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  • 【クオール】日本ブラインドサッカー協会とパートナー契約を締結――薬剤師・管理栄養士が専門性を発揮、障がい者アスリートを多角的に支援

    左からJBFA理事長の金子久子氏、クオール株式会社代表取締役社長の柄澤忍氏 クオールホールディングス株式会社の中核子会社であるクオール株式会社は、NPO法人日本ブラインドサッカー協会(JBFA)と「競技力向上パートナー」契約を締結した。契約期間は2026年2月1日から1年間。調剤薬局大手の専門知見をスポーツ現場に注入し、医療とスポーツの融合による共生社会の実現を加速させる狙いだ。 専門職による「メディカル&栄養支援」の展開 今回の提携により、同社はブラインドサッカーの男女日本代表やロービジョンフットサル日本代表、さらには各クラブチームを対象として、高度な専門知識を持つスタッフによる包括的なサポートを展開する。 ©haruo.wanibe/JBFA 具体的な支援内容として、まずスポーツファーマシストがアンチ・ドーピングへの対応や服用薬に関する専門的なアドバイスを行い、選手のメディカルケアを徹底する。並行して、管理栄養士がパフォーマンス向上とコンディショニングを目的とした食生活支援を実施し、栄養面からも競技力を下支えする体制を整える。 「混ざり合う社会」の実現へ 同社はこれまでも、業界初の特例子会社「クオールアシスト株式会社」を設立するなど、障がい者雇用に積極的に取り組んできた。今回のパートナーシップは、JBFAが掲げる「視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会」というビジョンに、同社が強く共鳴したことで実現に至った。 同社は、障がいの有無にかかわらず誰もが質の高い医療サービスを享受できる環境整備を急いでいる。今回の取り組みを通じて、スポーツ現場で得た知見を現場の薬局機能へフィードバックすることで、全ての人が安心して相談できる共生社会の実現を目指していく方針だ。 持続可能な社会への貢献 今回の契約締結は、単なるスポンサーシップに留まらない。医療の専門家が障がい者スポーツの最前線に伴走することで、アスリートの健康維持と競技力向上を支えるとともに、社会全体のダイバーシティ&インクルージョンを推進する重要な一歩となる。 クオールとJBFAの連携が、今後の障がい者スポーツ支援における新たなロールモデルとなるか、その動向に注目が集まる。

  • 【薬師のことのは|ほうかご】有機化学って、やる意味あるの?―薬剤師になって気付いたあの時の学び―

    執筆:しほ(薬剤師) 薬学生の皆さん、はじめまして。しほと申します。私は薬学部が6年制になった後に入学し、皆さんと同じように実務実習やCBT、OSCEなども受けてきました。 皆さんは日々の授業中や、学期ごとのテスト勉強をしている際、「薬剤師になってから、こんな内容使うの?これやる必要あるのかな…」と思いながら勉学に勤しまれていることはありませんか? また、一夜漬けの暗記や、テストが終わったら何も覚えてない!なんてこと…。ここでお話ししたいのは、結論、「今は忘れてしまってもいい。とにかくこなすべし!」ということです。 ここでは、国試を受けてから、そして薬剤師になってから、私が気付いた『学生時代に”あれ”をやる意味』をお話できればと思います。 今日のテーマは、多くの方が壁に直面するであろう、『有機化学』についてです。まず薬剤師になる前に、皆さんが受けるのは国試です。国試・卒試に受からなければ、薬剤師にはなれませんので、まずは、ここを突破することを考えることでしょう。 有機化学については、私は低学年の頃に履修しました。じっくり理解をして身につけることにより、何年かたっていても思い出せる科目の一つです。例えば、共鳴です。苦手な方も多いのではないでしょうか。共鳴こそ、何度も問題を解き、法則を体に染み込ませることで、何年か後、国試・卒試の勉強をするときに意外とすんなり思い出すことができます。 「どうせ忘れるのなら、国試・卒試の時に勉強すればいいや」そう思う方もいらっしゃるかもしれません。国試・卒試前には、他にも覚えなければいけないことがたくさんあります。膨大な問題量が、次から次へと降ってくるのです。直前になって、有機化学をじっくり勉強し、解く練習をする時間があるでしょうか。きっと、有機化学よりも優先して、点数がすぐ取りやすい科目の暗記に走るのではないでしょうか。 そして、「有機化学は捨てた!」と言いながら国試に挑み、結果、その一問の失点に泣く…ということに…。そんなことがあっては、在学中の講義も、テストも乗り越えてきたあの努力と時間も、非常に惜しまれます。もったいないですよね。したがって、まず国試・卒試の合格の近道のためにも、今のうちに理解しておくことが大切なのですね。 そして、薬局の薬剤師になってから、有機化学が何の役に立つのか?疑問に思いませんか。例えば、有機化学の授業で、光学異性体のことを学びますよね。S体とR体ですね。薬局で働いてみたらこんなお薬がありました。 ・ジルテック(セチリジン)と、ザイザル(レボセチリジン) ・オメプラール(オメプラゾール)と、ネキシウム(エソメプラゾール) ・アモバン(ゾピクロン)と、ルネスタ(エスゾピクロン) 何か気が付くことはありませんか? どれも成分名の初めの音に、「SやR」が付いていますね。例えば、ジルテックは、S体とR体が含まれているラセミ体です。このうちR体だけを抽出したものがザイザルです。このR体は、S体よりも薬理作用が強力であり、かつ、長時間持続します。他にも、オメプラールは、S体とR体を含んでいますが、ネキシウムは、代謝酵素CYP2C19の影響が小さいS体のみを抽出したものです。これにより、遺伝的体質による効果の個人差を少なくすることができます。このように、光学異性体に関連する薬剤が複数存在し、それぞれの特徴が異なります。先ほどの例のように、薬理作用が強力になった製剤や、効果の個人差をなくした製剤もあれば、副作用が軽減された製剤などさまざまです。処方された薬が変更になった患者さんに、「この薬は、前の薬とどう違いますか?」と聞かれた際、光学異性体について理解をしないまま、正しい説明ができるでしょうか。近年では、PPIがOTCとしても販売されるようになりましたね。病院で処方歴のあるネキシウムと、OTCのオメプラゾール配合製剤について尋ねられた場合、患者さんに分かりやすく説明し、安心・安全にお使いいただけるでしょうか。このように、現場につなげるためにも、今のうちに基礎を固めておく意味が大いにあるのです。  今回は、『学生時代に”有機化学”を学ぶ意味』をお伝えしました。きっと、学生のうちにしか経験できないことがたくさんあることと思います。6年間の学生生活を充実させながら、今やっていることが必ずいつか、将来の自分に繋がると信じて卒業なさってください。本稿が皆さんの学びの一助となれば幸いです。 プロフィール しほ:薬剤師。一児の母。薬学の専門性に加え、英語学習にも挑戦。AI時代だからこそ、自身の「生の声」で伝えることを大切にし、ポッドキャストやブログを通じて健康・育児・学習の記録を多角的・多層的に発信している。【note】 https://note.com/kusushi_kotonoha

