【薬局四方山話】医薬品の値段と安定供給
- toso132
- 6月13日
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更新日:7月8日
薬事政策研究所 田代健

この数年間、「医薬品が不足している」という状態が続いているが、その背景には医薬品が「買える値段だが在庫がない薬」と「在庫はあるが高くて買えない薬」とに二極化しているという世界共通の問題がある。
2024年の日本国内の医薬品の売上高は11.5兆円だった。このうち、上位10品目だけで1.2兆円の売上(つまり全体の1割)を占めている。この極端な予算配分のしわ寄せが、特許切れの医薬品(長期収載品や後発医薬品)の限定出荷、出荷調整といった供給問題と直結している。
日本の医薬分業はバブルが弾けた後で本格的にスタートしたため、これまでは「物価は下がる」という環境で誰もが投資を控える中で安定した収益を期待できることを強みとして成長してきた。今、日本の「調剤薬局」は初めて物価上昇を体験しており、さまざまな費用が増えても収入は固定されたままの報酬体系でしのがなければならない。
財務省は、鵜の目鷹の目になって保険給付を節約できる項目はないかと探しており、最近では薬価について2年おきではなく毎年改定することを求めている。薬価収載品の実勢価格(医療機関や薬局に納入される価格)を毎年調査し、薬価差益(薬価と実勢価格との差:これがあれば医療機関や薬局の利益になる)を少しでも切り詰めることによって薬剤費の支出を減らすことが目的だ。医療業界や製薬業界にしてみれば、高いお金を払って在庫を確保しているのに、新年度を迎えるごとに価格を引き下げられてしまうというのは負担が大きく、隔年に戻すことを訴えているのだが、納得できる理由もなく存続している。
政府は薬剤費を抑えるために「後発品の使用率を海外並みに引き上げたい」という目標を従来から掲げていたのだが、医師・薬剤師側は「後発品の品質と安定供給に懸念がある」という理由であまり積極的には切り替えてこなかった。そこで診療報酬や調剤報酬で後発品を使うと加算が取れるように誘導した結果、多くの薬局がそれまでの懸念を無視して後発品を使い始めた。この需要の急増にメーカーが対応しようとして品質管理が疎かになったため、まさに品質と安定供給の問題が火を吹いているのが現状だ。
そもそも、薬剤費はそんなに危険な増え方をしているのだろうか? 実際の伸びを見ると、2025年度の医療費全体の規模は42兆円で、この7年間に1.5兆円近く増加したのだが、その中で薬剤費の増加額は2000億円にすぎない。増加率も医療費全体の増加率(3.62%)より低い(2.25%)。これは保険薬局が後発品の切り替えを進めたことの成果で、薬剤師はこのことをもっと強調して良い。ただし、それが調剤報酬による誘導で需給バランスを欠いた動きだったことはしっかり検証する必要があると思う。
後発品の薬価は、最初は先発品の半額程度で設定され、その後実勢価格に合わせて改定を受けていく。
薬局からは「薬剤費を抑えることが目的であれば、後発品の普及率を上げるよりも先発品と後発品との薬価を揃えてしまう方が早いのでは」という意見があったが、実現することはなかった。ここにきて一部の品目について「基礎的医薬品」や「安定確保医薬品」というカテゴリーが設けられ、ある程度薬価を維持するという仕組みが動き始めた。
下の表は、厚生労働省が毎日更新している医薬品の供給状況で、5月30日時点のデータだが、先発品は通常出荷の割合が高く、後発品は低い。今のところは基礎的医薬品などの通常出荷率が改善している様子はないのだが、今後の動きに注目したい。

今の政府の社会保障の議論は、「お爺ちゃんが病気をして、毎月の治療費が大変なことになっている」という時に、その治療費をお爺ちゃん自身の年金から払うか、息子の給料から払うか、あるいは美容院に行く回数を減らすかというような内容のものが多い。しかし個人ではなく家計全体を考えると、まずは家計の収入を増やさないことには根本的には解決できない。つまり、事態を打開するには「息子の収入をどう増やすか」を考えることが必要だ。日本が高齢化社会の先頭を走っているということは、それだけ国際的なビジネスチャンスが待ち受けているということでもあり、それを日本経済の成長に結びつけるようにどのような分野にどう投資するか?ということが政策としての議論でなければならないはず(家族の例に戻ると、お爺ちゃん用に便利な介助グッズを考案してネットで販売すれば治療費が賄えるかもしれない)で、皆さんには「今は若い国々が将来まねしたくなるような日本の高齢化社会」をデザインするということを期待したい。
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