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- 【京都薬科大学】10年ぶりの新校舎「飛翔館」が竣工―教育・研究の新たな拠点へ
飛翔館外観 京都薬科大学は2026年3月5日、新校舎「飛翔館」の竣工式を挙行した。同大学において新校舎が完成するのは、前回の校舎建設から数えて約10年ぶりのことである。式典には学内関係者や建設工事関係者のほか、本校地周辺地域の自治会長ら約30人が参列し、新たな教育・研究拠点の誕生を祝った。 16カ月の工期を経て完成 「飛翔館」は2024年11月に建築工事を開始し、約16カ月の工期を経て2026年2月に竣工を迎えた。建設場所は京都市山科区御陵中内町5番地の本校地内であり、構造は鉄骨鉄筋コンクリート造および鉄骨造の地上4階建てとなっている。建築面積は927平方メートル、延床面積は3,252平方メートルに及び、設計・監理を株式会社東畑建築事務所、施工を大日本土木株式会社がそれぞれ担当した。 キャンパスプロムナード 大講義室 充実した教育・研究環境 新校舎は、高度な薬学教育と先端研究の両立を目指した多様な施設構成が特徴である。内部には、最大450人を収容可能な大講義室をはじめ、最新の設備を整えた実習室が配置されている。また、学生の能動的な学びと交流を支える「ラーニングコモンズ」や、若手研究者が論文作成やディスカッションに活用できる「リサーチコモンズ」を設置。さらに、先端的研究の核となる「シナジー研究施設」を備えることで、学際的な研究の進展が期待されている。 キャンパス内の回遊性にも配慮がなされており、開放的な「キャンパスプロムナード」の整備に加え、既存の図書館棟である「躬行館」とは2階および3階の連絡通路で接続された。これにより、既存施設との一体的な運用が可能となっている。 同大学は、2026年度前期より「飛翔館」の供用を開始する予定である。新校舎の活用を通じて教育・研究活動のさらなる充実を図り、次世代を担う薬剤師や研究者の育成に向けた基盤を強化していく方針だ。
- 【エスエス製薬】AIメンタリングサービス「BeliEVE Mentors」を開始。6人のAIが女性のキャリアを支援
エスエス製薬の解熱鎮痛薬ブランド『EVE』は、2026年3月5日、働く女性のキャリア形成を支援する新サービス「BeliEVE Mentors」の提供を開始した。 同社が実施した調査によると、キャリアに悩む女性の約6割が「気軽に相談できる相手がいない」と回答している。こうした孤独な悩みを解消し、心理的な安全性を保ちながら「自分らしいキャリア」を見出すためのパートナーとして、LINEで利用可能なAIメンターを導入する。 多様な価値観を持つ「6人のAIメンター」 同サービスの特徴は、実在する「キャリアに満足している女性」5万人以上の調査と、30人以上の詳細なインタビューから構築された「6人の異なるAI人格」と対話できる点だ。 人気漫画家・マキヒロチ氏がキャラクターデザインとエピソードのビジュアル化を担当。単なる情報検索ツールではなく、現代女性の葛藤やリアルな心情に寄り添う「生きた先輩像」としてデザインされている。 メンター名 職業 / 特徴 こんな人におすすめ 1. 米倉 美奈 IT・SE / 前向きな解決志向 具体的なアドバイスで背中を押してほしい時 2. 由良 舞 教育・マーケ / 現実主義 理想論ではなく、地に足のついた意見がほしい時 3. 九条 藍 Web編集 / 鼓舞・両立支援 家庭と仕事の両立に悩み、強く励まされたい時 4. 楠 紗季 精密機器営業 / 無理しない主義 自分のペースを守りつつ、現実的な解を探したい時 5. 樋口 ゆい 不動産総務 / 共感重視 まずは悩みを聴いて、頑張りを認めてほしい時 6. 徳山 凛花 NGOマネジメント / 挑戦志向 夢に向かって、細かいことを気にせず進みたい時 なぜ今、AIによるキャリア相談なのか 背景には、20〜30代を中心とした「AIへの相談需要」の高まりがある。同社の調査では、AIに期待することとして「データに基づいた冷静な分析(38.4%)」に加え、「安心して話せる(26.4%)」という情緒的な価値が上位に挙がった。 対人では気まずさやしがらみを感じる悩みも、匿名かつ24時間利用可能なAIであれば、本音で向き合えるという利点がある。 利用方法とサービス概要 利用料金: 無料(匿名利用可能) プラットフォーム: LINE公式アカウント( 特設サイト 参照 ) 特徴: 複数のメンターと並行して対話し、多角的な視点を得られる。 対話内容を記憶し、長期的な相談相手として伴走する。 特設サイトの診断やマキ氏の漫画から、自分に合うメンターを選べる。 同社は「 BeliEVE PROJECT 」を通じて、女性が本来持つ力を発揮し続けられる未来を目指しており、今回のAIメンターはその中核を担う施策となる。
- 薬局から発信する「Well-being」への挑戦:スギ薬局の新たな地域連携モデル
2026年2月25日から3日間にわたり、東京ビッグサイトで開催された「Care Show Japan 2026」。その中で行われたセミナーにおいて、株式会社スギ薬局の植田恵子氏(医療営業本部 関東営業統括部 統括部長)が登壇した。本講演は「薬局から発信する『Well-being』実現のための取組」と題され、地域住民の幸福と健康を多角的に支える次世代型薬局の在り方について、示唆に富む内容となった。 スギ薬局が推進する「トータルヘルスケア戦略」 スギ薬局は、創業50周年を迎える2026年2月期に売上高1兆50億円を見込み、全国2,000店舗を超えるネットワークを展開している。同社が掲げる「トータルヘルスケア戦略」の核は、健康維持や予防・未病のセルフケア領域から、服薬支援、在宅医療、そして終末期の生活支援に至るまで、顧客のライフステージを生涯にわたって支えることにある。 植田氏は、身体的・精神的・社会的に満たされた持続的な状態を指す「Well-being」の概念が、同社の経営理念そのものであると強調した。