  • 【薬局四方山話】薬剤師のセンス

    地球堂薬局 田代健 1. 国家試験に合格するだけで良いのか? 少し昔のことだが、知り合いの医師が焼肉屋でこんなことを言っていた。「国試に受かれば同じ医者で、点数は関係ない。自分は最低限の努力でギリギリ合格したから、効率的だった」皆さんはどう思われるだろうか? この医師の場合に限れば、最終的な目標は「実家の医院を継ぐこと」で、研修医から大学教授までの生存競争を勝ち残る必要もなく、臨床経験を積み重ねていけば成績とは関係なく自分の地位を確保することができる。さらに、医学教育を受ける大学とそれを実践する職場が連続しているので、国家試験というものはなおさら通過点に過ぎない。このような文脈の上では、「勉強の量は最小限で良い」はかなり正しいと思う。しかし、これが医師全般にも当てはまるかといえばそうではないだろうし(注1)、薬剤師の場合には、一つの職場で蓄積されてきた実践知を受け継ぐという文化もない。国家試験に合格するということは、毎年1万数千人いる「国試受験者」のうち1万人弱が、30万人規模の「薬剤師の市場」への入場券を手に入れるということに他ならない。入場券は、テーマパークなどと同様、入場した瞬間に意味がなくなる。問題はそこから先をどう楽しむかで、事前の準備によって1日が大きく変わるかもしれないし、その準備が楽しかったりもするわけだ。だからこそ、薬局に就職した後で危機感をもって「認定薬剤師の資格を取る」というのは一つの選択肢として理解できる。 しかし研修で知識を得たり何かを体験したりすることはできても、作法やセンスを磨くことはできない。もしかすると学生の皆さんにはまだピンとこないかもしれないが、薬剤師が患者とやりとりする情報には、 A.正解が明確に文書化されていて、誰が答えても同じ内容になるはずの情報 B.正解が存在せず、発信者と受け手との間で内容が不確定な情報 の2つがあり、一連のコミュニケーションの中で絡み合っている(例えば、患者さんが「大丈夫です」と言っているが、大丈夫ではなさそうに見える場合、薬剤師がその言葉をAとして受け取るかBとして受け取るかという違いは大きな影響を及ぼす)。Aについて薬剤師が持っている情報は、医薬品の添付文書やインタビューフォームに書いてあるようなものが中心になるが、患者もそれなりに入手することが可能になっており、例えばSNSや生成AIで得た情報をベースに相談を受けるというケースは実際に増えている。それと同時に、不正確だが断定的な情報が急増していることにより、 C. 薬剤師にとっての正解と患者にとっての正解とが異なる信念に基づいている情報 が紛れ込むようになってきている。患者との会話でこのような情報が顕在化した時に大切なのは、知識そのものよりもむしろ科学者としての作法だ。これは神社の参拝でも科学でも同じだろうが、「作法を知っている人同士」というのは、例えば聞いたことのない情報があったとしても、話がはやい。「作法を知らない人同士」は混乱するだけでおかしなことになりがちだ。「作法を知っている人と知らない人」とでは、知っている人がその場をコントロールしやすくなる。その時に、ただ作法を振りかざすだけでは衝突してしまうので、それを相手に合わせて気持ちよく使う「センス」が大切なのだ。 2. センスとは何か? このセンスとは一体なんなのか? ラテン語までさかのぼると、「感じる能力、感覚」というような意味があり、「ものの良し悪しを感じる能力」や「五感そのもの」さらには「意味」といった広がりを持つ言葉になったようだ。日本語では「あの人はセンスがいい」と言えばなんとなくその意味は伝わるが、センスとはなんなのか、センスを良くするためにはどうするのか?といったことはなかなか言語化できない。ここでは、具体的に「白衣を個性的に着こなす」とか 「SNS映えする」とかいう意味での「センス」から考えると分かりやすいかもしれない。あるいは、「体育会系のサークルに所属して全国大会で賞を取った」というようなことで得られる「何か」も同じ性質のものなのかもしれない。それらと同じ平面の上に、患者と話す時の人間としてのセンスや、処方箋を見た時の薬剤師としてのセンス、医薬品の構造式を見た時の化学的なセンスといったものがある。これらのセンスは一朝一夕には身につけることができない。それは「意味を論理的に理解する」ということではなく、五感や行動を通じて時間をかけて自分のものにするしかない。 ピエール・ブルデューというフランスの社会学者がいて、労働者階級の生まれからエリート層の中に入って、エリート層生まれの周囲とどう闘うかというようなことを実践した人物なのだが、そのキーワードに「文化資本」というものがある。子供の音楽や絵画の好みといった感性(センス)は親の社会的な地位によって変わってくるということを実証的に示したのだが、このような感性は大人になってから変えることが難しく、しかもそれが親から子へと再生産されるということで、それを金のような目にみえる資本とは別の「文化資本」と名付けた。 大学というのは、比較的均質な集団の中で、さまざまな設備もあれば切磋琢磨する学生もいて専門家もいるという状態でセンスを磨く、あるいは身も蓋もない言い方をすれば「文化資本」を蓄積することができる、最後のステージだ。社会に出て体力も落ち、他の日常のいろいろな用事に時間を奪われた状態で自分の意志だけはなかなか身につけることができない。 3. 大学でセンスを身につけよう 筆者はこの15年間ほど、比較的多くの薬剤師と作業をしたり話をしたりする機会があったのだが、痛切に感じたのは、「薬剤師は街の科学者である」と自称する割に、大半の薬剤師は科学の作法が全く身についておらず、それを身につけている少数の薬剤師はその作法を通じて患者や仲間の薬剤師とコミュニケーションをとるセンスを欠いていることが多いということだった。多くの薬剤師は患者を「薬歴の記載項目」というフィルターを通じてしか見ない。薬歴の記載項目とは、要するに「調剤報酬の点数の算定要件」だ。だから、SNSやメディアで調剤報酬について痛いことを指摘されるたびに大声を出すような、リアクション系の薬剤師が圧倒的に多く、調剤報酬制度と関係のない自分自身の個性を明確に持ったセンス系の薬剤師は少ない。 そこで、学校でもすでに耳にタコができるほど聞かされているとは思うが、薬学生の皆さんには、有機化学でも生理学でもいいので、自分の興味を持てそうな学科、あるいはこれから20年くらいの間に重要になりそうな学科、あるいは周りに勉強がはかどりそうな環境がそろっている学科、などを自分なりに調べて、1つ選んでとことん深く勉強して周りと議論することをおすすめしたい(最初はつまらないように見えても、勉強していくうちにどんどん面白さが分かるようになってくる、ということもある。そもそも「本当につまらない学問」など1つたりとも存在するわけがないのだ)。それによって体得できたセンス(文化資本)は、社会に出てからきっと役に立つし、それを個性として発揮できる薬剤師になってもらいたい。その個性を発揮できる環境を用意して待っていることが、薬局側の責任だろう。 4. 最後に 本稿をまとめるにあたって、最初に書き始めたのは「薬剤師としての実務に化学の知識は必要か?」という話だった。筆者の母校では薬学部の研究室はなんとなく有機系・生物系・物理系と大別されており、筆者は生物系にしか関心がなく、有機系の勉強をほとんどしなかった。そのために、自分自身が薬局薬剤師として働くうえでふだん「自分が学生だった頃にこういう勉強をしたらよかっただろうな」と感じているようなことをまとめようと試みた。その途中でふと「イミダゾール環ってなんだったっけ?」と思い出し、薬学部の時に買った有機化学の本を引っ張り出してみた。イミダゾール環のところを探してみると、そこに「ここは後でまた勉強すること」という付箋紙が貼ってあった。もし、薬学生時代の自分にメッセージを送ることができるとしたら、「そこは30年後に悩む箇所だから、ちゃんと勉強しておけよ」と言いたい。 当初は、これらの分子の骨格からpKaなどの性質を通じて臨床的な応用の話を書けないかと考えていたのだが、筆者よりも読者の皆さんの方がよく勉強していらっしゃるだろうと判断して、断念した。 注1 この医師とまったく逆の事例を紹介しよう。筆者が薬学部の時に居候させてもらっていた医学部の研究室の教授室には、簡素な事務用机の上に数冊だけ本が並んでいて、その1冊は学生時代に使っていたらしくすっかり色褪せた「線形代数学」の教科書だった。この教授は、アルツハイマー病患者の脳に蓄積する神経原線維変化という病理産物がタウというタンパク質から構成されていることを発見した業績を持ち、神経病理学という分野の中では世界的にもトップランナーだった。線形代数学は、そんな専門性とはまったく関係がない分野だが、その1冊から「商売道具としての学問」ではない「すべての自然科学に一貫する学問」への変わらない信念というものを感じた。

