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薬学の学びを社会へ還元する「おくすり教室」

更新日:7月18日

おくすり教室 代表

大神徳己


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薬学の魅力を社会に広く伝える学生団体「おくすり教室」を立ち上げた大神徳己さん。児童館や地域のお祭りなどでの軟膏調剤体験や薬のメカニズム解説を通じて、薬剤師の役割や社会的な意義を分かりやすく伝えている。活動の経緯や今後の展望などを聞いた。


―― 「おくすり教室」設立の経緯と、活動に至った背景をお聞かせください。

「おくすり教室」の原点は、幼少期に「学ぶ楽しさ」や「科学のワクワク感」に触れた体験にあります。この感動を自身の専門分野である薬学で届けたいという思いから、東京薬科大学の学生団体「キッズ・ラボ」で活動を始めました。しかし、新型コロナウイルスの影響で対面イベントが制限され、活動は応募者限定配信の動画制作が中心となっていました。参加者の反応を直接得られないことに強いもどかしさを感じ、「もっと多くの子どもたちに直接楽しい体験を届けたい」という思いから、2022年4月に独立団体「Light Bulb」を立ち上げたのです。

当初はSNSを通じての実験動画の公開が中心でしたが、大学の後輩からの誘いを受け、児童館での対面イベント開催に初めて踏み出しました。この経験を通して、直接子どもたちと触れ合う喜びと感動を強く実感しました。そして、「科学の楽しさを届ける」だけでなく、「自分たちの専門性である薬学を生かして、もっとユニークで深みのある体験を提供できないか」と考えるようになり、活動の軸を「科学」から「薬学」へと移しました。こうした経緯を経て、団体名も「Light Bulb」から「おくすり教室」へと改め、薬学に特化した活動であることを明確にしたのです。

 

―― 現在の活動内容と、特に力を入れているプログラムについて教えてください。

子どもから高齢者まで幅広い世代を対象とした薬学体験イベントを実施しています。主なプログラムは、白色ワセリンなどを用いてクリームを作成し、薬剤師の業務を体験できる「軟膏調剤体験(ハンドクリームづくり)」です。もう一つは、薬の作用メカニズム解説や残薬・ジェネリック医薬品について、日常生活に役立つ情報を提供する「お薬講座」です。特に高齢者向けには、かかりつけ薬局の重要性やOTC医薬品との飲み合わせといった実生活に直結するテーマが好評を得ています。

現在は児童館からの依頼による出張イベントが多く、地域に根差した活動に広がっており、今後は学校や薬局などでの開催も目指しています。

薬剤師の業務を体験できる「軟膏調剤体験」
薬剤師の業務を体験できる「軟膏調剤体験」
高齢者向けの「お薬講座」
高齢者向けの「お薬講座」

―― 薬学生が薬剤師の役割を社会に広める意義について、どのようなお考えですか?

薬学生が自ら伝え手となることで、「薬剤師=調剤する人」という一般的なイメージを超えた、より本質的な役割を社会に届けることができると考えています。薬の仕組みや副作用、飲み合わせといった生活に直結する知識は、本来薬剤師が積極的に伝えるべきものです。

イベントを通じて、特に印象的だったのが、埼玉県所沢市で開催されている「ところティーンズフェスティバル」での体験です。子どもから保護者、地域の方々まで100人以上が来場し、調剤体験や薬剤師の仕事を身近に感じていただける機会となりました。参加者からは「薬を混ぜるのが楽しかった!」「薬剤師ってこんなことをするんだ!」といった声のほか、社会人の方から「薬局で待ち時間が長い理由が分かった」との感想も寄せられました。

また、児童館での出張イベントでは、薬袋作成や調剤体験などを通して本物に近い形で薬局の仕事を体験できる内容が高く評価され、「子どもたちの体験不足が課題とされる昨今、非常に意義のある事業」とのお声をいただきました。

さらに、高齢者向けイベントでは、かかりつけ薬局の重要性やマイナンバーカードの活用、OTC医薬品・サプリメントとの飲み合わせなど、実生活に直結するテーマが関心を集め、「とても実践的でためになった」と好評をいただいています。私たち薬学生自身にとっても、こうした「伝える経験」は自身の学びを深め、臨床や地域連携への意識を高める貴重な機会となっています。

 

―― 活動資金はどのように調達されていますか?