この実現のため、薬剤師や管理栄養士、登録販売者、看護師といった多様な専門職が連携。リアル店舗の強みにデジタル技術と行政連携を掛け合わせた、独自の活動を推進している。 処方箋なしで集える「健康茶房」の試み 現場での具体的な実践として注目を集めたのが、帝京平成大学の学生らと共同で実施している「健康茶房(けんこうさぼう)」である。この取り組みは、薬局を単に「薬を受け取る場所」とするのではなく、「住民が自然と集うコミュニティの場」へ転換させることを目的としている。 2025年9月よりスギ薬局神田駅南口店において月1回、仕事帰りの人々をターゲットとした夕方の時間帯に開催。薬剤師や学生たちが提供する健康茶をきっかけに、地域住民やリピーターとの対話を通じて日常の悩みや健康ニーズを引き出す場となっている。植田氏は、当初は処方箋のない顧客への接遇に戸惑っていた薬剤師が、学生たちの柔軟な感性を模範とすることで意識変革を遂げ、現在では延べ200人近い来場者を得る成果を上げていると語った。 多様な外部連携による専門的支援のネットワーク 同社は単独の活動に留まらず、外部パートナーとの連携を通じて支援の質を高めている。 その一環として、同志社大学の瓜生原葉子教授が提唱する「医療のエコ活動」の趣旨に賛同するアステラス製薬と協働した取り組みを開始した。この活動は、医療費の高騰やドラッグ・ロスといった社会課題を、日常生活の視点から「自分ごと」として捉え直すことを目的としている。スギ薬局はアステラス製薬の活動を推進・支援する企業として連携し、絵本ラウンジでのイベントなどを通じて、処方箋がなくても薬や食の悩みを気軽に相談できる環境づくりを啓発。情報発信や市民の行動変容を促す活動を展開している。 また、「一般社団法人こども偏食少食ネットワーク協会」との連携では、家庭での食事に悩む保護者の相談窓口としての役割を担っている。東京・世田谷区のスギ薬局桜新町店では、専門資格である「子ども摂食アドバイザー」を取得した管理栄養士や薬剤師による相談会を開催した。ここでは単なる助言に留まらず、小児科医や言語聴覚士など30件以上の専門職と連携するフォローアップ体制を構築しており、専門的な支援へとつなげるネットワークの構築が進んでいる。 さらに、千葉市のスギ薬局蘇我調剤店では、店舗スタッフ自らが地域行事に参加。行政やメーカーと協力して歯科チェックや骨密度測定などの独自イベントを実現した。これらは、住民が日頃から頼れる「身近な専門家」としての信頼関係を築く礎となっている。 地域医療のハブとしての展望 植田氏は講演の結びに、薬局1店舗だけでは限界があり、地域、医療機関、行政、大学、企業が機能を補完し合う「顔の見える関係づくり」が不可欠であると強調した。 厚生労働省の「患者のための薬局ビジョン」が示す2035年の姿に向け、薬局は地域包括ケアシステムの中核となり、立地にかかわらず地域の相談拠点となることが求められている。スギ薬局が進める一連の取り組みは、薬局が「地域医療のハブ」として機能し、人々のウェルビーイングを持続的に支える社会的インフラへと進化する具体的な道筋を提示している。
- 「75歳まで働ける社会」をデザインする――大木ヘルスケアHD松井氏が語る、薬局・ドラッグストアの使命
松井氏 2026年2月25日・26日の2日間、TRC東京流通センターにて、大木ヘルスケアホールディングス株式会社による「2026春夏用カテゴリー提案商談会」が開催された。同商談会は、単なる新商品の展示にとどまらず、小売店との強固なパートナーシップを通じて生活者の潜在ニーズを掘り起こす「需要創造型」の提案を目的としている。 代表取締役社長の松井秀正氏は、人口減少と高齢化が加速する日本において、薬局やドラッグストアが果たすべき新たな役割と、変容する市場の本質について、以下の4つの柱からなる深い洞察と戦略を提示した。 1.医療費の構造的課題とセルフメディケーションの本質 松井氏は、人口減少下でも増大し続ける医療費の現状に対し、20代と80代の健康維持コストの圧倒的な差を引き合いに警鐘を鳴らした。 65歳以降に急増する医療費という課題に対処するためには、30代・40代といった早期からの栄養管理や運動を通じた「自助」が不可欠となる。重症化後の介護や治療には膨大なコストを要するが、未病段階からサプリメントやOTC医薬品を活用し、専門家のサポートを得て健康を維持できれば、社会保障費の抑制と個人の幸福最大化を両立できる。生活者の最も身近な接点であるドラッグストアや薬局は、健康維持を「学ぶ、見る、触る、楽しむ」体験の場として、正しい情報を発信し続ける拠点とならなければならない。 2.「75歳まで働ける体と社会」:健康経営が切り拓く未来 今回の商談会における最重要キーワードの一つが「75歳まで働ける社会」の構築である。これは個人の努力に委ねるべき問題ではなく、企業の制度設計とセットで解決すべき課題として示された。公的年金の受給開始時期の見直しなどを背景に、日本はすでに「75歳まで自ら糧を得なければ社会が機能しない」段階に突入している。 ここで重要となるのが、テクノロジーを駆使した「健康経営」の視点だ。例えば、聴力が低下したベテランスタッフに対し、会社側が集音器などの補助器具を支給することで、その豊富な知見を店頭で生かし続けられる環境を整備することが挙げられる。年齢による役職定年制を廃し、個々の能力のピークに合わせて働き方や給与体系を柔軟に設計することこそが、今後15年後の社会を支える基盤となる。 3.「自助」の時代における小売業の使命 2003年の健康増進法制定により、日本の健康維持に関する指針は「国の責任」から「個人の責任(自助)」へと法的なパラダイムシフトを遂げている。 この潮流を受け、行政による一律の指導を待つのではなく、地域のライフラインである小売業が主導し、医療機関と連携した「持続可能なビジネス」としての地域包括ケアを構築することが急務である。