  • 【オーガホールディングス】ヒーローマーケティングが切り開く新時代

    ドラッグストア業界の活性化と製・配・販の緊密な連携を目的とするドラッグストアMD研究会(DMS)。発足から30年以上の歴史を誇り、ウエルシアホールディングス株式会社の石田岳彦氏が会長を務める同研究会は、加盟企業が共に学び、情報を共有することで業界全体の進化を牽引してきた。 2026年1月30日に開催された第201回DMS定例会「新春政策セミナー」では、激変する世界情勢や加速する業界再編を背景に、次世代の経営戦略が語られた。その中でも、株式会社オーガホールディングス代表取締役社長の大賀崇浩氏による講演は、既存の薬局・ドラッグストアの概念を覆す革新的な内容であった。 逆境からの出発と「変身」への情熱 2008年、異業種の商社から家業に入社した大賀氏は、大手チェーンの九州進出による売上低迷と、年間50人規模にのぼる薬剤師の大量離脱という深刻な経営危機に直面した。2017年に社長に就任した同氏が導き出した打開策は、自らがヒーローとなり「エンターテインメントと医療を掛け合わせる」という前代未聞の挑戦であった。 「薬剤戦師オーガマン」の誕生とバズの連鎖 2019年、飲み残しの薬を減らす「残薬問題の解消」を大義に掲げたヒーロー「薬剤戦師オーガマン」が登場した。SNSで拡散された「薬飲んで、寝ろ。」というあまりにストレートなメッセージは、従来の薬局の堅苦しいイメージを劇的に塗り替えることとなった。オーガマンの公式X(旧Twitter)フォロワー数は、現在4.9万人にまで達している。 また、九州のローカルヒーローを集結させた特撮番組『ドゲンジャーズ』を自社主導で制作し、SNSで全国トレンド1位を獲得した。現在は第7シーズンの撮影を控えるほどの長寿コンテンツに成長している。さらにオーガマンによる「やくいくプロジェクト」を通じて、2022年から2025年の3年間で351園、延べ3万7,934人の園児に手洗いや服薬の大切さを伝え、子供から親へ健康を促す独自の行動変容モデルを構築した。 社会的価値と収益を両立する「CSV経営」への転換 オーガホールディングスが実践しているのは、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)経営である。これは、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)とは異なり、本業のビジネスを通じて社会課題を解決することで、「社会的価値」と「経済的価値」を同時に実現する経営モデルを指す。 この戦略は、単なる話題作りを超えた実利をもたらしている。採用面では九州の薬学生の約6割がエントリーするようになり、志望動機が「面白そうな会社」へと激変した。ビジネスモデルとしても、広告代理店の事業会社を設立し、120社以上のパートナー企業を獲得することで収益化に成功している。現在はホールディングス化を推進し、動物病院と連携する動物専門調剤「ANIMAL PHARMACY」の開設など、人の健康だけでなく動物や環境の健全性までを一体として捉える「One Health」の視点から、ヘルスケアの枠を広げた新領域への進出も加速させている。 ストーリーが行動変容を起こす 大賀氏は、論理的な説明よりも物語(ストーリー)として伝える方が「22倍記憶に残る」という脳科学の知見を引用し、「人はエンタメでしか行動変容を起こせない」と断言した。今後は健診施設との連携モデルなどを通じ、「数値」を実際の「行動」へ移す取り組みを強化していく方針である。 AIが台頭する時代だからこそ、ワクワクする体験を通じて人々の感情を揺さぶり、子供たちに誇れる企業文化を作ること。オーガホールディングスの挑戦は、ドラッグストアが地域社会において「健康を守るヒーロー」へと進化するための重要な示唆であった。

