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- 九州在住の20代〜60代男女に聞く「生理・PMSや“隠れ我慢”に関する意識と実態調査」
株式会社ツムラは、生理のつらさを我慢しなくていい社会を目指す「#OneMoreChoice プロジェクト」の一環として、九州在住の生理を経験した20代〜60代および同年代の男性1,000人を対象に意識調査を実施した。調査結果からは、当事者が抱える「隠れ我慢※」の実態や具体的な症状、周囲とのコミュニケーションのすれ違い、職場や社会の環境的課題など、多角的な実態が浮き彫りとなっている。 ※隠れ我慢:心身の不調を我慢していつも通りに仕事や家事を行うこと。ツムラが定義。 67.6%が生理・PMSを“隠れ我慢”――年代別の傾向と理由 生理を経験した九州在住者のうち、67.8%が生理・PMSに伴うつらさで「日常生活に影響がある」と回答している。さらに、つらさを我慢して普段通りに仕事や家事、学校をこなす“隠れ我慢”を経験した人は67.6%にのぼり、年代別に見ると20代で79.0%、30代で78.0%と若い世代ほど高い割合を示している。 “隠れ我慢”をしてしまう理由としては、「休むと仕事、家事などに支障がでるから」(53.0%)が最多となり、次いで「病気ではなく休むほどではないと思っているから」(35.8%)、「人に心配や迷惑をかけたくないから」(33.4%)、「我慢できる程度だと思っているから」(31.4%)、「我慢するのは当たり前だと思っているから」(28.4%)が挙げられている。 感じる症状と、周囲に理解されにくいもどかしさ 我慢してしまうほどつらい生理・PMSの症状について聞くと、九州在住者では「イライラ感」(24.4%)、「腹痛」(22.0%)、「疲れ・だるさ」(21.4%)、「腰痛」(19.0%)、「眠気」(16.6%)が上位となった。 一方で、「普段感じている症状の中で、周囲に理解されにくいと感じるもの」としては、「イライラ感」(20.0%)、「疲れ・だるさ」(17.4%)、「情緒不安定」(13.8%)、「腹痛」「眠気」(同率で12.0%)が挙げられており、精神的な不調や外見から分かりにくい疲労感などが特に理解されにくいと感じられている。 また、日常生活に影響が出るほどのつらさがある人のうち90.0%が、その度合いが人によって違うことを「知ってもらいたい」と切実に願っている。実際にそれが知られていないことで、「周囲に相談しにくかった」(38.4%)、「職場や学校などで適切な制度や環境が整っていなかった」(23.3%)、「甘えや言い訳だと思われた」(21.6%)、「適切なサポートが受けられなかった」(19.3%)といった深刻な困りごとを経験している。 対人コミュニケーションへの影響と「伝えにくい」理由 生理・PMSに伴うつらさや不調が原因で、人間関係などのコミュニケーションに「支障があった」と答えた人は50.8%にのぼる。その相手は「配偶者・パートナー」(54.3%)や「母親」(28.3%)、次いで「職場の上司・先輩」(21.7%)や「職場の同僚」(19.3%)が多くなっている。 つらさを周囲に「伝えたことがある」人は55.8%いるものの、それを上回る68.7%の人が「周囲に伝えにくいと思ったことがある」と回答している。伝えにくい理由としては、「相手に気を遣わせたくないから」(45.5%)、「自分の症状やつらさを分かってもらえないと思うから」(42.9%)、「自分の症状やつらさを表現・説明しにくいから」(38.2%)、「我慢すべきだと思っているから」(27.0%)などが上位を占めた。地域の特徴として「困っている人に自然に声をかける雰囲気がある」と感じる人が多い一方で、「相手に気を遣わせたくない」という気遣いが逆に本音を言えなくさせる要因となっている。 職場・学校の環境、および男性側の意識のギャップ 職場や学校における制度や環境面では、「制度があり、利用しやすい雰囲気もある」と答えた人はわずか5.8%にとどまった。一方で、「制度・環境がある職場・学校ではない」(23.4%)、「制度・環境があるか分からない」(22.2%)、「制度はあるが、利用しやすい雰囲気ではない」(14.2%)、「制度はなく、休憩・業務調整なども相談しにくい」(10.2%)といった状況であり、十分な環境が整っているとは言い難い。さらに、日常生活に影響がある人のうち、実際に生理休暇を取得したことがある人は7.6%にすぎず、92.4%が取得経験のない状態となっている。 こうした状況の一方で、男性側の意識には変化の兆しもある。九州の男性を対象にした調査では、61.0%が「生理・PMSについてもっと知る機会がほしい」と求めている。しかし同時に、74.6%が「サポートしたいが対応の仕方が分からない」と答えており、知りたい気持ちはあるもののどう行動すべきか迷っている実態が浮き彫りとなった。 なお、生理・PMSのつらさには症状そのものだけでなく、「立ちっぱなし・座りっぱなしの仕事・学業」(26.4%)や「こまめにトイレに行きにくい環境」(24.4%)といった周囲の環境も大きく影響している。一方で、51.6%の人が「周囲の人が体調を気遣ってくれた」「周囲に経験者がいて話しやすかった」などの環境のおかげで我慢せずに済んだ経験も持っている。 無意識のうちに自分を縛る「“隠れ我慢”の5タイプ」 同社の「隠れ我慢チェッカー」に基づく分析では、日頃の考え方や行動の傾向から、無意識の我慢が以下の5つのタイプに分類されている。九州在住の生理経験者では、特に「気遣いさんタイプ」や「頑張りやさんタイプ」の傾向が高くなっている。 気遣いさんタイプ 自分がしたいことを我慢して、周りへの気遣いを優先させるタイプ。一方で、自分勝手にふるまう人の行動にイヤな思いをすることもある。 頑張りやさんタイプ 自分の成長のために我慢を前向きに捉えられるタイプ。一方で、「今のままでいいのか?」という理想と現実のギャップに悩み続け、つらくなってしまうこともある。 敏感さんタイプ 感覚や感情の変化を感じ取りやすいタイプ。「察してほしい」「分かってもらえないかも」という思いから、自分が感じる違和感を周りに伝えられず我慢してしまうこともある。 慣れっこさんタイプ 幼い頃から、何事も我慢で乗り切ることを得意とし、我慢に慣れているタイプ。一方で、我慢が癖になってしまい、気づかぬうちに無理を重ねてしまうこともある。 不調さんタイプ 日常的に不調を我慢しながら過ごしているタイプ。特に女性特有の心身の不調は周囲には理解されにくく、余計に我慢を重ねてしまうこともある。 専門家からのメッセージ 山崎産婦人科小児科医院の産婦人科専門医・後藤薫氏は、不調の程度を「休むほどではない」「我慢できる」で判断するのではなく、「自分は望む状態で毎日を過ごせているか」という視点で考えることが重要だと指摘する。 生理やPMSに伴うつらさやホルモン変動による変化には個人差があり、外からは分かりにくい症状もある。全てを完全に理解することは難しくても、「毎月こうした不調を抱えながら日々を過ごしている人がいるかもしれない」と周囲が少し想像し、必要なときに自然に話せる理解が社会全体に広がることが望まれる。我慢を前提とせず、誰もが自分の体調について声を上げやすく、周囲が自然に受け止められる環境づくりが求められている。