公的なボランティア精神に依存するのではなく、民間主体で地域の生活者を守るネットワークを形成し、企業が従業員の健康コストを投資として負担する仕組みを整えること。それこそが、現代における真の社会インフラの姿である。 4.市場の二極化と「高付加価値商品」への挑戦 さらに松井氏は、ヘルスケア市場における「所得の二極化」という現実に正面から向き合うべきだと指摘した。 現在、高品質な原料を用いた高機能・高単価なサプリメントを求める層は、ドラッグストアではなくクリニック等の限定的な市場へ流出している実態がある。本来、専門家が常駐する店頭こそが、こうした「高価格であっても良質なもの」を含めた幅広い選択肢を提示すべきである。従来の「薄利多売」モデルを維持しつつも、3万円や5万円といった高価格帯でも確かなエビデンスを持つ商品を揃えることは、顧客の満足度を高め、外部への顧客流出を食い止める重要な戦略となる。 次世代を担う薬学生へ 今回の商談会で一貫して示されたのは、単なる物販業を超えた「生活者の健康寿命を総合的にプロデュースする」という決意である。将来、薬剤師として地域医療の現場に立つ際、目の前の患者への調剤・投薬のみならず、働く世代の未病対策や、高齢者が現役で活躍し続けられる社会実装にどう寄与できるか。松井氏の提言は、薬学の専門知識をいかにして社会価値へと変換すべきかという、キャリア形成における極めて重要な指針を示している。
- JACDSが令和8年度調剤報酬改定に突きつけた抗議と、薬剤師の未来像
会見の様子 2026年2月20日、日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)は、同年6月に施行される「令和8年度調剤報酬改定」の答申内容を受け、緊急記者会見を開催した。将来の薬剤師である薬学生の皆さんに向け、会見で語られた重要事項を整理して紹介する。 立地や面積という「物理的制限」への強い抗議:憲法違反の疑い 会見で最も焦点が当たったのは、薬剤師が提供する医療サービスの質とは無関係な「物理的条件」によって報酬が制限される新ルールへの反発である。 今回の改定では、東京23区や政令指定都市において、既存の薬局から500メートル以内に新規開局し、特定の集中率基準を満たすと、調剤基本料が15点減算される「門前薬局等立地依存減算」が導入された。JACDS副会長の横山英昭氏は、これが憲法22条の「職業選択の自由」および14条の「法の下の平等」に抵触する恐れがあると指摘した。 1975年の最高裁判決(薬局距離制限事件)では、既存薬局からの距離を理由とした開設制限は違憲とされている。横山氏は、今回の改定が報酬制度という形を借りて実質的にかつての距離制限を復活させるものであり、公定価格制度としての合理性を欠く「不当な規制」であるとして、厚生労働省へ陳情書を提出したことを明らかにした。また、会長の塚本厚志氏からも、地域支援体制加算に導入された「調剤室の面積基準」について、店舗の広さと専門性は無関係であり、制度の公平性を損なうものであるとの強い疑義が示された。 厳格化する「人的要件」と現場の危機感 会見では、薬剤師の働き方に直結する「人的要件」の厳格化についても、具体的なデータをもとに危機感が語られた。 JACDS調剤推進委員会副委員長の山口義之氏は、加盟企業約7,700店舗を対象に行った緊急アンケートの結果を報告した。今回の改定では、従来の「かかりつけ薬剤師指導料」が廃止され、「服薬管理指導料」におけるかかりつけ機能の評価へと再編されたが、これに伴い薬剤師個人の勤務実態を問う要件も変更されている。アンケートによれば、この新しい人的要件に対し、約6割の企業が「要件の維持・充足が厳しくなった」と回答している。山口氏は、人手不足が深刻化する中で、週の勤務時間や在籍期間といった形式的なハードルが現場の大きな負担となっている実態を数字で示した。 これを受け、副会長の関口周吉氏は総評として、現場のモチベーションに及ぼす影響を訴えた。関口氏は、今回の改定で在宅医療への取り組みなどが一部評価された点は認めつつも、全体としてはマイナス改定であるとの認識を表明。現場の薬剤師が報酬を維持するために、勤務時間や在籍期間といった「数字」の充足に追われる状況になれば、本来もっとも時間を割くべき対人業務や患者支援に支障をきたしかねない。関口氏は、こうした「現場の努力が正当に評価されない」仕組みのままでは、「現場のモチベーションを保つことは非常に困難である」と、制度のあり方に強い疑義を呈した。 次世代の薬剤師像:政府が掲げる「進化」への投資 こうした厳しい現状に対し、塚本氏は、政府の方針に掲げられた「アドバンスド・エッセンシャルワーカー」という言葉を引用し、薬剤師が今後目指すべき方向性に言及した。 これは、AIやデジタル技術を使いこなし、高い生産性と深い専門性を両立させることで、単なる調剤業務を超えた付加価値を提供する人材を指す。新設された「物価高騰・ベースアップ評価料」は、単なる賃上げの原資にとどまらず、薬剤師がこうした次世代の人材へ進化するための教育や、IT環境への投資の原資として有効に活用されるべきものである。塚本氏は、薬剤師が地域住民のヘルスケアリテラシーを向上させる重要な社会インフラとしての誇りを持ってほしいと、将来を担う世代へ期待を寄せた。
- 物価高が大学生の「学び」に与える影響――大学生協連「第61回学生生活実態調査」結果発表
