製薬産業の変革を通じた持続可能な医療モデルの構築を目指して
- toso132
- 16 時間前
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日本製薬工業協会(製薬協)は2026年2月19日、会長の宮柱明日香氏による記者会見を開催した。就任から9カ月間の活動を総括するとともに、日本の創薬力強化と医療制度の持続可能性に向けた具体的な提言がなされた。

「医療のトリレンマ」と薬価制度の抜本的課題
宮柱氏は、現在の日本が直面している困難な選択について、「医療のトリレンマ」という概念を用いて強い警鐘を鳴らした。これは「国民皆保険の維持」「高度な医療・薬剤の提供」「医療費抑制・負担軽減」という3つの要素が三つ巴の関係にあり、限られた資源の中で全てを同時に成立させることが極めて困難な状況を指している。
この課題に対し、日本がどの方向を選択するのかについての国民的な議論が不可欠であるとした。あわせて、現行の制度が薬価引き下げに偏っている現状を指摘し、特に革新的新薬の価値を正当に反映するための制度改善を訴えた。
その柱の一つとして掲げられたのが、「乖離率に依存しないシンプルな価格維持の仕組み」の構築である。現行制度では、市場での取引価格と公定薬価の差(乖離率)に基づき、たとえ特許期間中の新薬であっても改定のたびに薬価が引き下げられる。宮柱氏は、「流通段階の価格競争の結果である乖離率によって、創薬イノベーションの価値が損なわれる現状を是正すべきだ」と強く主張した。
具体的には、特許期間中の新薬については乖離率に左右されず、原則として価格を維持するルールへの転換を提唱している。これにより、市場での一時的な価格変動からイノベーションの評価を切り離し、投資回収の予見可能性を担保することで、日本市場の魅力を高め、ドラッグ・ロスの解消につなげる狙いだ。あわせて、革新的新薬の価値を正当に反映する算定ルール、および売上規模のみを基準とする合理性に乏しい再算定の見直しという計3点について、早急な制度改善が必要であると強く訴えた。
医療DXの主幹組織新設と「機運醸成」への挑戦
社会保障制度の持続可能性を高める鍵として、医療DXを通じた資源の効率化と最適配分が強調された。宮柱氏は、医療・介護、産業界、行政が縦割りを超えて連携し、全体最適の視点でDXを推進することが不可欠であるとしている。
この取り組みを加速させるため、製薬協に「医療DX推進主幹組織」を新設したことを明らかにした。本組織を中心に、各ステークホルダーと「医療・健康全体のDX価値定量化」に基づく議論と対話を深めていく方針だ。エビデンスに基づきDXがもたらす便益を可視化することで、社会全体の機運を醸成し、実装を加速させる。これにより、生み出されたリソースを最適配分し、日本型医療モデルの持続可能性を高めていく考えだ。
「博士人材の先細り」への危機感と次世代育成
日本の創薬力の源泉である「人」の基盤が、構造的な課題により深刻な危機に瀕している現状も詳述された。宮柱氏は、日本における理工系分野への進学者割合がOECD諸国に比べて低く、とりわけ女性の比率は最下位であるという報告を引用し、人材の裾野が十分に広がっていない現状を危惧した。
特に、医薬品産業は全産業の中で博士号取得者の割合が最も高く、高度な専門性が求められる。しかし、少子化に伴う将来的な「博士人材の先細り」は、創薬力の根幹を揺るがしかねない。この状況を打破するため、産業界として女子中高生のSTEM分野への進学を支援する「Girls Meet STEM」への参画や、科学技術館での実験ショー、大学での出張授業などを展開。多様な人材が科学の道を選べる土壌を整え、次世代の創薬を担う人材の裾野を広げる決意を示した。
「未来のあたりまえ」の創出

次世代への啓発活動の象徴的な取り組みとして、今年度は日本最大級のコピーライティング公募賞である「宣伝会議賞(中高生部門)」に初めて協賛した。全国の中高生から寄せられた多数の言葉の中から、製薬業界の革新性と使命を表現する言葉として「まだ見ぬ治療を、未来のあたりまえに。」を協賛企業賞に選出した。
宮柱氏は、このフレーズを未来の世代からの切実な期待として受け止め、創薬基盤の強化、国内製造力の強靱化、医療DXによる価値の再配分といった重点課題に対し、日本の成長を守る土台づくりとして全力で取り組む決意を語り、会見を締めくくった。






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