- 薬局の未来と私たちの働き方——物価高・制度改革に揺れる「地域医療インフラ」のゆくえ
2026年10月8日、一般社団法人日本保険薬局協会は、同年7月に閣議決定された「骨太方針2026」などを踏まえ、これからの薬局および薬剤師政策に関する考え方を公表した。全国の薬局が地域医療を支える重要なインフラである一方、現在の経営環境や制度には多くの課題が山積している。将来、医療の現場へ飛び込む学生にとっても見逃せないポイントが詰まっている。 現場を直撃する物価高と、「管理薬剤師」の現状 現在、多くの薬局では人件費だけでなく、調剤資材費や光熱費、システム関連費などの物価高騰が経営を直接圧迫している。同協会は、2027年6月に予定される「調剤ベースアップ評価料」や「調剤物価対応料」の引上げを着実に実施し、経営の安定化を図るよう求めている。 ここで学生が知っておきたいポイントの一つが、「管理薬剤師」の待遇問題だ。薬局には法律上、必ず「管理薬剤師」を置く必要がある。しかし現状は、店舗の管理者という名前だけで、労働基準法上の「本当の経営者サイド(管理監督者)」とは異なり、実際には一般の薬剤師と同じように毎日調剤や患者対応に追われている人が少なくない。それにもかかわらず、現行の賃上げのための評価料では、管理薬剤師が一律で対象外とされてきた。 同協会は、こうした雇用されて現場を支える管理薬剤師もちゃんと支援の対象に含め、必要な財源を確保すべきだと強く訴えている。将来、就職して数年で管理薬剤師を任される可能性もある学生にとって、給与や残業代などの労働環境に直結する切実な問題だ。 「予防医療」と「治験支援薬局」——広がる薬剤師の活躍フィールド 薬局・薬剤師の役割は、処方箋をもとに薬を渡すだけにとどまらなくなっている。 ここで注目したいのが、厚生労働省が掲げる「U.E.N.O. Plan」と薬局のギャップだ。 国は「攻めの予防医療」として、栄養・食生活やがん検診、健康管理などを総合的に推進するこのプランを打ち出している。しかし、日頃から熱中症予防の啓発や血圧測定、健康相談会などを窓口で行ってきたはずの「薬局・薬剤師」の役割が、このプランの中に明確に位置付けられていないという課題がある。同協会は、薬局を地域住民の身近な「健康支援拠点」として、測定や受診勧奨を担う専門職として正式に施策へ位置付けるよう求めている。 また、新しい医療の取り組みとして期待されるのが「治験支援薬局」としての役割だ。海外で承認された新薬が日本で使えない「ドラッグロス」を解消するため、現在は患者が自宅にいながら治験に参加できる「分散型治験」が進められている。治験支援薬局とは、患者の身近な薬局が病院と連携し、個人情報を守りながら治験薬の管理や交付、服用中の安全サポートを担う仕組みである。AIやDXを活用して調剤業務を効率化し、こうした高度なサポートに時間を割く新しい薬局の形が目指されている。 制度の「中」へ声を届ける——これからの医療をどう作るか こうした現場の新しい取り組みや経営実態、DX・設備投資の必要性が、国の政策や診療報酬の改定に十分反映されているとは限らない。同協会は、社会保障審議会の部会や中央社会保険医療協議会(中医協)などの重要な審議の場に、チェーン薬局を含む保険薬局事業者の代表がしっかりと参画できる体制を作るべきだと求めている。 私たちが将来医療の現場に出るとき、そこにある労働環境や薬局の役割は、まさにこうした日々の政策議論や制度改革の積み重ねのうえに成り立っている。地域医療の第一線を守る薬局がどう変わり、どう支えられていくのか。これからの医療を担う世代としても、注目していきたい動きである。
- 資生堂銀座本店で「就活ヘアメイクセミナー」開催!プロの技で第一印象を磨く実践型プログラム
資生堂銀座本店「SHISEIDO THE STORE」は、就職活動を行う学生や転職希望者を対象とした「就活ヘアメイクセミナー」を2026年11月28日に開催する。 近年、対面・オンライン面接のいずれにおいても第一印象や清潔感あふれる身だしなみの重要性が再認識されている。同セミナーは、プロのヘアメイクアップアーティストが面接やエントリーシート(ES)の写真撮影で好印象を与えるポイントを直接指導する実践型プログラムだ。 自ら体験しながら学べる実践的なアプローチ 同イベントは単なる講義形式にとどまらず、参加者自身が実際にヘアメイクを試しながらプロからの個別の指導・アドバイスを受けられる点が大きな特徴である。各自の魅力を最大限に引き出し、就職活動に自信を持って臨めるよう資生堂の美容知見と技術でバックアップする。 イベント開催要項 開催日時 2026年11月28日(土) ① 10:00~12:00 / ② 14:00~16:00 会場 SHISEIDO THE STORE 4F THE LOUNGE(東京都中央区銀座7-8-10) ※会場入口は中央通り側エントランスと異なる点に注意が必要。 対象者 就職活動中の学生、既卒者、転職活動中の方など 定員 各回30人(先着順・事前予約制) 参加費 5,720円(税込) ※「SHISEIDO メーキャップ HANEN FUDE アイ シェーディング ブラシ」および「HASU FUDE ファンデーション ブラシ」の商品代金を含む。 申込み方法とアクセス情報 同セミナーは先着順の事前予約制であり、各回定員に達し次第受付を終了する。 予約申し込み: SHISEIDO THE STORE セミナー予約ページ 会場案内: SHISEIDO THE STORE アクセス お問い合わせ: 03-3571-7735(代表)
- 全体最適とデータを起点に医療の未来を切り開く〜研究×IT×臨床を歩んできた薬剤師の挑戦〜
広井嘉栄 株式会社ファルモ 代表取締役社長 「薬剤師の仕事って、本当に調剤と服薬指導だけ?」「これからの薬局業界はどう変わっていくんだろう?」といった不安や疑問を感じてはいないだろうか? 今回は、薬学部卒業後にIT企業へ進み、大学病院や研究機関での医療情報研究、さらには薬局現場での実務経験を経て、電子お薬手帳や調剤情報連携プラットフォーム等の医療DX事業を展開する株式会社ファルモを創業した代表取締役社長の広井嘉栄氏にインタビュー。医療情報の標準化がもたらす可能性、現場で感じた構造的な課題、そして未来の医療を支える薬剤師の役割について、詳しく話を聞いた。 ―IT企業へ就職された経緯を教えてください。 大学時代はあまり学校に通っておらず、国家試験に受かるとは思っていませんでした。友人も限られていたので、周りと進路を比べて悩むこともありませんでしたね。そんな私にとって大きな転機となったのが、卒業研究で国立小児病院(現・国立成育医療研究センター)の研究室に入り、遺伝子解析に携わったことでした。 当時、大量の遺伝子シーケンスデータを扱う必要があり、独学でプログラミングを学び始めました。膨大なデータをコンピュータで解析する面白さに魅了され、「これからはITかもしれない」と感じていたのを覚えています。 もし薬剤師になれなかったらどうするか。薬学のバックグラウンドを生かしながら、新しいことに挑戦できる職場はどこか。自分の強みがより生きる環境を必死に考え続けた末にたどり着いたのが、卒業研究を通じて関心を持ったIT関連の企業でした。 結局、国家試験には何とか受かったんですけどね。