会見の様子 全国大学生活協同組合連合会(大学生協連)は2026年2月24日、現代の大学生の経済状況や意識を浮き彫りにする「第61回学生生活実態調査」の結果を報告した。長引く物価高騰が、支出構造から学習習慣に至るまで、学生生活の根幹を揺るがしている実態が明らかとなった。 1.食費増のしわ寄せが「書籍費」に 調査によると、下宿生の1カ月の支出において食費は前年比で約3,700円増加し、2万9,853円に達した。しかし、支出総額は大きく伸びておらず、増大した食費を捻出するために他の項目が抑制されている。 特に顕著なのが「書籍費」の減少だ。2016年以降で初めて月額1,000円を割り込み(950円)、過去最低水準を更新した。大学生協連専務理事の中島達弥氏は「経済状況が大学での学びの質に直接影響を及ぼす局面に入っている」と分析している。 2.奨学金受給の現状:過去10年で最高の受給率と返済不安 奨学金の受給割合は2019年まで低下傾向にあったが、2025年には36.8%と過去10年で最も高い水準となった。増加の背景には「給付型奨学金」の拡充があり、受給者のうち「給付型のみ」の割合は15.2%(前年比5.3ポイント増)と急増した。 一方で、返済義務のある「貸与型(併用含む)」を利用する層の不安は根強い。貸与型受給者の約5割が「暮らし向きが苦しい」と感じ、約7割が卒業後の返済に不安を抱えている。公的支援の裾野が広がる一方で、受給形態による心理的格差が鮮明となっている。 3.学修時間の圧迫:アルバイトとの相関 アルバイト収入は時給単価の上昇により増加傾向にあるが、これが学生のゆとりには結びついていない。調査では「アルバイト時間が長いほど、予習・復習や読書をしない学生が増える」という明確な負の相関が確認された。 自由記述欄には「生活費のために深夜までバイトをせざるを得ず、睡眠時間が削られ、翌日の授業で居眠りをしてしまう」といった切実な声が寄せられており、生活維持のための就労が「学びの時間」を奪う構造的課題が浮き彫りとなった。 4.生成AIの定着:生活インフラとしての活用 生成AIの利用経験は92.2%に達した。レポートの要約や添削といった学修補助に加え、悩み相談や献立の相談など日常生活の補助ツールとしての活用も広がっている。大学生協連は、生成AIが特定の目的を超え、限られた資源の中で生活を効率化するための「生活インフラ」として定着したと結論づけている。 5.「変化への適応」と支援の限界 記者会見で、大学生協連26年度全国学生委員長の佐藤佳樹氏は、調査結果を踏まえて次のように述べた。「当たり前が変化し、学生たちはその中で必死に適応している。暮らし、学び、コミュニティの危機がある中で、コロナ禍での動向を踏まえ、現在は新しい当たり前が変化し、定着しているのではないか」 佐藤氏は、物価高や就職活動の早期化といった重圧にさらされながらも、生成AIを駆使するなどして何とか生活を維持しようとする学生たちの姿を「適応」という言葉で表現した。 大学生協側も企業と連携した「100円朝食」などの支援を続けているが、原材料費の高騰により生協自身の経営も厳しさを増している。記者会見の中では、民間組織だけの努力には限界があり、社会全体で学生の困窮を正確に把握し、重層的な支援を模索していく必要性が強調された。
- 【薬局四方山話】薬剤師のセンス
地球堂薬局 田代健 1. 国家試験に合格するだけで良いのか? 少し昔のことだが、知り合いの医師が焼肉屋でこんなことを言っていた。「国試に受かれば同じ医者で、点数は関係ない。自分は最低限の努力でギリギリ合格したから、効率的だった」皆さんはどう思われるだろうか? この医師の場合に限れば、最終的な目標は「実家の医院を継ぐこと」で、研修医から大学教授までの生存競争を勝ち残る必要もなく、臨床経験を積み重ねていけば成績とは関係なく自分の地位を確保することができる。さらに、医学教育を受ける大学とそれを実践する職場が連続しているので、国家試験というものはなおさら通過点に過ぎない。このような文脈の上では、「勉強の量は最小限で良い」はかなり正しいと思う。しかし、これが医師全般にも当てはまるかといえばそうではないだろうし(注1)、薬剤師の場合には、一つの職場で蓄積されてきた実践知を受け継ぐという文化もない。国家試験に合格するということは、毎年1万数千人いる「国試受験者」のうち1万人弱が、30万人規模の「薬剤師の市場」への入場券を手に入れるということに他ならない。入場券は、テーマパークなどと同様、入場した瞬間に意味がなくなる。問題はそこから先をどう楽しむかで、事前の準備によって1日が大きく変わるかもしれないし、その準備が楽しかったりもするわけだ。だからこそ、薬局に就職した後で危機感をもって「認定薬剤師の資格を取る」というのは一つの選択肢として理解できる。 しかし研修で知識を得たり何かを体験したりすることはできても、作法やセンスを磨くことはできない。もしかすると学生の皆さんにはまだピンとこないかもしれないが、薬剤師が患者とやりとりする情報には、 A.正解が明確に文書化されていて、誰が答えても同じ内容になるはずの情報 B.正解が存在せず、発信者と受け手との間で内容が不確定な情報 の2つがあり、一連のコミュニケーションの中で絡み合っている(例えば、患者さんが「大丈夫です」と言っているが、大丈夫ではなさそうに見える場合、薬剤師がその言葉をAとして受け取るかBとして受け取るかという違いは大きな影響を及ぼす)。Aについて薬剤師が持っている情報は、医薬品の添付文書やインタビューフォームに書いてあるようなものが中心になるが、患者もそれなりに入手することが可能になっており、例えばSNSや生成AIで得た情報をベースに相談を受けるというケースは実際に増えている。それと同時に、不正確だが断定的な情報が急増していることにより、 C. 薬剤師にとっての正解と患者にとっての正解とが異なる信念に基づいている情報 が紛れ込むようになってきている。患者との会話でこのような情報が顕在化した時に大切なのは、知識そのものよりもむしろ科学者としての作法だ。これは神社の参拝でも科学でも同じだろうが、「作法を知っている人同士」というのは、例えば聞いたことのない情報があったとしても、話がはやい。「作法を知らない人同士」は混乱するだけでおかしなことになりがちだ。「作法を知っている人と知らない人」とでは、知っている人がその場をコントロールしやすくなる。その時に、ただ作法を振りかざすだけでは衝突してしまうので、それを相手に合わせて気持ちよく使う「センス」が大切なのだ。 