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「相談してよかった」のために、ドラッグストアが挑むフェムケア

更新日:2 日前

マツキヨココカラ&カンパニーグループ・株式会社MCCマネジメント管理本部人材開発部長の初鹿妙子氏
初鹿妙子氏

女性の月経や更年期など生涯にわたる健康課題に取り組む「フェムケア」への社会的な関心が高まる一方で、その認知度は依然低く、相談がタブー視される現状がある。マツキヨココカラ&カンパニーは、この課題解決に貢献すべく、ドラッグストアを「最も身近な相談窓口」へと進化させる取り組みを推進中である。その実現に向け、同社は店頭での購買ハードルを下げるPB商品の開発と並行し、「フェムケアスペシャリスト」の育成に注力している。これらの取り組みの現状と、薬剤師に求められる役割について、マツキヨココカラ&カンパニーグループ・株式会社MCCマネジメント管理本部人材開発部長の初鹿妙子氏(薬剤師)に話を聞いた。


●相談タブーを打ち破る

「フェムケア」とは、女性(Female)とケア(Care)を組み合わせた造語であり、女性の月経、更年期、妊娠・出産、デリケートゾーン、妊活の悩みなど、生涯にわたる多様な健康課題への取り組み全体を指す。これは単なる個人の問題ではなく、女性が自分らしく活躍するためのサポートとして、近年社会的な注目を集めている。特に、国が女性の社会進出に伴う労働損失の問題を提言し始めた2010年代後半以降、テクノロジーを活用したフェムテック(FemTech)と並行して認知が広がった。決定的な動きとなったのは、経済産業省が女性の健康課題による労働損失を公式に数値として発表した2021年である。この試算が公になったことで、フェムケアが個人の問題ではなく、社会全体で取り組むべき経済課題として認識されるようになった。

しかし、同社の調査では「フェムケア」の認知者は約2割にとどまっており、また、女性が健康の悩みを抱え込む「相談タブー視される風潮」が根強い。初鹿氏は、「体調的な不安がない日が月に約10日しかない」という女性が一定数いる現状を指摘。症状を「マイナスからゼロに戻す」従来のアイテムではなく、「使用することで笑顔になれるプラスの体験を提供する」商品と、誰もが当たり前に相談できる社会風土の醸成が、事業注力の強い動機となったと語る。


●「恥ずかしさ」を消すPB開発とスペシャリスト育成

同社は、フェムケアの取り組みとして、プライベートブランド商品「matsukiyo FEMRISA(以下、フェムリサ)」の開発と、専門人材である「フェムケアスペシャリスト」の育成を同時に推進している。

2024年10月に発売されたフェムリサは、この取り組みを象徴する存在だ。初鹿氏は、「デリケートゾーンケア用品は、インターネットでは買うものの、店頭で買うのが恥ずかしいと感じる女性が多い」と分析する。そのため、「普通にカゴに入れても、まるで洗顔フォームや化粧水を買っているかのように特別なものに見えないシンプルでナチュラルなデザイン」を意図的に採用したという。

このプライバシーへの配慮が、顧客からの大きな支持と、予想を上回る店頭での購買につながっている。初鹿氏は、日本チェーンドラッグストア協会主催のJAPANドラッグストアショーでのエピソードとして、「お客様が『マツキヨでもこういう商品出してるんだ、マツキヨってだけで安心感あるよね』と多くの声をいただいた」と紹介。「身近なお店で商品が並んでいる安心感は大きい」とし、マツキヨココカラのブランド力が購買行動を後押ししていることを語った。フェムリサは、「誰にも気づかれずに買える」という安心感を提供することで、店頭での購買というハードルを下げたのだ。


フェムリサ
フェムリサは、女性特有の悩みに寄り添うフェムケア特化のブランドで、「FEM(女性)」と「RISA(笑う)」を掛け合わせた「女性の気持ちを高め笑顔にする」という意味合いが込められている。

商品と共に重要視しているのが、顧客の相談に寄り添う「人」、すなわち専門人材の育成だ。同社は、この専門家として「フェムケアスペシャリスト」を社内認定している。このスペシャリストは、薬剤師、医薬品登録販売者、管理栄養士など、社内の全資格者から選抜されたメンバーで構成され、女性のライフステージ全般にわたる健康課題への適切な対応を目指す。現状(2025年10月時点)の認定者数は約40人であり、そのうち男性は1人である。初鹿氏は、「フェムケアスペシャリストは、男性だからとか女性だからとか関係なく、みんなが持つべき知識として育成している」と、性差なく専門家として向き合う姿勢の重要性を強調する。今後も毎年一定数の認定者を輩出する予定だ。

育成においては、日本フェムテック協会の「フェムテックエキスパート(2級)」認定試験合格を必須とし、妊娠、出産、月経、更年期といった女性の健康課題全般を網羅的に学ばせることとしている。初鹿氏もこの研修と試験を実際に受けたが、「薬学的知識がある薬剤師でも、理学療法や医学分野の話もあり、かなり本格的で難しい内容だった」と振り返る。 知識習得に加え、社内ではフェムケアの相談応対ワークショップが実施され、ケーススタディーを通じて実践的なスキルを習得させている。知識を得ただけではなく、相談応需のワークショップまで受け終わったメンバーを社内認定しているのだ。 このスペシャリストは、顧客からの相談を受けるだけでなく、「スペシャリストに活動を限定するのではなく、全社の協力体制を築き、対応力の底上げを図る必要がある」という考えのもと、その知識を生かして従業員への教育や、社外の健康セミナーでの情報発信も担うことで、社内全体のレベルアップを目指す中心的な役割を担っているのである。