今振り返ると、「国試に落ちる」と思い込んでいなければ、まったく違う人生を歩んでいたと思います。 ―IT企業での勤務から、大学や財団での医療情報研究へと進まれた理由は? IT企業へ入社後、神戸で行われていた医療関連の共同研究プロジェクトに派遣されました。しかしプロジェクトの途中で、会社の事業戦略変更に伴い撤退が決定してしまったのです。その際、会社に戻って別の業務に携わるか、会社を退職して現場に残り研究を続けるかという二択を迫られました。 相当悩みました。ただ、「迷ったときはつらい方を選ぶ」と決めていたこともあり、会社を辞め、研究を続ける道を選びました。 当初は遺伝子情報と臨床情報の関係を調べていましたが、解析に必要な臨床情報を集めること自体が難しかったのです。医療機関ごとにデータの形式が違い、施設の外に情報を出すことにも高いハードルがありました。だとするとまずは情報を共有し、比較できる状態にする必要があると考え、「医療情報の標準化」の研究に取り組むようになりました。 ―「医療情報の標準化」とは、具体的にどのようなもので、なぜ重要なのでしょうか? 分かりやすく言えば、「異なるメーカーのシステム同士で、医療情報を同じ意味で扱えるようにするためのルールづくり」です。病院内には電子カルテ、検査・放射線・薬剤などの部門システム、レセプトコンピューターなどがあります。データの形式や項目名、コード体系が異なると、ほかの病院や薬局に情報を送っても、項目の意味を正しく対応づけられず、連携やデータの比較が難しくなります。 そこで、「HL7(Health Level Seven)」などの医療情報の標準規格を活用してデータの形式をそろえ、項目の意味やコード体系にも共通のルールを整えます。こうした標準化が、医療機関や薬局の情報連携、データを用いた研究の基盤になります。 当時はこのHL7を活用したデータ交換インフラの研究に専念していました。 ―その後、研究者にとどまらず起業を選択された背景には何があったのですか? 医療情報の標準化研究は学術的に大変意義深く、論文としての評価も得られました。しかし、一方で強いジレンマを抱くようになったのです。いくら優れたデータモデルや規格を提案し、論文を書いたとしても、それだけでは実際の医療現場で使われることはなく、世の中の仕組みは変わりません。「机上の空論で終わらせず、真に世の中に役立てるためには、自分たちの手で事業化し、システムとして社会実装するしかない」と確信したのが起業の原点です。 その後、拠点を東京に移し、東京医科歯科大学での特任助教としての研究活動、薬局の臨床現場での調剤業務、さらにはプログラミングの受託開発という“三足のわらじ”を履く生活を送りました。生活基盤を維持しながら事業構想を練り、2012年に株式会社ファルモを創業しました。挑戦にあたっては、万が一失敗しても薬剤師として現場に復帰できるという「薬剤師免許によるリスクヘッジ」があったからこそ、果敢にリスクを取ることができたと感じています。 ―研究や事業開発と並行して「薬局の現場」に立った際、どのような印象を持たれましたか? 薬局の臨床現場に立ってあらためて感じたこととして、「患者が病気になり、処方箋を持って来局しないと収益が上がらない構造」になっているという点でした。当たり前ですが、薬局経営の観点からは「多くの患者に来てほしい」「処方箋枚数や調剤を増やしたい」という動機が働きます。しかし、社会全体の福祉や患者の幸せという観点から見れば、「人々が病気にならず健康であり続けること」が最善のはずです。 例えば、近年話題となるポリファーマシーに対する加算制度も、「薬を出しすぎる構造」が前提にあるからこそ生まれる対症療法的な評価です。医療従事者一人ひとりが自分の担当領域で「個別最適」を求めて努力した結果、システム全体としては無駄な医療費が膨らむという矛盾が生じていると感じます。医療の評価軸を「量」から「質や成果(アウトカム)」へとシフトさせ、提供された医療価値に対して適切な報酬が配分される構造へ改革しなければならないと強く感じました。 ―その違和感を打破するために、なぜ「薬局の調剤情報」に着目されたのですか? 感情論や理想論だけで医療システムを変えることは不可能です。地域の限られた人手や医療資源を生かし、患者に必要な医療の質と、地域医療の持続可能性を両立させるためには、まず関係者が同じ事実を見て話し合えることが大切です。医療情報の研究に携わるなかで、その共通の事実となる「地域医療の地図」をどう作るかを考えてきました。個々の施設の情報だけでは、地域全体の姿は見えてきません。地域を広く捉えるには、現場に負担をかけず、共通のデータ形式で継続的に情報を集められる仕組みが必要です。 その視点で医療現場を見渡したとき、最も標準化が進んでいて、日々の診療に近く、収集しやすいと考えたのが、薬局の調剤情報でした。処方元、薬剤、用法、投与日数などが記録され、一つの薬局にも複数の医療機関から処方箋が集まります。地域の薬局の情報をつなぐことで、個々の施設だけでは見えにくい処方実態や薬剤の使用傾向を捉えられると考えました。 もちろん、調剤情報だけで、実際の服薬状況や治療の成果まで分かるわけではありません。それでも、地域でどのような薬物治療が行われているかを共有し、課題を話し合うための土台になります。さらに、副作用や検査値などの情報と適切につなぐことで、次の医療に生かす手がかりが得られます。 そこで、研究で培った標準化の経験を生かし、各薬局のレセコンと連動して、できる限り現場の手間を抑えながら調剤情報を自動収集・集積する基盤「ファルモクラウド」を構築しました。全国の薬局は約6万3,000施設ありますが、2026年7月時点で1万5,000店舗を超える薬局に導入いただいています。 現在は、自治体、保険者、日本薬剤師会、大学・研究機関などと連携し、この基盤を地域の課題把握と改善に役立てています。北海道名寄市では、地域薬剤師会や基幹病院とともに、調剤情報から地域の抗菌薬使用状況を可視化し、薬剤耐性(AMR)対策に活用しています。 兵庫県姫路市では、2026年6月から、姫路薬剤師会が主体となる実証事業に技術面で協力しています。姫路市の支援のもと、調剤情報から地域の抗菌薬使用状況を把握し、適正使用に向けた啓発などに役立てる取り組みです。 山形県酒田市では、地域として推奨する医薬品リスト「地域フォーミュラリ」の策定・運用に、処方実態のデータを提供しています。医療費の削減だけを目的とせず、関係者が同じデータを見ながら、地域でどのような薬物治療を推奨するかを話し合うための取り組みです。 いずれも、情報を集めること自体が目的ではありません。関係者が同じ事実をもとに話し合い、地域に必要な医療をともに考えていく。その出発点を薬局が作っています。 ―どのような未来を目指していますか? 私たちが目指すのは、薬局ネットワークを通じて集積されたデータが、医療政策の立案、新薬の開発、そして個々の患者へのパーソナライズされた医療提供へとシームレスに還元される社会です。「病気になったら行く場所」だった薬局を、「地域の健康データが集まり、予防と治療最適化を支える情報拠点」へと再定義したいと考えています。 ―これからの時代、薬剤師や薬局にはどのような役割が求められるでしょうか? 単に処方箋通りに調剤し、薬を渡して服薬アドヒアランスを確認するだけの業務は、ロボットやAI、DXテクノロジーによって代替されていくでしょう。 