2. センスとは何か? このセンスとは一体なんなのか? ラテン語までさかのぼると、「感じる能力、感覚」というような意味があり、「ものの良し悪しを感じる能力」や「五感そのもの」さらには「意味」といった広がりを持つ言葉になったようだ。日本語では「あの人はセンスがいい」と言えばなんとなくその意味は伝わるが、センスとはなんなのか、センスを良くするためにはどうするのか?といったことはなかなか言語化できない。ここでは、具体的に「白衣を個性的に着こなす」とか 「SNS映えする」とかいう意味での「センス」から考えると分かりやすいかもしれない。あるいは、「体育会系のサークルに所属して全国大会で賞を取った」というようなことで得られる「何か」も同じ性質のものなのかもしれない。それらと同じ平面の上に、患者と話す時の人間としてのセンスや、処方箋を見た時の薬剤師としてのセンス、医薬品の構造式を見た時の化学的なセンスといったものがある。これらのセンスは一朝一夕には身につけることができない。それは「意味を論理的に理解する」ということではなく、五感や行動を通じて時間をかけて自分のものにするしかない。 ピエール・ブルデューというフランスの社会学者がいて、労働者階級の生まれからエリート層の中に入って、エリート層生まれの周囲とどう闘うかというようなことを実践した人物なのだが、そのキーワードに「文化資本」というものがある。子供の音楽や絵画の好みといった感性(センス)は親の社会的な地位によって変わってくるということを実証的に示したのだが、このような感性は大人になってから変えることが難しく、しかもそれが親から子へと再生産されるということで、それを金のような目にみえる資本とは別の「文化資本」と名付けた。 大学というのは、比較的均質な集団の中で、さまざまな設備もあれば切磋琢磨する学生もいて専門家もいるという状態でセンスを磨く、あるいは身も蓋もない言い方をすれば「文化資本」を蓄積することができる、最後のステージだ。社会に出て体力も落ち、他の日常のいろいろな用事に時間を奪われた状態で自分の意志だけではなかなか身につけることができない。 3. 大学でセンスを身につけよう 筆者はこの15年間ほど、比較的多くの薬剤師と作業をしたり話をしたりする機会があったのだが、痛切に感じたのは、「薬剤師は街の科学者である」と自称する割に、大半の薬剤師は科学の作法が全く身についておらず、それを身につけている少数の薬剤師はその作法を通じて患者や仲間の薬剤師とコミュニケーションをとるセンスを欠いていることが多いということだった。多くの薬剤師は患者を「薬歴の記載項目」というフィルターを通じてしか見ない。薬歴の記載項目とは、要するに「調剤報酬の点数の算定要件」だ。だから、SNSやメディアで調剤報酬について痛いことを指摘されるたびに大声を出すような、リアクション系の薬剤師が圧倒的に多く、調剤報酬制度と関係のない自分自身の個性を明確に持ったセンス系の薬剤師は少ない。 そこで、学校でもすでに耳にタコができるほど聞かされているとは思うが、薬学生の皆さんには、有機化学でも生理学でもいいので、自分の興味を持てそうな学科、あるいはこれから20年くらいの間に重要になりそうな学科、あるいは周りに勉強がはかどりそうな環境がそろっている学科、などを自分なりに調べて、1つ選んでとことん深く勉強して周りと議論することをおすすめしたい(最初はつまらないように見えても、勉強していくうちにどんどん面白さが分かるようになってくる、ということもある。そもそも「本当につまらない学問」など1つたりとも存在するわけがないのだ)。それによって体得できたセンス(文化資本)は、社会に出てからきっと役に立つし、それを個性として発揮できる薬剤師になってもらいたい。その個性を発揮できる環境を用意して待っていることが、薬局側の責任だろう。 4. 最後に 本稿をまとめるにあたって、最初に書き始めたのは「薬剤師としての実務に化学の知識は必要か?」という話だった。筆者の母校では薬学部の研究室はなんとなく有機系・生物系・物理系と大別されており、筆者は生物系にしか関心がなく、有機系の勉強をほとんどしなかった。そのために、自分自身が薬局薬剤師として働くうえでふだん「自分が学生だった頃にこういう勉強をしたらよかっただろうな」と感じているようなことをまとめようと試みた。その途中でふと「イミダゾール環ってなんだったっけ?」と思い出し、薬学部の時に買った有機化学の本を引っ張り出してみた。イミダゾール環のところを探してみると、そこに「ここは後でまた勉強すること」という付箋紙が貼ってあった。もし、薬学生時代の自分にメッセージを送ることができるとしたら、「そこは30年後に悩む箇所だから、ちゃんと勉強しておけよ」と言いたい。 当初は、これらの分子の骨格からpKaなどの性質を通じて臨床的な応用の話を書けないかと考えていたのだが、筆者よりも読者の皆さんの方がよく勉強していらっしゃるだろうと判断して、断念した。 注1 この医師とまったく逆の事例を紹介しよう。筆者が薬学部の時に居候させてもらっていた医学部の研究室の教授室には、簡素な事務用机の上に数冊だけ本が並んでいて、その1冊は学生時代に使っていたらしくすっかり色褪せた「線形代数学」の教科書だった。この教授は、アルツハイマー病患者の脳に蓄積する神経原線維変化という病理産物がタウというタンパク質から構成されていることを発見した業績を持ち、神経病理学という分野の中では世界的にもトップランナーだった。線形代数学は、そんな専門性とはまったく関係がない分野だが、その1冊から「商売道具としての学問」ではない「すべての自然科学に一貫する学問」への変わらない信念というものを感じた。
- マツキヨが創る「白と黒のツインタワー」——第2の旗艦店『SHIBUYA SCRAMBLE FLAG』が提示するドラッグストアの近未来
