月間活動し、「ユースワーク」について学ぶ。その経験をもとに、ユースワークを軸とした任意団体「クレヨン」を設立し、代表に就任。現在は、薬学の知識を生かしながら、中高生の居場所づくりに取り組んでいる。また、一般社団法人日本薬学生連盟2026年度副会長外務理事を務める。趣味はバスケットボール。中学・高校・大学と一貫して部活に励み、中学では区選抜に選出。大学では医療系学生の関東大会において春秋連覇を達成した。 Instagram: crayon_youthcenter

  • 【横浜薬科大学】大類洋特別栄誉教授が創製した新機序の抗HIV薬「イドビンソ®」が日本で発売

    2026年4月15日、横浜薬科大学特別栄誉教授の大類洋氏が分子設計・合成した化合物を基盤とする新たな抗HIV薬「イドビンソ®(一般名:イスラトラビル)」が、世界に先駆けて日本国内で発売された。 大類氏 産学官連携による結実と社会実装 本剤の開発は、大類氏による同大学での基礎研究に端を発する。大類氏が設計した化合物は、ヤマサ醤油株式会社および国立国際医療研究センター所長の満屋弘明氏による生物学的評価を経て、MSD株式会社による臨床試験へと引き継がれた。大学発の独創的な分子設計が、数十年の歳月を経て社会実装に至った点は、日本の創薬研究における極めて重要な成果といえる。 従来の抗HIV薬の課題 HIVは、自身のRNAをDNAへと作り変える「逆転写」というプロセスを経て増殖する。従来の核酸系逆転写酵素阻害薬は、このDNA合成の過程で「偽の材料」として取り込まれ、DNAの伸長をその場で停止させる仕組みを持っていた。しかし、ウイルスが変異すると、薬が取り込まれにくくなったり、作用をすり抜けたりする場合があり、十分な治療効果が得られない症例が長年の課題となっていた。 独自メカニズム「二段階の阻止」 イドビンソ®の最大の特徴は、従来の薬剤にはない二つの作用点を同時に持つことにある。 ① トランスロケーション(移動)の阻害 HIVがDNAを合成する際、逆転写酵素は材料を一つ取り込むごとに一歩ずつ前進するが、本剤はこの「前進する動き(トランスロケーション)」そのものを物理的にブロックし、DNAのコピーがそれ以上進まないように強く抑制する。 ② 遅延型チェインターミネーション(停止) 万が一、一段階目のブロックをすり抜けてDNAの伸長が進んでしまった場合でも、本剤は「少し先」の段階で合成を強制終了させる。この「時間差での停止」により、変異ウイルスによるすり抜けを二段構えで防ぐことが可能となった。 逆転写酵素の移動(トランスロケーション) HIVがDNAを作る際、逆転写酵素という酵素は、材料を1つ取り込むごとに少しずつ前に進みながらコピーを進めていく。この「一歩ずつ前に進む動き」をトランスロケーションと呼ぶ。 遅延型のチェインターミネーション 通常の薬は、DNAに取り込まれた瞬間にコピーを止めるが、本薬はすぐには止めず、少し進んだ後でコピーを止める特徴がある。このように「少し進んでから止まる」仕組みを、遅延型のチェインターミネーションと呼ぶ。 新しい治療薬がもたらす意義 本剤の登場は、医療現場に多大なメリットをもたらすと期待されている。まず、複数の作用点を持つことから、薬が効かない変異ウイルスが生まれにくいという耐性抑制の効果がある。また、生体内での安定性が高く効果が長く持続するため、将来的には服用回数の削減や投与量の低減、さらには副作用の軽減に寄与する可能性がある。既存の薬で効果が不十分だった患者にとっても、新たな治療選択肢として大きな希望となる。大類氏の独創的な発想が、産学官の連携を経て、HIV治療の未来を切り開く実用薬として結実した意義は極めて大きい。 大類 洋(おおるい ひろし) 横浜薬科大学 特別栄誉教授・理事。生物有機化学・分析化学を専門とし、生体内で機能する分子の設計・合成研究において世界的な業績を有する。1942年東京都生まれ。東京大学農学部農芸化学科卒業後、理化学研究所を経て東北大学教授、同大学院生命科学研究科教授を歴任。2005年に東北大学名誉教授、2006年より横浜薬科大学教授、2021年より特別栄誉教授、2025年より理事。 日本学士院賞(2010年)をはじめ、日本農学賞・読売農学賞、日本分析化学会学会賞などを受賞。2015年瑞宝中綬章受章。

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