これからの薬剤師に求められるのは、「薬を服用した結果、患者の状態がどう改善したか(アウトカム)」にまでコミットし、臨床現場で得られた貴重なリアルワールドデータを次の医療発展のためにフィードバックしていく姿勢です。 現場の薬剤師自らが「研究者」や「データサイエンティスト」の視点を持ち、ステークホルダーが求める質の高いデータを現場から発信する。単なる「調剤の作業場」から「地域医療データ・臨床知見の集積拠点」へ――。薬剤師という強力なライセンスをベースに、自分自身で新しい存在価値を自ら創出していく必要があると考えています。 ―最後に、薬学生が学生時代にやっておくべきことや、アドバイスをお願いします。 薬学生の皆さんにお伝えしたいアドバイスは2つあります。 1つは「自分だけのリアルな経験(話のネタ・引き出し)」をたくさん作ることです。 教科書を開いて知識を詰め込むだけの勉強にとどまらず、アルバイト、旅、趣味などを通じて、リアルな世界での実体験を貪欲に増やしてください。将来、社会に出て多様な人々と人間関係を築く際、豊かな実体験から生まれる「話のネタ(思考の引き出し)」は強力な武器になります。専門知識の勉強は社会人になってからでも追いつけますが、学生時代の自由な時間を使った一見無駄に見えるような経験が、後にかけがえのない大切な宝物(自分の判断軸)になります。 もう1つは課題にぶつかってもあきらめずに考え続ける姿勢を持つことです。 私の大好きな漫画『スラムダンク』に登場する安西先生の名言通り、「あきらめたら そこで試合終了ですよ…」です。 勝つことを目指すのは大前提です。それでも、勝利が遠く感じられる試合はあります。そんなときも、目の前の1本を決める、相手の攻撃を止める。最後まで、勝つために自分ができることを考え、やり切る姿勢を大切にしてほしいと思います。勝ち負けではなく、姿勢が大切なのです。 人生は長期戦です。一度の成功や失敗で、全てが決まるわけではありません。大切なのは、長い目で見て、自分が幸せだと思える方向へ進んでいるか。そして、そこに近づくための行動を取れているかです。経験を通じて自分なりの判断の軸を育て、その軸を頼りに挑戦する。成功や失敗から学び、また自分の進む方向を微調整する。その繰り返しを大切にしてほしいと思います。 広井 嘉栄(ひろい・かえい) 株式会社ファルモ代表取締役社長。薬剤師。東京理科大学薬学部卒業後、IT企業へ就職。神戸大学医学部附属病院技術員、先端医療振興財団研究員、東京医科歯科大学特任助教等を経て、東北大学にて博士(医学)を取得。研究・IT・薬局臨床を並行して経験し、2012年に株式会社ファルモを創業。東京理科大学薬学部客員研究員も兼任。
- 薬祖神例大祭が開催 —「くすりの街」日本橋に息づく歴史と祈り—
毎年「薬と健康の週間」に合わせて全国各地で執り行われる薬祖神祭。製薬企業や関連企業が集まる日本橋(日本橋室町の「福徳の森」)に鎮座する薬祖神社において、2026年は10月16日(金)に例大祭が執り行われた。 薬祖神が日本橋に祀られた由来 日本橋本町一帯は、江戸時代から薬種問屋が軒を連ね、現在に至るまで多くの製薬企業の本社や支社が集まる「くすりの街」として発展してきた。 古くからこの地の薬品業界では、医薬の祖神である大己貴命(おおなむじのみこと)と少彦名命(すくなひこなのみこと)を深く崇敬していた。こうした背景から、1929年に関係団体である東京薬種貿易商同業組合(現・東京薬事協会)が、上野の五條天神社から薬祖神の御霊をお迎えし、組合ビルの屋上に神社を創建したのが日本橋における薬祖神の始まりである。その後、2016年には日本橋室町の「福徳の森」の一角へ遷座され、今なお「くすりの街」の守り神として大切に祀られている。 薬祖神社 式典と厳かな神事の様子 当日は好天に恵まれ、境内は多くの参拝客や日本橋界隈の製薬企業に勤める人びとで賑わいを見せた。午後1時より執り行われた神事では、五條天神社宮司が斎主を務め、無病息災、病気平癒、業界発展などを祈願した。続いて、薬祖神奉賛会副会長の中島孝氏による祈願詞奏上に続き、薬祖神奉賛会の役員や来賓、会員事業主が玉串奉奠を行った。 五條天神社宮司による祝詞奏上 式典の様子 華やかな祭りの雰囲気と直会 神社の前には例年通り、協賛団体・企業の名が書かれたちょうちんがにぎやかに並び、祭りの雰囲気を一層演出した。 式典終了後には、近隣にある東京薬事協会へと会場を移して祝宴(直会)が催され、出席者同士の懇親を深めた。また、東京薬事協会内では参拝客にお汁粉が振る舞われ、秋晴れの心地よい気候の中、参拝に訪れた多くの人びとを楽しませた。
- 薬剤師の役割と専門性を発信、3団体が「3つの安心」をテーマに共同広告を実施
日本薬剤師会、日本保険薬局協会、日本チェーンドラッグストア協会の3団体は、昨年度に引き続き、薬剤師の専門性や役割に対する理解を深めることを目的とした共同広告を実施すると発表した。掲載日は2026年10月17日であり、毎日新聞全国版の朝刊に掲載される。 共同広告の背景と目的 高齢化の進展や医療の高度化に伴い医療を取り巻く環境が変化する中、薬剤師は調剤や医薬品の提供にとどまらず、健康相談やセルフケア・セルフメディケーションの支援を行っている。さらに、疾病の予防や治療の継続、重症化予防など、地域住民の健康を幅広く支える役割を担っている。 今回の企画では、こうした薬剤師の役割を「3つの安心」を通じて分かりやすく発信し、薬や健康に関する身近な専門家として気軽に相談できる認知を広げることを目指している。 「3つの安心で守る。」共同広告の詳細 今回の広告では、さまざまなシチュエーションで薬剤師が患者や一般の人と対話する様子を描き、温かさと誠実さを感じさせるデザインを採用している。広告で掲げられている「3つの安心」の具体的な内容は以下の通りである。 薬歴などを確認しながら使い方や注意点を丁寧に説明し、安全で適正な使用を支援するのが特徴である。 一人ひとりの体調や症状を確認して適切な市販薬(OTC医薬品)選びをサポートし、セルフケアやセルフメディケーションを支援する。 生活習慣や健康に関する不安などの相談に応じ、必要に応じて医療機関への受診を勧めるなど、身近な相談先として健康維持や疾病予防を支援する。 3団体は、今後も全国の薬剤師とともに、国民の健康な生活を支える役割を果たしていく方針を示している。
- 第19回OTC医薬品普及啓発イベント開催――「自分の健康は自分で守る」時代のセルフメディケーション