SHIBUYA DOGENZAKA FLAGとブラック&ホワイトの対照的なツインタワーが完成(イメージ) マツモトキヨシの象徴的な店舗が、いよいよ次世代の姿へと変貌を遂げる。 2026年3月7日、渋谷のスクランブル交差点近くに、マツモトキヨシの新たな旗艦店「SHIBUYA SCRAMBLE FLAG」がオープンする。1995年の開店以来、渋谷のランドマークとして親しまれてきた「渋谷Part1店」が全面改装されたものだ。 1.渋谷にそびえ立つ「白と黒のツインタワー」 2023年9月にオープンした黒基調の「SHIBUYA DOGENZAKA FLAG」に対し、今回の新店舗は白を基調とした「Shibuya Alive ~Angels~」がコンセプトである。 スクランブル交差点を挟んで白と黒の対照的な店舗が並び立つ姿は、まさに渋谷の新しい景観だ。店舗内外には大規模なLEDサイネージが配置され、デジタル技術を駆使した視覚的なワクワク感を演出している。 2. 注目すべきフロア構成:ドラッグストア初の試み 特に注目したいのは、地下1Fに展開される「ダーマコスメコーナー」だ。 ドラッグストア初導入の「TAKAMI」 :これまで百貨店や専門店が主軸だったブランドが、ドラッグストアの店頭に並ぶ。 専門性の高いラインナップ :「キュレル」や「ラ ロッシュ ポゼ」に加え、同社プライベートブランドの「INJESK」や「MQURE derma×」といった、成分にこだわった「成分美容」の商品が充実している。 これは、ドラッグストアが単なる日用品供給の場ではなく、「皮膚科学(ダーマ)に基づいたカウンセリングと専門的な美容提案の場」へとシフトしている証左といえる。 3. 各フロアの役割と特徴 2階:POP UP・化粧品フロア マンスリーで展開商品が入れ替わるPOP UPスペースを設置。最新の韓国コスメなど、トレンドに敏感な層へ向けた「情報発信基地」としての役割を担う。 1階:医薬品・健康食品・医療用品・シーズン商品フロア 高さ約10mのLEDサイネージを階段に設置するなど、視覚的な誘導を強化。セルフメディケーションの入り口として、顧客が自然と店舗奥へ足を運びたくなる空間を演出している。 地下1F:スキンケア・トイレタリー・男性化粧品フロア 同社初となる「ダーマコスメコーナー」を展開。話題の成分美容商品や、メンズケアブランド「KNOWLEDGE」を揃え、専門性の高い美と健康のニーズに応える。 4.変化する「旗艦店」の役割 マツキヨココカラ&カンパニーにとって、今回の店舗は国内・海外合わせて6店舗目のフラッグシップストアとなる。 2018年の原宿表参道口店を皮切りに、香港のコーズウェイベイ店、2025年7月のGINZA FLAGと、同社は着実に「体験型・情報発信型」の店舗を増やしてきた。薬剤師や登録販売者が、単に薬を売るだけでなく、最新のトレンドや高度な美容・健康情報を提供する「情報発信のスペシャリスト」としての役割を求められていることが、この店舗設計からも見て取れる。 将来の職場としてドラッグストアを視野に入れている学生にとって、こうしたフラッグシップ店の動向は、業界の「未来の常識」を知る一助となるだろう。単なる「小売業」としての枠を超え、ライフスタイルそのものを提案する企業の姿勢が、この渋谷の地に結実している。
- 【薬師のことのは|ほうかご】有機化学って、やる意味あるの?―薬剤師になって気付いたあの時の学び―
執筆:しほ(薬剤師) 薬学生の皆さん、はじめまして。しほと申します。私は薬学部が6年制になった後に入学し、皆さんと同じように実務実習やCBT、OSCEなども受けてきました。 皆さんは日々の授業中や、学期ごとのテスト勉強をしている際、「薬剤師になってから、こんな内容使うの?これやる必要あるのかな…」と思いながら勉学に勤しまれていることはありませんか? また、一夜漬けの暗記や、テストが終わったら何も覚えてない!なんてこと…。ここでお話ししたいのは、結論、「今は忘れてしまってもいい。とにかくこなすべし!」ということです。 ここでは、国試を受けてから、そして薬剤師になってから、私が気付いた『学生時代に”あれ”をやる意味』をお話できればと思います。 今日のテーマは、多くの方が壁に直面するであろう、『有機化学』についてです。まず薬剤師になる前に、皆さんが受けるのは国試です。国試・卒試に受からなければ、薬剤師にはなれませんので、まずは、ここを突破することを考えることでしょう。 有機化学については、私は低学年の頃に履修しました。じっくり理解をして身につけることにより、何年かたっていても思い出せる科目の一つです。例えば、共鳴です。苦手な方も多いのではないでしょうか。共鳴こそ、何度も問題を解き、法則を体に染み込ませることで、何年か後、国試・卒試の勉強をするときに意外とすんなり思い出すことができます。 「どうせ忘れるのなら、国試・卒試の時に勉強すればいいや」そう思う方もいらっしゃるかもしれません。国試・卒試前には、他にも覚えなければいけないことがたくさんあります。膨大な問題量が、次から次へと降ってくるのです。直前になって、有機化学をじっくり勉強し、解く練習をする時間があるでしょうか。きっと、有機化学よりも優先して、点数がすぐ取りやすい科目の暗記に走るのではないでしょうか。 そして、「有機化学は捨てた!」と言いながら国試に挑み、結果、その一問の失点に泣く…ということに…。そんなことがあっては、在学中の講義も、テストも乗り越えてきたあの努力と時間も、非常に惜しまれます。もったいないですよね。したがって、まず国試・卒試の合格の近道のためにも、今のうちに理解しておくことが大切なのですね。 そして、薬局の薬剤師になってから、有機化学が何の役に立つのか?疑問に思いませんか。例えば、有機化学の授業で、光学異性体のことを学びますよね。S体とR体ですね。薬局で働いてみたらこんなお薬がありました。 ・ジルテック(セチリジン)と、ザイザル(レボセチリジン) ・オメプラール(オメプラゾール)と、ネキシウム(エソメプラゾール) ・アモバン(ゾピクロン)と、ルネスタ(エスゾピクロン) 何か気が付くことはありませんか? どれも成分名の初めの音に、「SやR」が付いていますね。