  • 創薬イノベーション施設を舞台に高校生・大学生が多様なサイエンス研究を発表 湘南アイパークフェスタ2025

    5月24日、神奈川県藤沢市にある創薬イノベーションの開発拠点、湘南ヘルスイノベーションパーク(通称:湘南アイパーク)にて、「湘南アイパークフェスタ2025」が開催された。このイベントは一般市民に施設を開放して行われる“文化祭”と銘打たれて今年で3年目の恒例行事となっており、来場者は湘南アイパークに入居する製薬企業などの展示やワークショップ、ファミリー向けのアトラクションを楽しんだ。 高校生・大学生によるサイエンス研究発表会「集まれ未来の研究者!」 今年新たにフェスタの目玉企画として、理系の高校生・大学生による研究発表会「湘南アイパーク学生研究発表会~集まれ未来の研究者!」が開催された。創薬開発や健康づくりを研究する湘南アイパークの特性を活かし、発表テーマはライフサイエンスに限定された。公募で集まった多数の応募の中から選ばれた17組(高校生11組、大学生6組)が、会場内の特設ステージで研究成果を発表した。 発表形式は、8分間のプレゼンテーションと、それに続く4分間の質疑応答で行われる。湘南アイパーク内の企業に勤務する現役の研究者がアドバイザーとして参加し、学生たちの発表に対して専門的なコメントや質問を投げかけた。学生たちの中には将来、研究開発職を志望している方も見受けられ、「現役の研究者からの指摘で新たな気づきが得られた」といった前向きな感想が聞かれた。 現役研究者が未来の研究者にエール アドバイザーの一人は、発表会を総括して「学生相手という目線ではなく、同じ研究者としてコメントさせていただいた」と語り、研究の道へ足を踏み入れたばかりの学生たちへの期待をにじませた。 初めての試みとなった学生研究発表会は未来を担う若い研究者たちがその才能を発揮し、現役の研究者との交流を深める機会となった。 【発表タイトル 全17題】 ・口腔再現モデルの考案と飴の溶け方についての実験的研究 ・小型双方向物質移動デバイスを用いる、微量食物アレルゲン検出法の確立 ・薬の苦味を抑える方法 ―五感と心理的要因から― ・ローズマリー化粧水の効果について ・アルツハイマー病の克服に向けた新規アミロイドβ産生抑制薬の探索 ・食べ物の秘密を探る!塩・砂糖・油の実験から学んだ健康の大切さについて ・ワタシ、ホルモン操られてました!!~生理周期とメンタル集中力の関係を探る~ ・光が土壌細菌に与える影響とその応用 ・マウス脳由来の4因子導入 によるiN細胞作製 ・スフェロイド形成と分泌成分保持を両立するキトサン3D培養基材 ・夏のアイスは危険!?アイスの細菌繁殖の差を徹底調査! ・鉄付加酵素Ferrochelatase共発現系を用いた P450stのコバルトイオン添加培養による金属導入の検討 ・手作りミネラルファンデーションの紫外線強度測定 ・形質転換レタスによるグリチルレチン酸大量生産の研究 ・「ホップサステナビリティサイクル」の確立 ・ニワトリES細胞の樹立を目指して ・生物時計関連タンパク質のオリゴマー構造に起因する機能解析 湘南アイパーク学生研究発表会~集まれ未来の発表者 主催:アイパークインスティチュート株式会社 湘南ヘルスイノベーションパーク (湘南アイパーク)

  • 富山大学が挑むチューリップ活用:未利用資源から革新的な化粧品開発へ

    伊藤菜々羽氏 2026年1月14日(水)~16日(金)に東京ビッグサイトで開催された「第16回 化粧品開発展【東京】」。そのアカデミックフォーラムにおいて、富山大学学術研究部薬学・和漢系 臨床薬剤学研究室の加藤敦氏と伊藤菜々羽氏によるチューリップを活用した化粧品素材の研究発表が、多くの来場者の関心を引いた。富山県の伝統産業と薬学的なアプローチを組み合わせた、地域密着型のイノベーションだ。 廃棄されるチューリップに新たな価値を 富山県は大正時代から続く日本有数のチューリップ産地だが、球根を育成する過程で咲いた花は切り取られ、その多くが廃棄されるという課題があった。加藤氏らは、この未利用資源を化粧品成分として有効活用することで、SDGsの達成と地域産業の活性化を目指している。研究チームは、品種ごとに異なる「香り」に着目した。富山県で最も多く生産される「黄小町」を中心に、品種ごとの香気成分や抽出エキスの効能を、薬学的観点から検証している。 科学的エビデンスに基づいた美肌作用 植物エキスを含む化粧品は科学的根拠が乏しいものも多い中、本研究では詳細な効能評価が行われている。まず保湿・バリア機能維持については、肌の潤いに欠かせないセラミドを分解する酵素「セラミダーゼ」を阻害する活性を確認した。また、ハリ・弾力維持に関しては、真皮構造を破壊する「コラゲナーゼ」の働きを抑える阻害活性が認められている。さらに、品種による差異を検証した結果、香り成分の含有量や種類が品種ごとに異なるため、肌に対する効果も品種によって違いがあることが明らかになった。 大学の研究を「社会実装」へ 「大学内での研究にとどまらず、企業と連携して社会実装を目指したい」と伊藤氏は意気込む。研究開始から約3年、現在は抽出エキスの効果評価の段階にあり、実際の製品化に向けたパートナー企業を募っている。 伊藤氏は、自身の研究の歩みを振り返り、「天然物を扱うため、エキスを入手できるのは花が咲く春先に限られます。時期が限られる苦労はありますが、品種ごとに異なる香りの評価を並行して行えたことは大きな強みになりました」と語る。また、薬学部としてのこだわりについて、「医療現場で使われるマイクロニードル技術(皮膚から効率的に有効成分を吸収させるドラッグデリバリーシステム)が美容に応用されているように、医薬品と化粧品は決して遠い分野ではありません。自分たちの研究が社会でどう評価され、何が足りないのかをこうした展示会の場で直接伺うことで、独りよがりではない『社会の欲しいもの』との距離を埋め、一緒に形にしていける繋がりを築きたい」と、実用化への強い意欲を示した。 伝統ある富山のチューリップが、科学の力で新しい美の形へと生まれ変わろうとしている。 アカデミックフォーラムの様子