2026年10月2日(金)・3日(土)の2日間にわたり、神田明神文化交流館EDOCCOをメイン会場に「第19回OTC医薬品普及啓発イベント」が開催された。「今こそセルフメディケーション、さあ実践。」をテーマに掲げた本イベントは、日本一般用医薬品連合会や東京薬事協会など5団体の主催によるもの。OTC医薬品の正しい知識や役割を広く普及・啓発し、国民の健康増進に寄与することを目的に、会場展示に加えてYouTubeでの生配信も行われるハイブリッド形式で実施され、2日間で約6,500人もの来場者が訪れる大盛況となった。 小池氏 中井氏 オープニングセレモニーには豪華な顔ぶれが揃った。東京都知事の小池百合子氏は「人生100年時代、日本の長寿は世界に誇るべき素晴らしい宝です。江戸時代から続く『養生』の知恵と薬の適切な使用を通じ、自分の健康は自分で守るという基本をこのイベントで深めてほしい」と語りかけ、セルフケアの意識向上を力強く呼びかけた。続いて登壇した厚生労働省審議官の中井清人氏も「セルフメディケーションにはリテラシーを高めて正しく薬を使うこと、そして専門家に寄り添ってもらいながら必要に応じて医療につなぐという二つの側面があります。今後は電子カルテ共有サービスなどを通じ、地域で健康を見守る体制を後押ししていきたい」と語り、行政側からの手厚いサポートを約束した。 熱気に包まれたステージでは、東京都医師会会長の尾﨑治夫氏と、龍角散のCMでもおなじみの新橋芸者・喜美勇(きみゆう)さんによるスペシャル対談が行われた。尾﨑氏は「超高齢社会を迎える中、何でも医療機関に頼るのではなく、簡単な不調なら自分で治そうという姿勢が大切になります」と切り出し、日頃の健康管理から検査、禁煙、食事、運動、そしてOTC医薬品の適切な活用に至る「セルフケアの7本柱」をわかりやすく解説した。特にがん検診の受診率向上について触れ、「早期がんは無症状のうちに見つけるからこそ9割近く治るのです。症状が出てからでは遅いということを知ってください」と強調した。これに対し、日頃からヨガなどで体調を整えているという喜美勇さんは「症状が出ないうちに検診を受ける大切さを、私も周囲にしっかり伝えていきたいです。私は本当に元気印で、本日も風邪ひとつ引かず元気に参加できてうれしいです」と弾けるような笑顔を見せ、会場からは温かい拍手が送られた。 スペシャル対談の様子 会場内の出展ブースも、来場者と専門家が直接触れ合う活気にあふれていた。特に注目を集めたのが、イベント実行委員でもあるみどり薬局管理薬剤師・坂口眞弓氏による「検体測定室」のコーナーだ。ブースでは1日100人、2日間で200人もの参加者が指先からの微量採血によるヘモグロビンA1c測定を受けた。坂口氏は「測定自体はわずか6分ほどで出ます。糖尿病の重要な指標となる数値をもとにその場で結果をお伝えし、適切なアドバイスや生活指導を行っています」と現場の様子を語った。さらに坂口氏は、単に測定を行うだけでなくアンケート調査も実施。過去に実施した「地域住民のセルフメディケーション支援と薬剤師への相談行動」に関するアンケート調査では、「症状が出た際に医療従事者から勧められた行動を選択した人が8割以上にのぼりました。専門家の助言は、住民の方々のセルフケアを後押しするうえで極めて大きな力を持っています」と、地域薬局が果たすべき重要な役割を力強く訴えた。 前列、真ん中が坂口氏 また、千葉大学のブースでは、大学院客員教授の久保田洋子氏らにより、肌水分量や自律神経のほか、口腔機能を測る「パタカラ測定」や「舌圧測定」が実施された。久保田客員教授は「日常生活ではなかなか測れないデータばかりですので、高齢社会に向けて生き生きと長生きしていただくための具体的なアドバイスをお伝えしています」と説明し、来場者の口元の健康維持をきめ細やかにサポートしていた。 千葉大学のブース 日本チェーンドラッグストア協会による発信も行われ、10月6日の語呂合わせ(とう・ろく)にちなんで制定された「登録販売者の日」や、身近な薬の専門家としての登録販売者の役割、さらにはセルフメディケーション税制の活用について、体験型のクイズを交えた啓発活動が展開された。楽しみながら学べるクイズを通じて、日常の健康相談に応じる専門職の存在や税制の仕組みへの理解が深まり、訪れた来場者が熱心に耳を傾ける姿が見られた。 日本チェーンドラッグストア協会のブース さらに神田明神の境内では、協賛企業のマスコットキャラクターたちが大集合し、訪れた家族連れや参拝客を巻き込んでイベントを明るく盛り上げた。 昨今、一部の薬の保険適用除外などが議論される中、尾﨑氏は「単に制度を変えるのではなく、皆さんが自分の体に向き合い、正しく知識を持ったうえで自立してOTC医薬品を選べるようになるプロセスが何より大切です」と話した。自分の体の声に耳を傾け、適切な知識と専門家のサポートを受けながら健やかに生きる――そんな新たなセルフケアのあり方を力強く発信する、充実した2日間となった。
- 「八王子やくぜん麻辣湯」給食提供へ──東京薬科大学×八王子市学校給食 コラボメニュー初試作会を開催
東京薬科大学薬学部 漢方資源応用学教室の皆さん 東京薬科大学と八王子市が包括連携協定のもと実施する「食育事業」の一環として、市立小・中・義務教育学校の給食メニュー「八王子やくぜん麻辣湯」の共同開発が本格始動した。2026年10月6日には、学校給食センター南大沢にて初の試作会が開催された。 今回のプロジェクトには、東京薬科大学薬学部・漢方資源応用学教室の4年生5人が参加している。学生たちは大学で日々学んでいる漢方や生薬の専門知識を生かし、レシピ案や食材の提案を行った。 「体を作る食材に興味を持ってほしい」──薬学生の思いとメニューの工夫 事前のヒアリング・打ち合わせを経て、学生たちの食材案をもとに学校栄養士が再現レシピを作成し、試作会では実際の調理と試食が行われた。開発にあたっては、「子供たちの食べやすさ」と「薬膳らしさ」の両立が目指された。 麺には子供たちに親しみやすく満足感のある「中華麺」を採用している。スープは鶏白湯や清湯をベースに、体を温め胃腸を助ける生姜や、セサミンを含み老化防止などが期待される白ごまを合わせ、麻辣湯らしい辛味をほんのり加えた優しい味わいに仕上げられた。 厳選された11種類の推し食材には、タンパク質とビタミンB1が豊富な豚肉、八王子の「8」と足の数「8」をかけたタコのほか、ホタテ、小松菜、れんこん、崩れにくく味が染みやすい高野豆腐などが並ぶ。さらに、生姜や白ごま、キクラゲなどを通じて、「普段の食事で使う食材にも生薬の仲間があり、体に良い効果がある」ことを子供たちに身近に感じてもらう狙いもある。 身近な食材が生薬であることを伝えたい──学びを生かした薬学生のこだわり 参加した学生たちは、小学生の舌に合う味付けと自分たちの好みのギャップを考慮することに難しさや面白さを感じつつ、「普段の生活では生薬というと薬のイメージが強いが、身近に食べられている食材も実は生薬であり、薬にも使われているということを小学生に知ってもらえたらうれしい」と語っている。 また、子供たちに向けて「食べたものは毎日元気に過ごすためのエネルギーになる。自分の体をつくる食材に興味を持ちながら、バランスよく食べて健康で楽しい一日を過ごしてほしい」との思いを寄せている。 試作会での実践と、学生たちが実感した「給食の裏側」 意見交換の様子 10月6日の試作会で学生たちはエプロン姿でテーブルを囲み、学校栄養士が再現した2種類のスープ案(味噌・豆乳仕立ての清湯ベース、醤油・塩味の白湯ベース)や具材を実際に味わいながら、一連のレシピ検証に参加した。 試食中、学生たちからは「清湯スープの方が味噌のコクや生姜の風味がよく効いていておいしい」「高野豆腐にスープの味がすごく染み込んでいておいしい」といった率直なリアクションが上がった。 また、試作会の中で「薬膳としての推し食材ベスト3」を尋ねられると、学生たちは「体が温まる生姜や、生薬に通じるゴマ、キクラゲ」を『これぞ薬膳』という上位の食材として回答した。