例えば、ジルテックは、S体とR体が含まれているラセミ体です。このうちR体だけを抽出したものがザイザルです。このR体は、S体よりも薬理作用が強力であり、かつ、長時間持続します。他にも、オメプラールは、S体とR体を含んでいますが、ネキシウムは、代謝酵素CYP2C19の影響が小さいS体のみを抽出したものです。これにより、遺伝的体質による効果の個人差を少なくすることができます。このように、光学異性体に関連する薬剤が複数存在し、それぞれの特徴が異なります。先ほどの例のように、薬理作用が強力になった製剤や、効果の個人差をなくした製剤もあれば、副作用が軽減された製剤などさまざまです。処方された薬が変更になった患者さんに、「この薬は、前の薬とどう違いますか?」と聞かれた際、光学異性体について理解をしないまま、正しい説明ができるでしょうか。近年では、PPIがOTCとしても販売されるようになりましたね。病院で処方歴のあるネキシウムと、OTCのオメプラゾール配合製剤について尋ねられた場合、患者さんに分かりやすく説明し、安心・安全にお使いいただけるでしょうか。このように、現場につなげるためにも、今のうちに基礎を固めておく意味が大いにあるのです。 今回は、『学生時代に”有機化学”を学ぶ意味』をお伝えしました。きっと、学生のうちにしか経験できないことがたくさんあることと思います。6年間の学生生活を充実させながら、今やっていることが必ずいつか、将来の自分に繋がると信じて卒業なさってください。本稿が皆さんの学びの一助となれば幸いです。 プロフィール しほ:薬剤師。一児の母。薬学の専門性に加え、英語学習にも挑戦。AI時代だからこそ、自身の「生の声」で伝えることを大切にし、ポッドキャストやブログを通じて健康・育児・学習の記録を多角的・多層的に発信している。【note】 https://note.com/kusushi_kotonoha
- 製薬産業の変革を通じた持続可能な医療モデルの構築を目指して
日本製薬工業協会(製薬協)は2026年2月19日、会長の宮柱明日香氏による記者会見を開催した。就任から9カ月間の活動を総括するとともに、日本の創薬力強化と医療制度の持続可能性に向けた具体的な提言がなされた。 宮柱氏 「医療のトリレンマ」と薬価制度の抜本的課題 宮柱氏は、現在の日本が直面している困難な選択について、「医療のトリレンマ」という概念を用いて強い警鐘を鳴らした。これは「国民皆保険の維持」「高度な医療・薬剤の提供」「医療費抑制・負担軽減」という3つの要素が三つ巴の関係にあり、限られた資源の中で全てを同時に成立させることが極めて困難な状況を指している。 この課題に対し、日本がどの方向を選択するのかについての国民的な議論が不可欠であるとした。あわせて、現行の制度が薬価引き下げに偏っている現状を指摘し、特に革新的新薬の価値を正当に反映するための制度改善を訴えた。 その柱の一つとして掲げられたのが、「乖離率に依存しないシンプルな価格維持の仕組み」の構築である。現行制度では、市場での取引価格と公定薬価の差(乖離率)に基づき、たとえ特許期間中の新薬であっても改定のたびに薬価が引き下げられる。宮柱氏は、「流通段階の価格競争の結果である乖離率によって、創薬イノベーションの価値が損なわれる現状を是正すべきだ」と強く主張した。 具体的には、特許期間中の新薬については乖離率に左右されず、原則として価格を維持するルールへの転換を提唱している。これにより、市場での一時的な価格変動からイノベーションの評価を切り離し、投資回収の予見可能性を担保することで、日本市場の魅力を高め、ドラッグ・ロスの解消につなげる狙いだ。あわせて、革新的新薬の価値を正当に反映する算定ルール、および売上規模のみを基準とする合理性に乏しい再算定の見直しという計3点について、早急な制度改善が必要であると強く訴えた。 医療DXの主幹組織新設と「機運醸成」への挑戦 社会保障制度の持続可能性を高める鍵として、医療DXを通じた資源の効率化と最適配分が強調された。宮柱氏は、医療・介護、産業界、行政が縦割りを超えて連携し、全体最適の視点でDXを推進することが不可欠であるとしている。 この取り組みを加速させるため、製薬協に「医療DX推進主幹組織」を新設したことを明らかにした。本組織を中心に、各ステークホルダーと「医療・健康全体のDX価値定量化」に基づく議論と対話を深めていく方針だ。エビデンスに基づきDXがもたらす便益を可視化することで、社会全体の機運を醸成し、実装を加速させる。これにより、生み出されたリソースを最適配分し、日本型医療モデルの持続可能性を高めていく考えだ。 「博士人材の先細り」への危機感と次世代育成 日本の創薬力の源泉である「人」の基盤が、構造的な課題により深刻な危機に瀕している現状も詳述された。宮柱氏は、日本における理工系分野への進学者割合がOECD諸国に比べて低く、とりわけ女性の比率は最下位であるという報告を引用し、人材の裾野が十分に広がっていない現状を危惧した。 特に、医薬品産業は全産業の中で博士号取得者の割合が最も高く、高度な専門性が求められる。しかし、少子化に伴う将来的な「博士人材の先細り」は、創薬力の根幹を揺るがしかねない。この状況を打破するため、産業界として女子中高生のSTEM分野への進学を支援する「Girls Meet STEM」への参画や、科学技術館での実験ショー、大学での出張授業などを展開。多様な人材が科学の道を選べる土壌を整え、次世代の創薬を担う人材の裾野を広げる決意を示した。 「未来のあたりまえ」の創出 次世代への啓発活動の象徴的な取り組みとして、今年度は日本最大級のコピーライティング公募賞である「宣伝会議賞(中高生部門)」に初めて協賛した。全国の中高生から寄せられた多数の言葉の中から、製薬業界の革新性と使命を表現する言葉として「まだ見ぬ治療を、未来のあたりまえに。」を協賛企業賞に選出した。 宮柱氏は、このフレーズを未来の世代からの切実な期待として受け止め、創薬基盤の強化、国内製造力の強靱化、医療DXによる価値の再配分といった重点課題に対し、日本の成長を守る土台づくりとして全力で取り組む決意を語り、会見を締めくくった。