  • 問◆コミュニケーションを円滑にするための技能や態度【国試探検隊】

    問80 コミュニケーションを円滑にするため取り入れる傾聴の技能や態度として、適切なのはどれか。1つ選べ。  ❶ ブロッキング ❷ ミラーリング ❸ エンコーディング ❹ パターナリズム ❺ デコーディング            (第110回薬剤師国家試験より) *** 蔵之介です。必須問題からコミュニケーションに関する設問です。コミュニケーション能力は、医療者の基本的なスキル。ブロッキングは、思い込みや説得したい気持ちが邪魔して、患者さんの話をそのまま傾聴できない状態。『禁煙し ましょう ! 』『運動し ましょう ! 』を連呼する「 魔性の女 」が有名です。ミラーリングは、相手の言葉や仕草などを鏡のように真似ること。相手と同じタイミングで笑う「身体的共感」は、相手に親近感や好意を抱かせる心理的効果があります【正解は2】。エンコーディング(データを他の形式へ変換する:符号化)とデコーディング(データを元の形式へ戻す:復号)は、情報の送り手と受け手のプロセスです。例えば、会話中に患者さんが視線をそらせる(エンコーディング)、それを医療者は拒否の感情があるのではと読み解く(デコーディング)などがあります。医療におけるパターナリズム(父権主義)は、医師が患者さんの意志を無視して、患者の利益を考慮した行動を取ることを指します。ラテン語のパテル(父)から来た言葉で、対比語はインフォームド・コンセント〔説明と同意:拒否も含む〕になります。 映画『ブレードランナー』は、放射能で汚染された酸性雨が降りしきる、陰鬱で猥雑なディストピアが舞台。レプリカントと呼ばれる人造人間と地球へ脱走した彼らを処分する専任捜査官(ブレードランナー)が登場します。人間とレプリカントの識別は、質問に対する感情の変化(虹彩の僅かな動き)で判断します。ならば「感情」とは何か?1990年代、イタリア・パルマ大学のジャコモ・リゾラッティらは、サルを使った実験で偶然「ミラーニューロン」を発見しました。他人がしていることを見て、自分が行動しているかのような反応を示す脳神経細胞の存在は、DNAの発見に匹敵する大発見といわれます。無表情に見える「能面」で奥深い感情を表現する日本の古典芸能『能』には、心という字がありません。世阿弥は、『心より出でて、形に入り、形より出でて、心に入る』という言葉を残しました。形に魂が宿るという意味ですが、ミラーニューロンに通じるのかもしれません。 出題予想 オープンクエスチョン、ラポール、アサーション、コーチングなど ■解説 蔵之介(アポクリート株式会社)

  • 岡山大発ベンチャー「健康科学評価アカデミー」が松本ヘルス・ラボと連携 地域密着型の臨床研究体制を構築

    左から、濱野裕章氏、臥雲義尚氏 岡山大学発ベンチャーの株式会社健康科学評価アカデミーは2026年1月8日、一般財団法人松本ヘルス・ラボと「食品等の臨床研究実施支援に関する連携協定」を締結した。健康科学評価アカデミーは、松本地域の実証フィールドを活用し、科学的根拠(エビデンス)に基づいたヘルスケア開発と地域の健康増進を両立させる新たなモデルの構築を目指す。 薬剤師が代表を務めるベンチャー 健康科学評価アカデミーは、2026年1月5日に設立されたばかりの岡山大学発ベンチャーである。代表取締役には、岡山大学学術研究院 医療開発領域 薬剤部の講師・副部長を務める濱野裕章氏が就任した。 同社は、研究力やデータ解析力、および薬学部のネットワークを背景として、健康食品やサプリメントの臨床試験受託事業を展開。同連携においては、研究計画の策定から倫理審査への対応、統計解析、モニタリングといった臨床研究の全体統括を担う。 地域住民の参加によるエビデンス構築 今回の連携では、松本ヘルス・ラボが有する地域の実証フィールドと、健康科学評価アカデミーの専門性を組み合わせる。 松本ヘルス・ラボが被験者の募集や会場運営、検体の取り扱いといったフィールド業務を担当し、健康科学評価アカデミーがそれらを科学的に管理・解析する体制を敷く。単なる研究の委託・受託の関係ではなく、住民が研究に参加することで自身の健康状態を知り、行動変容につなげる「地域密着型」の取り組みであることが大きな特徴だ。 他地域への展開を見据えたモデルケースへ 1月8日に松本市役所で行われた締結式で、濱野氏は「大学発ベンチャーとして、本協定を基に地域の未病・予防医療の確立に貢献し、本事業をモデルケースとして他地域にも展開していきたい」と述べた。 また、松本ヘルス・ラボの臥雲義尚理事長(現・松本市長)は、同ラボの10年間の取り組みが大学発ベンチャーとの連携に繋がったことを歓迎し、さらなる健康増進への寄与に期待を寄せた。