さらに、「生姜はすりおろすより刻んで入れた方が、風味がより引き立つのではないか」「低学年の子供には少し辛すぎるかもしれないので豆板醤を調整した方が良さそう」といった意見を出したほか、調達コストや数の問題でタコの使用が難しいという説明を受けて、「それならイカやエビなどの海鮮を入れるのはどうか」と代替の食材案を提案するなど、子供の食べやすさや現場の制約にも配慮しながら活発に意見を交わした。 実際に味や食材を細かく検証しながら栄養士と向き合った学生たちからは、プロジェクトに関われた喜びや手応えとして、「実際に話を聞いたときはこんな大きなことになるとは思っていなかったので驚いた」「自分たちが選んだ食材や小学生に食べてほしいと願ったアイデアが形になり、一つのプロジェクトに関わることができて本当にうれしい」といった声が聞かれた。また、「子供たちもきっと気に入ってくれるはず」という力強い期待も寄せられている。 さらに、試作会を通じて学校給食の裏側を知る貴重な経験となり、「小学生の頃は何げなく当たり前のように食べていたが、学校の栄養士の方々がこんなふうに試行錯誤してメニューをつくってくださっていることを知れて非常に良い経験になった」と感謝を口にしていた。 試作会で用意された「八王子やくぜん麻辣湯」 食育・キャリア教育への広がりを見せるプロジェクト 八王子市教育委員会学校教育部学校給食課の安齊祥江氏は、今回の取り組みについて次のように語っている。 「学生さんたちが自ら学んだ食材のパワーや知識を、子供たちに伝えてほしいという思いから企画しました。今回の取り組みは単に『麻辣湯を提供する』ことにとどまりません。麻辣湯はお店で好きな具材を選んで食べる料理ですが、今回は薬学生の知恵を借りることで『今日は疲れ気味だから疲労回復に役立つ食材にしよう』というように、自分の体調に合わせて食材を選ぶ考え方(食育)を子供たちに届けたいと考えています。さらに、地元の大学で薬学を学ぶお兄さん・お姉さんの姿を通して将来の目標や仕事について考える『キャリア教育』や、八王子ならではの取り組みを通じた地域愛の醸成など、多様な学びにつなげていきたいです」 全校提供に向けた歩みと、ご当地グルメとしての未来 市内の全市立小・中・義務教育学校107校での給食提供は、2027年1月が予定されている。提供当日に向けて食育メモや、学生たちのメッセージを盛り込んだ掲示用パワーポイント資料の作成が進められるほか、開発に携わった薬学生が実際に学校を訪問し、児童・生徒と交流給食を行う計画も進められている。 さらに今後は学校給食にとどまらず、市内の飲食店やイベント等での「八王子麻辣湯」としての市販化・ご当地グルメ展開も視野に入れた取り組みが進められていく。
- 薬局は「薬を受け取る場所」だけではない―カケハシの「生活者の薬局活用実態調査」から見えた可能性
株式会社カケハシは、生活者がどのように薬局を活用しているかの実態を把握するため、「生活者の薬局活用実態調査」を実施した。同調査により、処方薬の自己判断による中断や、薬剤師によるサポートの利用実態が明らかになっている。 約4割が処方薬の自己判断による中断を経験 病院で処方された薬について、症状が和らいだ・治ったつもりになったなどの理由で、自己判断で服用を中断したことがあるか尋ねたところ、「よくある」が10.6%、「たまにある」が33.6%となり、合わせると44.2%の人が中断経験を持つことが分かった。一方で、「ほとんどない」は23.6%、「まったくなく、常に最後まで飲み切る」は21.1%であった。服薬中の困りごとを気軽に相談できる機会として、薬局の活用が求められている。 残薬の調整経験は約2割にとどまり、大きな伸びしろが存在 残薬がある際、薬剤師に申し出て処方量を調整してもらったことがある人は19.9%であった。残薬があれば薬剤師に相談して調整できることを知っている人は約7割いるものの、「残薬があっても薬剤師に申し出たことはない」人が44.1%、「制度を知らなかった」人が26.4%存在し、さらなる活用余地がある。 多様なサポートの認知・活用にも広がる可能性 直近1年以内に薬局を利用した際、薬の手渡しや最低限の説明以外のサポートを受けた経験について尋ねたところ、多様なサポートが行われている実態が浮かび上がった。 他の病院の薬や市販薬との重複・飲み合わせの確認や指摘を受けた人は16.4%であり、電話やLINE等による服薬後のアフターフォローを受けた人は14.7%であった。また、未病・予防ケアについてのアドバイスを受けた人は12.7%で、家族の薬の管理や服薬についての相談をした人は4.5%にとどまった。 このように、薬局は単に処方薬を受け取る場所にとどまらず、患者の治療や服薬を支える多様な役割を担っている。今後は服薬フォローシステムの普及なども通じて、薬局が地域の健康を支える身近なパートナーとしてさらなる価値を発揮していくことが期待される。 【調査概要】 調査名称:「生活者の薬局活用実態調査」 調査対象:15歳以上の男女 979名 調査期間:2026年6月25日〜6月30日 調査方法:インターネットリサーチ
- 「調剤の外部委託」が引き起こす薬局構造改革――対物業務の効率化で変わる薬剤師の未来
2026年10月7日から9日、幕張メッセにおいて日本最大級の医療・介護・ヘルスケア総合展示会「第9回 メディカルジャパン 東京(医療・介護・薬局 Week 東京)」が開催された。同イベント内のセミナー「次世代薬局 EXPO」では、令和9年(2027年)5月に迫る「調剤業務の一部外部委託」の全国解禁を見据え、薬局経営と薬剤師職能の根本的な構造改革をテーマとした特別講演およびパネルディスカッションが行われた。 対物から対人へ――調剤の一部外部委託が開く薬局の新しい道 1. 限界を迎える従来の調剤モデルと「対人業務シフト」の危機 超高齢社会が極まる2040年に向け、膨れ上がる地域医療・介護ニーズに対し、従来の「医師が処方し、薬剤師が薬を渡すだけ」という固定化された運用では地域を支えきれないと、一般社団法人日本在宅薬学会理事長でファルメディコ株式会社代表取締役の狹間研至氏は提言した。本来の医薬分業の趣旨は、薬理学や薬物動態学に基づく薬剤師の専門性を発揮し、投与後の患者状態の確認、服薬後のアセスメント、医師へのフィードバックを行う「協業的医療」にある。 しかし、従来の手作業に依存した対物業務を抱えたまま対人業務を強化しようとすると、過重労働を招きかねない。実際に現場では離職率が86.5%に達したり、社内で寝袋や炊飯器が発見されるほどの疲弊が生じた実情が明かされた。この過酷な現場負担を解消し、「薬剤師が専門性を発揮するための時間・気力・体力を捻出する構造改革」こそが、調剤業務の一部外部委託を推進する真の目的であると説明された。 2. 昭和35年制定の法律の「趣旨」に立ち返る――特区実証から法改正へ 薬剤師法第19条や薬局設置規制は昭和35年(1960年)に制定されたものであり、当時は医薬品の品質や安全性を物理的に担保することが最重要課題であった。現代において国民の健康な生活を確保するためには、法律の文字通りに縛られるのではなく、「法制定の本来の趣旨」に立ち返る必要がある。 このような観点から、大阪府・大阪市と共同で国家戦略特区事業を立ち上げ、38社(当時)によるコンソーシアムを結成して実証事業に踏み切った。薬局DX推進コンソーシアム標準連携データ仕様書「CSData」を開発することで、受託薬局側でのデータ再入力を不要にし、完全電子化された安全な一包化プロセスを確立した。