当初は自己資金で活動していましたが、2024年度に八王子市の学生事業補助金に採択されました。獲得した約10万円の補助金で、イベントを成功させることができました。

現在、法人化を目指してクラウドファンディングを実施しています(2025年8月末で終了。https://camp-fire.jp/projects/848000/view)。また資金調達だけでなく、東京薬科大学の薬学部の研究室と連携したマグカップなどのコラボ商品を通して、薬学の魅力を広げることにも挑戦しています。

 

―― 今後の展望と、薬学を通じて目指す未来について教えてください。

薬学の魅力をより深く伝えていくための展開を計画しています。主な取り組みとして、年齢やニーズに応じた教育プログラムの体系化を進め、持続可能な教育資源を構築していきます。また、現場の薬剤師と協力した地域薬学サロンを開催し、住民が気軽に薬の悩みを相談できる場を設けることで、「予防・服薬・生活支援」を含む幅広い薬学的支援を提供します。さらに、オンラインと対面のハイブリッドイベントを構築し、多様な層への情報発信と交流を目指します。

将来的には、軟膏調剤体験を応用したハンドクリームや化粧品づくりといった体験型プログラムを展開する予定です。「薬学=病気に関するもの」という従来のイメージを超え、「健康や美容を支える学問」としての薬学の側面も伝えていきたいと考えています。地域のサイエンスイベントは「楽しさ」に重点を置くことが多いですが、私たちは「人や社会を助ける」という点に焦点を当てたサイエンスを伝えたいと考えています。

おくすり教室のメンバーとの動画作成の様子
おくすり教室のメンバーとの動画作成の様子

―― 薬学生へのメッセージをお願いします。

地域の方々が関心を持つのは、薬学の専門知識そのものよりも、「薬学生として何を学んでいるのか」「どうして薬学を選んだのか」といった、私たちの日常的な思いや関心だったりします。

もし、将来薬剤師として自分らしいオリジナリティを持って働きたいと考えているなら、地域の方々と実際に触れ合い、社会が何を求めているのかを感じ取れる場所に身を置いてみてください。臨床だけでなく、大学で学ぶ薬学の知識が、実際の生活や社会の中でどう役立つのかを肌で知ることができ、そこから新しい気づきや行動のきっかけが生まれるはずです。

私自身、決して自信のあるタイプではなく、たくさんの失敗を経験してきました。時には自分の至らなさから大切な仲間を失ってしまったこともあります。しかし、どれだけ人の話を聞いたり本を読んだりしても、結局は「自分が経験してみないと分からないこと」の方がずっと多いと今になって思います。

薬学生という時間は、「試して、学んで、間違えて、また立ち上がる」ことが許される貴重な時期です。だからこそ、自分の中にある「これ、やってみたいな」と思った気持ちを大切にして、ぜひ一歩踏み出してみてください。

 

大神徳己(おおがみ・あつき)

2002年生まれ、北海道札幌市出身。東京薬科大学薬学部医療衛生薬学科6年。高校時代は科学部の部長として活動し、日鉄エンジニアリング社とリバネス社が共同開催したエコロジープラントプロジェクト「Mission-E」にて総合優勝と技術賞を受賞。大学進学後、薬学の面白さを伝える学生団体「おくすり教室」を設立し、代表を務めている。「薬学って面白い!」「サイエンスって人の役に立つんだ」という気づきを届けることをスローガンに掲げ、全国でイベントを開催中。趣味は天体観測と動画編集。モットーは「やれるだけのことはやってみよう。止まらなければ、結構進む。」

 

おくすり教室X:https://x.com/lightbulbmirai

おくすり教室Instagram:https://www.instagram.com/lightbulbmirai/


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