  • 【学生対象】将来の選択肢に「滋賀の製薬」を! 2月16日に企業紹介フェアを開催

    滋賀県製薬工業協同組合と一般社団法人滋賀県薬業協会は、2026年2月16日(月)に草津市のクサツエストピアホテルにて、学生を対象とした「『滋賀のくすり』製薬企業紹介フェア」を開催する。 全国8位の「薬業県・滋賀」で働く魅力を発信 滋賀県は古くから医薬品産業が盛んな地域である 。令和5年の医薬品生産金額は約5,691億円に達し、全国シェアの5.7%を占め、都道府県別順位で全国8位を誇る地場産業だ。同イベントは、滋賀の製薬業に興味を持つ学生に、将来の選択肢の一つとしてその魅力を直接伝えることを目的としている。 企業の「生の声」と充実の参加特典 当日は、県内の製薬企業の担当者から直接、企業の概要や仕事の内容を聞くことができる個別相談ブースが設けられる。主な特徴と特典は以下の通りである。 学部・学年不問 :滋賀の製薬業に関心があれば、専門を問わず誰でも参加できる。 実利的な情報提供 :企業の紹介だけでなく、自治体による奨学金支援や就業に係る助成制度の情報も提供される予定だ。 ティータイムでの交流 :会場ではホテル特製のスイーツとドリンクが用意され、14時30分からは「コーヒーブレイク」の時間も設定されている。 参加特典 :参加費は無料で、来場者には「滋賀のくすり」特製グッズがプレゼントされる。 開催概要と申し込み方法 同イベントは先着50名の事前登録制となっている。 日時 :2026年2月16日(月)13:00~17:00(最終受付16:30) 会場 :クサツエストピアホテル 瑞祥の間(草津駅から徒歩3分) 服装 : 普段着での参加が推奨されている 申込締切 :2026年2月12日(水) 申し込み方法 オンライン申込 : 参加申込フォーム(Google フォーム)

  • 薬局の倒産が過去最多の38件、小規模店の淘汰加速 東京商工リサーチが2025年動向を発表

    2026年1月11日、東京商工リサーチは2025年(1月〜12月)の「調剤薬局」倒産動向に関する調査結果を公表した。これによると、同年の倒産件数は前年比35.7%増の38件に達し、2年連続で過去最多を更新した。 負債1億円未満の「小規模倒産」が全体の約8割 同社の分析によれば、倒産件数が最多となった一方で、負債総額は44億8,400万円(前年比68.3%減)と大幅に減少した。これは、負債10億円以上の大型倒産が前年の3件から1件にとどまった一方で、負債1億円未満の小規模な倒産が29件(構成比76.3%)と大幅に増加したためである。 原因別では「販売不振」が25件(前年比127.2%増)と最多で、前年の11件から2倍以上に急増した。資本金別でも「500万円未満」の企業が半数以上を占めており、経営基盤の脆弱な小規模店が市場環境の変化に耐えきれず、約9割が「破産」を選択する事態となっている。 大手の再編攻勢と深刻な薬剤師不足 業界の背景について同社は、大手を中心とした再編の動きを主な要因に挙げる。2025年8月にアインホールディングスが「さくら薬局」の経営会社を買収したほか、ドラッグストアチェーンも調剤併設店舗を強化。資金力とスケールメリットで優位に立つ大手と、独立系の小規模企業との格差が拡大している。 また、同社は深刻な薬剤師不足の影響についても言及している。大手が賃金引き上げなどの待遇改善で薬剤師の囲い込みを進める一方、そのしわ寄せが中小・独立系薬局を直撃。人手確保が困難な事業環境が、経営破綻の大きな要因となっていると分析する。 2026年度調剤報酬改定が「転換点」に 今後の見通しについて同社は、2026年度の調剤報酬改定がさらなる淘汰の波を呼ぶと予測している。改定では「門前薬局」のあり方や地域偏在の解消が焦点となっており、今後は小規模薬局の乱立が抑制される可能性があるという。 同社は、大手が再編で攻勢を強めるなか、地理的・歴史的な好条件に依存してきた独立系の小規模店舗ほど、ビジネスモデルの変化を迫られる局面を迎えていると結論付けている。

  • キャリアの正念場で訪れる「サイレント退職」の衝撃―ユニ・チャーム、「女性の多様な働き方に関する調査」から

    働く女性がキャリア形成の「上り坂」に差し掛かる時期、誰にも相談できぬまま職場を去る。そんな深刻な実態が明らかになった。 ユニ・チャーム株式会社は、2026年1月21日、働く女性のライフイベントとキャリアに関する調査結果を発表した。そこで浮き彫りになったのは、妊活や出産・育児への不安を抱えながら、組織にSOSを出せずに離職する「サイレント退職」という現代特有の課題だ。 退職検討の平均は「29.6歳」―キャリア形成期と重なる実態 今回の調査で最も注目すべきは、女性たちが退職を意識する「年齢」である。 調査の結果、退職または退職を検討した平均年齢は29.6歳であった。年齢層別で見ると、25歳〜29歳が37.5%と最も多く、次いで30歳〜34歳が30.8%と続く。 この時期は、入社数年を経て責任ある業務を任され始めたり、専門スキルの習得が加速したりする、いわばキャリア形成の黄金期だ。その一方で、結婚や妊活といったライフイベントが現実味を帯びる時期でもある。この二つが衝突した際、多くの女性が将来への不安を解消できず、組織から離れる決断を下している。 Q.退職・転職をした、または検討した際の年齢(n=324) 4人に3人が「誰にも言わずに」去っていく現実 調査によれば、ライフイベントとキャリアの両立に悩み退職・転職した女性のうち、実に72.1%が上司や人事に十分な相談をしていなかった。 Q.退職・転職をした際、ライフイベントとキャリアプランの悩みを上司や人事に相談できましたか?(n=251) なぜ、彼女たちは口を閉ざすのか。相談できなかった理由の第1位は「上司には言いづらいと感じた(50.3%)」。次いで「キャリアに悪影響があると思った(27.1%)」と続く。職場の空気や、制度以前の「心理的安全性の欠如」が、優秀な人材を流出させる防波堤を崩している形だ。 さらに見過ごせないのは、退職を検討した平均年齢が29.6歳という点である。30歳前後という、現場で中核を担い始める時期の層が、将来への不安からキャリアを断念している現状は、社会全体にとっても大きな損失といえる。 Q.社内の人に相談できなかった理由を教えてください。(複数回答・n=181) 「無知」が招くキャリアの分断 離職の根本的な要因として挙げられたのは、具体的な「知識」と「モデル」の欠如だ。 キャリア設計の考え方や事例を知らなかった(42.0%) 両立する方法を知らなかった(41.4%) 身近にロールモデルがいなかった(34.3%) Q.退職・転職をした主な理由を教えてください(複数回答・n=181) こうした「知らない」という不安が、離職という決断を後押ししている。しかし、退職・転職を検討した女性の71.5%が「研修などがあれば判断は変わっていた」と回答しており、組織が正しい情報を提供し、対話の土壌を整えることの重要性が示唆された。 Q.退職、または退職を検討した際の具体的なエピソードとは 組織全体でアップデートする「みんなの妊活研修」 この課題に対し、同社が展開するのが「ソフィ 知ることから、はじめる。みんなの妊活研修」だ。 同研修の特徴は、当事者だけでなく、性別や年齢を問わず組織全体で学ぶ点にある。妊活に関する正しい知識を共有することで、個人の抱える悩みを「組織の課題」として昇華させ、互いに理解し合える文化を醸成する。 薬学生へのアドバイス―専門知識を「自分の人生」の守り神に これから医療の担い手として社会に出る薬学生にとって、この調査結果は決して他人事ではない。国家試験に向けた膨大な知識の習得に追われる日々かもしれないが、以下の3点を意識してみてほしい。 「知識」は自分を守る武器になる 薬学のプロとして薬理や疾患を学ぶのと同時に、自分自身の「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)」についても主体的に学んでほしい。正しい知識があれば、不必要な不安に振り回されず、キャリアの選択肢を広げることができる。 就職先選びの「新基準」を持つ 給与や立地だけでなく「その職場にロールモデルはいるか」「ライフイベントに対する相互理解の文化(研修の有無など)があるか」をチェックしてほしい。29.6歳というキャリアの分岐点は、薬剤師としても認定取得や管理職への昇進が重なる時期だ。 「相談」という技術を磨く 「サイレント退職」を防ぐには、組織の改善も必要だが、個人が早い段階で周囲に相談する勇気とスキルも重要だ。実習などを通じ、指導薬剤師や多職種と「言いづらいこと」をどう対話するか、そのコミュニケーション能力も今のうちに養ってほしい。 専門職である薬剤師だからこそ、知識を患者のためだけでなく、自分自身の豊かな人生とキャリアを両立させるために活用してほしい。