- 大学生全体の約37%が奨学金を利用
全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連)は、最新の調査データに基づく『 大学進学ガイドブック』 を2026年3月1日に発行する。約2万9千人の保護者( 「2025年度保護者に聞く新入生調査」 )や学生を対象とした大規模な実態調査(「第61回学生生活実態調査」)により、物価高騰や教育のデジタル化が家計に与える影響が浮き彫りとなっている。 下宿生は平均201万円 調査によると、受験から入学、新生活準備までにかかる総額は、下宿生で平均201万1,400円、自宅生で平均147万600円であった。 特に進路や専攻による差が顕著であり、最も高額な「私立・医歯薬系・下宿生」では平均約259万7,900円に達している。また、一般受験生の約半数が、結果的に入学しなかった大学に対しても「入学金等の納付金」を支払っているという、併願戦略に伴う家計負担の重さも再確認された。 PC・教材費は20万円超 大学教育のICT化は一段と進み、約90%の学生が「パソコンやタブレットを持ち込まなければ受けられない授業がある」と回答している。これに伴い、パソコンを含む教科書・教材費は20万円を超える水準となっており、1人1台のデバイス所有が家計の必須支出として定着している。 下宿生の収支構造と生活の質 下宿生の月間の生活実態についても、厳しい現状が報告されている。 仕送り額: 約7万4,652円 支出合計: 約13万8,020円 この約6万円の差額を埋めるため、下宿生の約74%がアルバイトに従事し、不足分を奨学金で補っている。また、経済的な余裕のなさを反映してか、32.7%の学生が「朝食を欠食」しており、健康面や生活の質の維持が大きな課題となっている。 奨学金利用と支援の現状 経済的支援の必要性も高まっており、学生全体の約37%が奨学金を利用している。下宿生ではその割合は40%を超え、寮生では50%以上に達する。給付型と貸与型の併用も進んでいるが、卒業後の返済負担が社会的な議論の対象となっていることも、同ガイドブックは指摘している。 本冊子の概要 大学生協では、これらのデータをもとに「入学準備説明会」等を通じて新入生と保護者のサポートを行う。 書名: 2026大学進学ガイドブック 発行日: 2026年3月1日 配布先: 高校の進路指導室、PTA、塾・予備校など(※一般への直接注文販売はなし)
- 薬学教育の新局面
2026年2月16日に「第25回 新薬剤師養成問題懇談会」が開催された。同会議の資料に基づき、現在の薬学教育と薬剤師を取り巻く重要な動向について紹介する。 1.臨床実践能力の更なる向上を目指す「薬学実践実習」の導入 薬剤師としての臨床実践能力をより一層高めるため、実習制度に新たな枠組みが導入されようとしている。2023年12月に発出された「臨床における実務実習に関するガイドライン」に基づき、従来の22週間にわたる実務実習を完遂した後、学生の希望や各大学の教育資源に応じて、追加で8週間程度の「薬学実践実習」を選択で実施する仕組みの構築が進められている。 この実習は、病院や薬局といった医療現場での高度な学修だけでなく、医薬品企業や行政、あるいは海外研修など、薬剤師の多様な進路を見据えた実践的な能力を養うことを目的としている。実施にあたっては、病院薬剤師側から地域連携を学ぶ場としての期待が寄せられる一方で、実習費用の負担のあり方や、受け入れ側の体制整備、指導薬剤師を養成するためのワークショップの充実など、円滑な推進に向けた具体的な課題解決が現在進行形で議論されている。 2.薬学教育の質保証と定員抑制に向けた制度改革 社会ニーズの変化に伴い、薬学教育の「量」から「質」への転換が急務となっている。2025年度時点で国内の薬学部数は81学部に達し、薬剤師数も32.9万人を超えている。しかし、将来的な薬剤師の供給過剰予測(厚生労働省の需給推計など)を受け、今後は需給バランスを考慮して薬学部の新設や定員増を抑制する方針が、文部科学省の設置認可基準の改正等を通じてすでに制度化されている。 特に懸念されているのが、学生の学力動向である。薬学共用試験(CBT)の受験者数は2016年度をピークに減少傾向にあり、これは入学後に共用試験を受ける4年次まで到達できない学生が増えていることを示唆している。また、CBTの全国平均点はここ5年で約2点低下しており、基準点を大幅に下回る層が増えているというデータも報告された。こうした背景から、標準修業年限内での国家試験合格率や定員充足率が著しく低い大学への対応が、制度上の大きな焦点となっている。 3.成果重視へとシフトする薬学教育評価と質の向上 薬学教育の質を維持するための評価体制は、単なる知識の伝達から、教育成果(アウトカム)を重視する方向へ大きく舵を切っている。 2022年度改訂の「薬学教育モデル・コア・カリキュラム」では、臨床スキルの習得とともに「科学的探究心」の育成が強く打ち出された。これは、薬剤師が日進月歩の医療現場において、自らエビデンスを評価し、最適な薬物治療を提案できる能力を重視しているためである。教育評価の主眼も、学生が知識を暗記したかではなく、臨床現場で主体的に考え行動できる資質を備えたかという点に移っている。 また、大学評価においては、国家試験合格率という表面的な数字だけでなく、中途退学率や留年率を含めた「教育のプロセス」が厳しく問われるようになっている。定員割れが続く大学に対しては、文部科学省や関係団体から教育環境の維持に関する厳しい意見が出されており、質の伴わない教育機関への是正措置が検討されている。同時に、実務実習を支える指導薬剤師の資質向上も図られており、養成ワークショップの内容刷新を通じて、現場の教育機能を強化し、次世代を担う質の高い薬剤師の安定的な輩出を目指している。