特区内で積み重ねた3,000件超の実証データと「調剤事故ゼロ」の実績が後押しとなり、令和7年(2025年)5月の改正薬機法成立、そして令和9年(2027年)5月20日の全国施行へと結実した。 3. 改正薬機法の要点と「第2弾特区」で狙うさらなる規制緩和 改正薬機法では第9条の5等において「特定調剤業務」の委託が規定された。法制化に際し、現場のネックであった「患者の書面(署名)による同意」が不要となり、初回時の包括的な説明で対応可能となるなど大幅な運用の簡素化が図られた。さらに政令の改定により、錠剤の一包化のみならず「一包化に付随する内服薬の調剤(同一時点で服用する散剤の分包品など)」まで委託範囲が拡大された。 今後の展望として、特定調剤業務は政令で定義されるため、法律本体を改正せずとも柔軟に委託範囲を広げられるメリットがある。現在、コンソーシアムでは「第2弾特区提案」として、以下の実証を申請中である。 一包化しない医薬品の調剤業務の実施(※計量が必要な調剤業務を除く) 一包化した内服薬とその他の医薬品、および特定保険医療材料等との同封業務の実施 受託薬局から患者宅等への直送の実施 一包化しない医薬品(上記1と2)については、遠隔監査が困難な場合は直送先での監査の実施の予定 狹間氏は「外部委託は単なる外注化ではなく、時間ができた薬剤師が地域医療を支えられるというエビデンスを社会に提示するための構造改革である」と強く訴えた。 データと現場が証明する外部委託の真価 パネルディスカッションでは、株式会社ファシトデ代表取締役で一般社団法人薬局DX推進コンソーシアム事務局員の遠藤朝朗氏が司会を務めた。まず、PHB Design株式会社経営戦略部次長(医業経営コンサルティング)でコンソーシアム事務局長の中崎正太郎氏より、加盟企業が90社を超えたことや累計3,383件(2026年10月時点)の実証を達成した進捗と制度改正の全体像が報告された。続いて、各専門委員会の代表者から実証成果と将来展望が語られた。 パネルディスカッションの様子 1. 【安全性】「遠隔監査」の確立とQRコード照合で実現する高精度調剤 スギホールディングス株式会社医療渉外部で安全性委員会委員長の三木優太氏は、外部委託における安全確保の具体的な取り組みと今後の展開について解説した。 現在の特区実証では、受託薬局の高精度な機器で一包化・検品を行った薬を一旦委託薬局へ戻し、自店舗で最終監査を行う体制によって高い調剤精度と安全性を実証している。現場からは「高精度な機械設備を持つ受託側での一包化と二重のチェック体制により、自店舗で調剤する以上に精度と信頼性が高まっている」との確かな手応えが語られた。 さらに今後の「患者宅等への直送モデル」の解禁を見据え、受託薬局の自動監査機器が出力する画像データや自動判定情報を委託薬局へ送信し、委託側の薬剤師が処方箋と照合して最終検品判定を下す「遠隔監査」の運用フローや手順書の策定が進められている。また、分包紙のQRコードと薬袋のQRコードをシステム上で厳格に照合・管理する仕組みの構築も推進されており、取り違えや誤配送を防止する安全基盤の整備が段階的に進められている。 2. 【経済性】「1件あたり10〜15分の時間創出」と持続可能な適正価格モデル 株式会社ファルコファーマシーズ薬局管理部課長で経済性委員会委員長の川原哲也氏は、実証事業のタイムスタンプデータをもとに外部委託の経済的インパクトを発表した。自店舗で一包化を作成する場合、1件あたり平均11〜14.5分を要していたのに対し、外部委託時のデータ送信・指示出し作業は約1.5分で完了する。これにより、「一包化1件の委託につき約10〜15分の確実な時間を創出できる」ことが数値として証明された。 経済性を成立させる条件として、委託側は生み出した時間を活用して地域支援体制加算の取得や在宅訪問の強化(増収)につなげ、受託側は近隣薬局からの受託を集約して高額な包薬機器の稼働率を最大化することが不可欠である。双方にメリットをもたらす価格レンジとして、初期フェーズの1包あたり25円を基準としつつ、薬局の規模(小規模・中規模・大手グループ)に応じた適正価格モデルを提案していく方針が示された。 3. 【有効性】データが語る「全処方箋の5%委託」がもたらす対人業務の爆発的増加 現場への影響分析では、全処方箋枚数の5%以上を外部委託にシフトさせた薬局において鮮明な変化が現れた。一包化作業の外部委託によって生み出された時間を在宅対応や服薬フォローに充てることで、委託件数の増加に比例して「緊急訪問や居宅療養管理指導の回数が飛躍的に増加し、地域支援体制加算をはじめとする各種調剤加算の算定や、医師・看護師との情報共有の機会が前倒しで創出される」という明確な有意差(相関関係)が確認されたことが報告された。 4. 【デジタル・DX】「CSData」の進化とシステム非依存の在庫共有基盤 株式会社湯山製作所・株式会社ユヤマ専務取締役でデジタル委員会(CSData班)の湯山正司氏は、メーカーの垣根を越えた薬局DX推進コンソーシアム標準連携データ仕様書「CSData」の役割を説明した。レセコンから出力される従来のシステム(NSIPS)ではカバーできない「服薬期間、別包指示、薬包レイアウト」などの詳細な調剤設計情報を標準化し、受託側の分包機をメーカーを問わず特別な操作も必要とせず稼働させる環境を実現した。今後は一包化以外の計数調剤への対応や、受託側から委託側へ監査結果データを送り返す双方データの標準化を進める意向が示された。 株式会社ファルモサービス企画部プロダクトマネージャーでデジタル委員会(在庫管理DX班 班長)の土性稔氏は、受託側での手入力処理や委託側での在庫データのズレを防ぐ「在庫管理DX」の取り組みを語った。特定の在庫管理システムメーカーに依存しない「入出庫データの標準フォーマット」を策定しており、グループ外薬局との間でもスムーズな医薬品受け渡しと在庫共有が行える環境整備を強力に推進している。 対物から対人へ――2027年全国解禁に向けた薬局の最終統合 講演・パネルディスカッションを通して一貫していたのは、「調剤業務の一部外部委託は単なる作業の外注化ではなく、薬局のあり方を再定義する構造改革である」という強力なメッセージであった。 一包化やピッキングなどの対物業務をテクノロジーと集約拠点(受託薬局)へ任せることで、委託薬局の薬剤師には「時間・気力・体力」が生まれる。そのリソースを、患者の服薬後フォロー、ポリファーマシーの解消、在宅医療への進出、セルフメディケーションの支援へと振り向けることで、初めて「選ばれる薬局・薬剤師」としての真価が発揮されることが期待される。
- 誰もが安心して買い物できる環境へ:ツルハHDと多摩美術大学が「スローショッピング」の共同研究を開始