  • 「相談してよかった」のために、ドラッグストアが挑むフェムケア

    初鹿妙子氏 女性の月経や更年期など生涯にわたる健康課題に取り組む「フェムケア」への社会的な関心が高まる一方で、その認知度は依然低く、相談がタブー視される現状がある。マツキヨココカラ&カンパニーは、この課題解決に貢献すべく、ドラッグストアを「最も身近な相談窓口」へと進化させる取り組みを推進中である。その実現に向け、同社は店頭での購買ハードルを下げるPB商品の開発と並行し、「フェムケアスペシャリスト」の育成に注力している。これらの取り組みの現状と、薬剤師に求められる役割について、マツキヨココカラ&カンパニーグループ・株式会社MCCマネジメント管理本部人材開発部長の初鹿妙子氏(薬剤師)に話を聞いた。 ●相談タブーを打ち破る 「フェムケア」とは、女性(Female)とケア(Care)を組み合わせた造語であり、女性の月経、更年期、妊娠・出産、デリケートゾーン、妊活の悩みなど、生涯にわたる多様な健康課題への取り組み全体を指す。これは単なる個人の問題ではなく、女性が自分らしく活躍するためのサポートとして、近年社会的な注目を集めている。特に、国が女性の社会進出に伴う労働損失の問題を提言し始めた2010年代後半以降、テクノロジーを活用したフェムテック(FemTech)と並行して認知が広がった。決定的な動きとなったのは、経済産業省が女性の健康課題による労働損失を公式に数値として発表した2021年である。この試算が公になったことで、フェムケアが個人の問題ではなく、社会全体で取り組むべき経済課題として認識されるようになった。 しかし、同社の調査では「フェムケア」の認知者は約2割にとどまっており、また、女性が健康の悩みを抱え込む「相談タブー視される風潮」が根強い。初鹿氏は、「体調的な不安がない日が月に約10日しかない」という女性が一定数いる現状を指摘。症状を「マイナスからゼロに戻す」従来のアイテムではなく、「使用することで笑顔になれるプラスの体験を提供する」商品と、誰もが当たり前に相談できる社会風土の醸成が、事業注力の強い動機となったと語る。 ●「恥ずかしさ」を消すPB開発とスペシャリスト育成 同社は、フェムケアの取り組みとして、プライベートブランド商品「matsukiyo FEMRISA(以下、フェムリサ)」の開発と、専門人材である「フェムケアスペシャリスト」の育成を同時に推進している。 2024年10月に発売されたフェムリサは、この取り組みを象徴する存在だ。初鹿氏は、「デリケートゾーンケア用品は、インターネットでは買うものの、店頭で買うのが恥ずかしいと感じる女性が多い」と分析する。そのため、「普通にカゴに入れても、まるで洗顔フォームや化粧水を買っているかのように特別なものに見えないシンプルでナチュラルなデザイン」を意図的に採用したという。 このプライバシーへの配慮が、顧客からの大きな支持と、予想を上回る店頭での購買につながっている。初鹿氏は、日本チェーンドラッグストア協会主催のJAPANドラッグストアショーでのエピソードとして、「お客様が『マツキヨでもこういう商品出してるんだ、マツキヨってだけで安心感あるよね』と多くの声をいただいた」と紹介。「身近なお店で商品が並んでいる安心感は大きい」とし、マツキヨココカラのブランド力が購買行動を後押ししていることを語った。フェムリサは、「誰にも気づかれずに買える」という安心感を提供することで、店頭での購買というハードルを下げたのだ。 フェムリサは、女性特有の悩みに寄り添うフェムケア特化のブランドで、「FEM(女性)」と「RISA(笑う)」を掛け合わせた「女性の気持ちを高め笑顔にする」という意味合いが込められている。 商品と共に重要視しているのが、顧客の相談に寄り添う「人」、すなわち専門人材の育成だ。同社は、この専門家として「フェムケアスペシャリスト」を社内認定している。このスペシャリストは、薬剤師、医薬品登録販売者、管理栄養士など、社内の全資格者から選抜されたメンバーで構成され、女性のライフステージ全般にわたる健康課題への適切な対応を目指す。現状(2025年10月時点)の認定者数は約40人であり、そのうち男性は1人である。初鹿氏は、「フェムケアスペシャリストは、男性だからとか女性だからとか関係なく、みんなが持つべき知識として育成している」と、性差なく専門家として向き合う姿勢の重要性を強調する。今後も毎年一定数の認定者を輩出する予定だ。 育成においては、日本フェムテック協会の「フェムテックエキスパート(2級)」認定試験合格を必須とし、妊娠、出産、月経、更年期といった女性の健康課題全般を網羅的に学ばせることとしている。初鹿氏もこの研修と試験を実際に受けたが、「薬学的知識がある薬剤師でも、理学療法や医学分野の話もあり、かなり本格的で難しい内容だった」と振り返る。 知識習得に加え、社内ではフェムケアの相談応対ワークショップが実施され、ケーススタディーを通じて実践的なスキルを習得させている。知識を得ただけではなく、相談応需のワークショップまで受け終わったメンバーを社内認定しているのだ。 このスペシャリストは、顧客からの相談を受けるだけでなく、「スペシャリストに活動を限定するのではなく、全社の協力体制を築き、対応力の底上げを図る必要がある」という考えのもと、その知識を生かして従業員への教育や、社外の健康セミナーでの情報発信も担うことで、社内全体のレベルアップを目指す中心的な役割を担っているのである。 