JAPANドラッグストアショー
フェムリサの発売に合わせて、フェムケアに関する専門的な知識を持つ人材「フェムケアスペシャリスト」を育成している(JAPANドラッグストアショーにて)。

●痛みは「見える」か?:経験と知識で寄り添うアドバイスの基準

薬剤師、医薬品登録販売者は、顧客の具体的な相談内容に応じて、商品の提案だけでなく、受診勧奨までを行う。初鹿氏は、相談応対の難しさについて、「例えばデリケートゾーンの痒みであっても、OTC医薬品で対処できる単純な炎症なのか、カンジダ菌などによる感染症が原因なのか、詳しく話を聞かなければ原因は推定できない」と指摘する。カンジダ症が原因の場合、OTC医薬品を塗っても症状は改善せず、病院での専門的な治療が必要となるため、詳細な聞き取りが必須となる。

また、更年期症状においても同様である。顧客が「ホルモンバランスの乱れを整える薬」を求めて来店した場合でも、そのOTC医薬品が本当に症状に合致しているとは限らない。そのため、「今最もつらい症状」が何であるかを詳しく聞き取ることが重要となる。聞き取りの結果、OTC医薬品ではなく、更年期障害のガイドラインなどで選択肢として示されることもあるサプリメントによる対応が適切であったり、あるいは専門医によるホルモン補充療法(HRT)といった治療の方が、症状をより早く、圧倒的に楽に改善できるケースも存在する。

初鹿氏は、「生活習慣病のように、この基準値を超えたらという明確な線引きができないこの分野では、聞き取りによる事例の積み上げと判断が重要になる」と強調する。そのため、研修では、声のかけ方や、どういった場合に受診勧奨を行うべきかの事例をしっかり伝えているという。


●性差・経験を超えた「寄り添い」の必要性

初鹿氏は、JAPANドラッグストアショーで実施した「生理痛の痛み体験」のエピソードを披露した。おなかに電極を貼って生理痛の痛みを再現するこの体験において、男性スタッフが「強」レベルの痛みを体験したところ、「もう無理!」と即座に中止するほどの激痛であったという。この体験から得られた教訓として、生理痛が男性には耐えがたいほどの痛みであること、そして痛みには極めて個人差が大きいため、女性であっても自分が経験していない他者のつらさは「机上の知識」でしかないことを挙げた。初鹿氏は、この事実を踏まえ、性差や個人の経験に関係なく、専門家として全ての患者に向き合い、そのつらさに寄り添うべきだと強調した。

さらに、自身の更年期症状の経験についても言及し、ホットフラッシュのつらさを初めて体験した際、「あの時、患者様にこの状態まで踏み込んでお話ができていたかと思うと、全然できていなかった」と反省したことを明かした。「経験していないことでも、しっかりと寄り添い、話を聞いて差し上げることが、薬剤師にはできなければならない」と、傾聴の重要性をあらためて強調した。


●「知識・傾聴力・人間力」:フェムケア時代の薬剤師に求められる三要素

現時点では、生理用品の売り場など人目のあるオープンな場所でフェムケアの相談に乗るには、顧客の「心のハードルが高すぎる」という課題がある。「商品が並んでいたら、ちょっと行きづらい。そこにいることを他の人に見られるのが嫌だというお客様が多いのが現状だ」という。このため、同社は、鎮痛薬を買いに来た顧客に対し、薬剤師から「このお薬で効果は出ていますか?」など、一歩踏み込んだ声かけを行うことで、相談に繋がる機会を増やそうと努めているという。初鹿氏は、「『何に使われますか?』という確認だけで済ませるのではなく、正しい知識でもう一歩踏み込んで声をかけられるかどうか。そこは、配慮も含めてやっていかなければならない」と、店舗での工夫の必要性を説いた。

フェムケアにおいて、薬剤師は以下の3つの要素を磨くことが求められると初鹿氏は訴える。

知識:女性のライフステージにおける変化や未病対策について、男女問わず正しく理解し、治療から予防まで幅広く対応できる知識を持つこと。

傾聴力:相談しにくい悩みをしっかりと寄り添って聞く力。

人間力:初対面で「この人になら話せるかも」と安心感を持ってもらえるような人間性を磨くこと。

また、男性スタッフにおいても「自分事ではない」と避けず、医療人として積極的に知識を習得し、患者や顧客と向き合えるよう育成を続けているとあらためて強調した。


●「相談してよかった」のために

初鹿氏は、未来の薬剤師である薬学生たちに強いメッセージを送る。「薬剤師は『一番身近な医療人』。お客様や患者様に、『相談してよかった』と思ってもらえるだけの知識とスキルをぜひ身につけてほしい」と、身近な医療人としての自覚を促す。

また、「学生の段階から、家族や友人など身近な人に対し、健康に関する正しい知識や考え方を積極的に共有し、リテラシー向上に貢献してほしい。それが将来の社会的役割につながる」と、若いうちからの啓発活動の重要性を訴えた。

フェムケア推進の最大の課題は、顧客の「心のハードル」である。「これを相談していいのかな?」という不安から、なかなか相談に踏み切れないのが現状だ。初鹿氏は、「このハードルを下げ、誰かの笑顔のために寄り添える社会を実現するためにも、スペシャリストによる啓発活動や、商品開発を通じた情報発信を、今後も粘り強く続けていきたい」と、強い決意を述べた。

同社の取り組みは、ドラッグストアの機能が、単なる商品販売の場から、「最も身近な健康の相談窓口」へと進化を遂げる、その転換期を象徴していると言えるだろう。

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