株式会社ツルハホールディングスと学校法人多摩美術大学は、高齢者や認知症のある方をはじめ、誰もが自分のペースで安心して買い物を楽しめる環境づくりを目指し、「スローショッピング」を基軸とした共同研究を開始した。店舗での実践と大学のデザイン教育・研究を融合させ、よりインクルーシブな買い物体験の構築に向けた取り組みが進められている。 「人生に寄り添うライフストア」を目指す背景 買い物は日々の暮らしに必要なものを手に入れるだけでなく、自分で選ぶ楽しみや人との交流をもたらす大切な営みである。しかし、商品の見つけにくさ、通路の狭さ、店内の音などが「買い物のしづらさ」につながる場合がある。 株式会社ツルハホールディングスでは、これまでも通路の確保や音への配慮、休憩用椅子の設置、ゆっくり会計できるレジの導入など、誰もがゆっくり買い物ができる環境づくりとしてスローショッピングに取り組んできた。同研究では、こうした店舗での実践を多摩美術大学のデザイン教育・研究と結び付け、利用者の経験から店舗環境の見直しを図る。生活者と共に考え、試し、改善するプロセスを通じて、一層の知見の蓄積を目指す。 用賀中町通店を舞台にした具体的な研究内容 同研究のフィールドには「ツルハドラッグ用賀中町通店」(東京都世田谷区)が選ばれており、多摩美術大学統合デザイン学科の教員やソーシャルデザイン履修学生、およびツルハホールディングスの従業員らが参加する。 店舗での観察や対話を通じ、商品選びや会計の困りごとに加え、「忙しい店員に声をかけづらい」「人に迷惑をかけたくない」といった助けを求める際の心理的なハードルについても調査が行われる。学生と従業員が共に気づきを持ち寄り、共創ワークショップを通じて具体的な改善案を検討する。 具体的には「気軽に頼ってよい」「ゆっくりで大丈夫」と伝える店内サインやバッジなどの試作を進める。さらに、日常の接客で従業員が気づいた変化や困りごとを抱え込まず、本人の意思や個人情報に配慮しながら地域包括支援センターなどの相談先へ円滑につなぐための記録様式や対応手順についても検討がなされる。試作品の検証と改善を重ねた成果は、店舗づくりや地域との連携、従業員の学びに生かせる資料としてまとめられる予定である。 成果の一般公開と今後の展開 同研究で得られた調査から生まれたデザイン提案や試作品などの成果は、2027年2月27日から3月10日まで、多摩美術大学上野毛キャンパス本部棟のギャラリー「Sala Blu」にて展示される予定となっている。 地域の人々と成果を共有するとともに、ツルハホールディングスは得られた知見を今後の店舗環境や接客の改善、地域との連携に広く生かしていく方針である。 多摩美術大学上野毛キャンパス外観|提供:多摩美術大学
- 「BioJapan 2026」で魅せる「埋もれた研究」の可能性:東京薬科大学広報誌『CERT』が開くオープンイノベーション
林文彦氏 アジア最大のバイオビジネスパートナリングイベントであり、2026年10月7日から9日までパシフィコ横浜で開催された「BioJapan 2026」(同時開催:再生医療JAPAN / healthTECH JAPAN)には、世界40か国・地域から過去最大規模となる1,700社・団体以上が出展・参加している。会場では、大手製薬企業やバイオものづくり、受託製造(CDMO)などの多彩な企業に加え、先端のバイオ研究シーズを持つ大学や大学発スタートアップなどが集結している。また、全国の自治体が共同パビリオン形式などで出展し、地域のバイオクラスターや地元発ベンチャーの誘致・支援も行われている。 そのような多様な出会いが生まれる会場内のブースにおいて、東京薬科大学は自由なコミュニケーションの場を展開し、潜在的なパートナーや顧客との出会いを実現している。その中で活用されているのが研究活動広報誌『CERT(The Cutting-Edge Research at TOYAKU)』である。 独自ルールによる全研究者の可視化と体系化 事業開発・研究アライアンス・URA事務局サポーターを務める林文彦氏(薬剤師・博士(薬学))は、東京薬科大学イノベーション推進センターの事務局をサポートする立場から、創刊の狙いについて次のように語っている。「学内ではまだ知られていなくても、実は学外へ向けて非常に優れた研究成果を出している研究者がいます。そうした『隠れたタレント』を発掘したいという思いからスタートしました」。 従来、大学の広報活動は分かりやすい成果を上げる一部の著名な研究者に偏りがちであり、基礎研究や若手研究者が持つ優れた潜在シーズが社会に届きにくいという課題が存在していた。こうした状況を打破するため、同大学は2020年度から『CERT』の刊行をスタートさせた。毎号6人の研究者を選定し、原則として掲載は1度のみという独自のルールを設けることで、流行や社会ニーズに左右されない多様な研究を「知のカタログ」として網羅的に体系化し、社会へ発信し続けている。 『CERT』では、難病・がん等のメカニズム解明や分子生物学を基盤とした創薬研究、資源・環境・エネルギー・食料に関するバイオテクノロジー、さらには臨床薬学やニューモダリティ、プラネタリーヘルスといった多彩な特集テーマのもと、各教室・研究室の最先端の研究内容が具体的に紹介されている。例えば、発電する微生物を利用した微生物燃料電池の開発や、ヒト人工染色体による「生命をデザインする未来」、ゲノム解析とデータサイエンスを組み合わせた個別化医療、さらには植物由来の抗がん剤シーズの探索など、基礎から応用まで幅広い研究者の情熱と成果がビジュアル豊かに掲載されている。読んだ人からは社会実装のイメージが湧きやすいと評価されており、こうした冊子やWebでの発信が、のちに共同開発へと至るきっかけを生み出している。 URAとプロフェッショナルの協働による制作体制 この取り組みを持続可能にしているのが、URA(ユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレータ)の存在である。URAとは、文部科学省の主導により大学等へ設置が進められてきた専門職種であり、事務職員でも教員でもない「第3の職種」として、ビジネスや事務系とサイエンス系の双方が使う言語を深く理解し、円滑なコミュニケーションで双方をつなぐ役割を担っている。 URAの若い世代をサポートする林氏は、実際の制作プロセスについて次のように説明している。「半年に一度、経営層等とも協議のうえで学内の研究者を選定し、約半年間をかけて取材を行っています。その取材の場には必ずURAが同席することで、研究者自身の人間性や、これまで知られていなかった魅力を深く引き出し、産業界に生かせる有望なシーズを発見することにつなげています」。取材を通じて見いだした面白いシーズをBioJapaなどの展示会・イベントで発信し、企業や官庁などの関係者と人をつなぐ重要なプラットフォームに落とし込んでいる。さらに、2022年度に開設されたWebポータルサイトは月平均1万5,000アクセス以上を記録しており、誌面とデジタル双方で情報発信力を高めている。 多角的な配布戦略が生む高大接続とブランド向上 創刊以来の累計発行部数は3万部を突破し、その配布先は多角的な広がりを見せている。配布先の割合は、中学・高校が50%、企業・行政が34%、大学が16%となっており、新刊が刷り上がると国内の中学校や高校へ送付され、理科担当の先生や生徒たちに届けられている。さらに、学内でも図書館の前などで広く配布されている。これにより、産学連携の促進にとどまらず、探究学習の教材や理系進路を選択する次世代の科学的好奇心を刺激するツールとして、高大接続の面でも大きな成果を上げている。 ・『CERT』:https://cutting-edge-research.toyaku.ac.jp/