フェムリサの発売に合わせて、フェムケアに関する専門的な知識を持つ人材「フェムケアスペシャリスト」を育成している(JAPANドラッグストアショーにて)。 ●痛みは「見える」か?:経験と知識で寄り添うアドバイスの基準 薬剤師、医薬品登録販売者は、顧客の具体的な相談内容に応じて、商品の提案だけでなく、受診勧奨までを行う。初鹿氏は、相談応対の難しさについて、「例えばデリケートゾーンの痒みであっても、OTC医薬品で対処できる単純な炎症なのか、カンジダ菌などによる感染症が原因なのか、詳しく話を聞かなければ原因は推定できない」と指摘する。カンジダ症が原因の場合、OTC医薬品を塗っても症状は改善せず、病院での専門的な治療が必要となるため、詳細な聞き取りが必須となる。 また、更年期症状においても同様である。顧客が「ホルモンバランスの乱れを整える薬」を求めて来店した場合でも、そのOTC医薬品が本当に症状に合致しているとは限らない。そのため、「今最もつらい症状」が何であるかを詳しく聞き取ることが重要となる。聞き取りの結果、OTC医薬品ではなく、更年期障害のガイドラインなどで選択肢として示されることもあるサプリメントによる対応が適切であったり、あるいは専門医によるホルモン補充療法(HRT)といった治療の方が、症状をより早く、圧倒的に楽に改善できるケースも存在する。 初鹿氏は、「生活習慣病のように、この基準値を超えたらという明確な線引きができないこの分野では、聞き取りによる事例の積み上げと判断が重要になる」と強調する。そのため、研修では、声のかけ方や、どういった場合に受診勧奨を行うべきかの事例をしっかり伝えているという。 ●性差・経験を超えた「寄り添い」の必要性 初鹿氏は、JAPANドラッグストアショーで実施した「生理痛の痛み体験」のエピソードを披露した。おなかに電極を貼って生理痛の痛みを再現するこの体験において、男性スタッフが「強」レベルの痛みを体験したところ、「もう無理!」と即座に中止するほどの激痛であったという。この体験から得られた教訓として、生理痛が男性には耐えがたいほどの痛みであること、そして痛みには極めて個人差が大きいため、女性であっても自分が経験していない他者のつらさは「机上の知識」でしかないことを挙げた。初鹿氏は、この事実を踏まえ、性差や個人の経験に関係なく、専門家として全ての患者に向き合い、そのつらさに寄り添うべきだと強調した。 さらに、自身の更年期症状の経験についても言及し、ホットフラッシュのつらさを初めて体験した際、「あの時、患者様にこの状態まで踏み込んでお話ができていたかと思うと、全然できていなかった」と反省したことを明かした。「経験していないことでも、しっかりと寄り添い、話を聞いて差し上げることが、薬剤師にはできなければならない」と、傾聴の重要性をあらためて強調した。 ●「知識・傾聴力・人間力」:フェムケア時代の薬剤師に求められる三要素 現時点では、生理用品の売り場など人目のあるオープンな場所でフェムケアの相談に乗るには、顧客の「心のハードルが高すぎる」という課題がある。「商品が並んでいたら、ちょっと行きづらい。そこにいることを他の人に見られるのが嫌だというお客様が多いのが現状だ」という。このため、同社は、鎮痛薬を買いに来た顧客に対し、薬剤師から「このお薬で効果は出ていますか?」など、一歩踏み込んだ声かけを行うことで、相談に繋がる機会を増やそうと努めているという。初鹿氏は、「『何に使われますか?』という確認だけで済ませるのではなく、正しい知識でもう一歩踏み込んで声をかけられるかどうか。そこは、配慮も含めてやっていかなければならない」と、店舗での工夫の必要性を説いた。 フェムケアにおいて、薬剤師は以下の3つの要素を磨くことが求められると初鹿氏は訴える。 知識:女性のライフステージにおける変化や未病対策について、男女問わず正しく理解し、治療から予防まで幅広く対応できる知識を持つこと。 傾聴力:相談しにくい悩みをしっかりと寄り添って聞く力。 人間力:初対面で「この人になら話せるかも」と安心感を持ってもらえるような人間性を磨くこと。 また、男性スタッフにおいても「自分事ではない」と避けず、医療人として積極的に知識を習得し、患者や顧客と向き合えるよう育成を続けているとあらためて強調した。 ●「相談してよかった」のために 初鹿氏は、未来の薬剤師である薬学生たちに強いメッセージを送る。「薬剤師は『一番身近な医療人』。お客様や患者様に、『相談してよかった』と思ってもらえるだけの知識とスキルをぜひ身につけてほしい」と、身近な医療人としての自覚を促す。 また、「学生の段階から、家族や友人など身近な人に対し、健康に関する正しい知識や考え方を積極的に共有し、リテラシー向上に貢献してほしい。それが将来の社会的役割につながる」と、若いうちからの啓発活動の重要性を訴えた。 フェムケア推進の最大の課題は、顧客の「心のハードル」である。「これを相談していいのかな?」という不安から、なかなか相談に踏み切れないのが現状だ。初鹿氏は、「このハードルを下げ、誰かの笑顔のために寄り添える社会を実現するためにも、スペシャリストによる啓発活動や、商品開発を通じた情報発信を、今後も粘り強く続けていきたい」と、強い決意を述べた。 同社の取り組みは、ドラッグストアの機能が、単なる商品販売の場から、「最も身近な健康の相談窓口」へと進化を遂げる、その転換期を象徴していると言えるだろう。

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