「混ざり合う」ことで生まれる居場所。薬学生が創るユースセンターと薬育のカタチ
- toso132
- 4 日前
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クレヨン 代表
鈴木憲子

薬学部に在籍しながら、中高生の居場所づくりと「薬育」を軸に活動する任意団体「クレヨン」。2025年3月に設立されたこの団体は、代表の鈴木憲子さん(北里大学薬学部)の実体験と、薬学生としてのアイデンティティーが融合して生まれた。型にはまらない、しなやかな活動の裏側にある思いを聞いた。
―「クレヨン」を設立した背景について教えてください。
一番のきっかけは、私自身が高校生の時に行っていた「ユースセンター」での原体験です。ユースセンターとは、学校でも家でもない、中高生のための第3の居場所のこと。勉強や役割から少しだけ離れて、ありのままの自分に戻れる自由な空間です。私が行っていた場所(「文京区青少年プラザb-lab(ビーラボ)」)は、無料で音楽スタジオを借りられたり、ゲームができたりと、10代が「ゲスト」ではなく「主役」になれる開放的な場でした。そこでスタッフ(ユースワーカー)と関わる中で、学校の先生や親のように指導する立場ではなく、一人の人間として対等に向き合ってくれる大人たちとの出会いを通じて、自身の価値観が大きく広がる経験をしました。
大学2年生の時、高校時代に行っていたb-labに、今度はユースワーカーとして戻りました。しかし、ここで薬学生特有の壁にぶつかります。ボランティアの期間が終わり、より深く運営に携わるインターンに興味を持ちましたが、薬学部の過密なカリキュラムでは、平日の昼間に関わることが条件となるインターン活動は物理的に不可能でした。
周囲の文系学生たちが自由にボランティアやインターンに励む姿を見て、「自分は勉強しかしていない」という焦りも感じていました。「ユースワークを続けたいけれど、今の仕組みでは関われない」。そんな葛藤の中、b-labの館長にも相談し、「既存の枠組みに合わせるのが難しいなら、自分の生活スタイルに合う形を自分で作ればいい」という、情熱に突き動かされた前向きな衝動で、2025年3月11日に団体を設立しました。
―「クレヨン」という名前には、どのような願いが込められていますか?
一言でいうと「十人十色」をイメージしています。色鉛筆だと互いの色が重なりにくく、逆に絵の具だと混ざりすぎて元の色が消えてしまいますよね。 その点クレヨンは、自分自身の個性をしっかり保ちつつ、重ねることで相手の色ともちょうどよく混ざり合うことができます。「中高生が自分らしさを失わずに、それでいてバラバラでもない。互いの個性が消えるほど混ざりすぎず、ちょうどいい距離感で他者と交われる場にしたい」にしたいという願いを込めています。
―具体的な活動内容について教えてください。

現在は、「ユースワーク」と「薬育」の2つを軸に活動を展開しています。
ユースワークについては、国立・国分寺エリアで週に1回、中高生が無料で自由に過ごせる場を開いています。おしゃべりやボードゲーム、勉強など、それぞれが好きなように過ごしており、私たちスタッフも何かを押し付けるのではなく、彼らから求められた時に話し相手になるような、フラットな関わりを大切にしています。
一方の薬育については、活動を続ける中で「自分にしかできないアイデンティティー」を模索した結果、薬学部での学びに行き着きました。大分県で薬局薬剤師として薬育を実践されている「NPO法人日本薬育研究会」代表の小路晃平さんの活動を新聞で知り、連絡を取ってオンラインで相談させていただいたことが始まりです。現在は資料提供などの協力をいただきながら、学校での出張授業や、地域の公共施設と連携したイベントを行っています。
―子供に接する際に大切にしている「距離感」とは?
最も大切にしているのは、こちらから何かを「押し付けない」ことです。ユースセンターには、学校になかなか行けていない子もいれば、進学校でプレッシャーを感じている子も来ますが、私たちは特定のレッテルを貼りません。話し相手になってほしいと言われれば全力で話し、一人でいたい子がいればそっと見守る。付かず離れずの距離感で、彼らが「主役」でいられる空間を維持することを心がけています。私たちが目指すのは、特定の悩みを持つ子だけの支援場所ではなく、どんな子でもふらっと来られる日常の延長線上にある場です。いわゆる「普通」とされる子も、悩みを抱える子も、境目なくみんなが自然に混ざり合える場でありたいと考えています。
―薬育では、どのような工夫をしていますか?

あえて薬育という言葉を前面に出さないように工夫しています。例えば、地域の施設と連携したイベントでは「クラフトコーラを作ろう」という企画を行いました。実はクラフトコーラの材料となるスパイスの多くは、漢方薬の原料にもなる生薬なんです。クラフトコーラを煮出す工程は、漢方薬を煎じる過程にとても似ています。「コーラを飲んでみたい」という好奇心で来た子が、作業を通じて「これって薬の原料なんだ」「漢方って意外と身近なんだ」と、自然に薬への興味を持つ。そんな「いつの間にか学んでいた」という、学びの入り口の設計を大切にしています。
―運営面で意識していることは?
現在はさまざまな学部の大学生と社会人が入り混じる7名体制です。多様な視点を持つメンバーが集まっているからこそ、中高生に対して多角的な関わりができることがクレヨンの強みです。
私たちは中高生に「やってみたいことをやってみよう」と伝えていますが、運営メンバーに対しても同様に「やりたいことを形にできる」環境でありたいと考えています。実際に、スタッフの「駄菓子屋をやりたい」という声をきっかけにイベントを開催しました。その際も、できる限り地域と関わりたいという思いから、地元のカフェとコラボレーションを行いました。
こうした積み重ねを通じて地域の方々と交流し、確かな信頼関係を築いていきたいと考えています。

―学業や実習と活動を両立させる、モチベーションの秘訣は?
今この瞬間にしか得られない体験という感覚が非常に強いですね。薬学部の勉強は確かにハードですが、あえてクレヨンの枠を超えた活動にも積極的に参加しています。例えば春休みを利用して、小学校の特別支援学級でボランティアをしたり、地域のサッカーコーチをしたりと、現場に足を運ぶことを大切にしています。
かつてユースセンターに通う前の高校生の頃の私は、無意識のうちに「不登校」や「障がい」という言葉に対して偏見を持っていたかもしれません。しかし、現場で一人ひとりの子供と向き合うと、そんな枠組みには何の意味もないことに気づかされます。こうした実体験が、机の上での勉強以上に、私を突き動かすエネルギーになっています。
―任意団体として運営を継続していくうえでの苦労や工夫は?
拠点の確保と周知が最初の高いハードルでした。最初は知り合いの紹介で国立市のつてをたどり、1カ月という短期間で立ち上げに漕ぎ着けました。公民館の協力で市内の中学校に1,500枚のチラシを配ったり、こども食堂の公式LINEで情報を流してもらったりと、地道な広報活動を続けています。
最近では、午前中にフリースクールを行っている場所の空き時間を貸していただくなど、地域の方々の理解を得ながら場所をつないでいます。
―新しく挑戦したいことはありますか?
今取り組んでいる「ユースワーク」と「薬育」の融合を、さらに深めていきたいです。薬剤師として社会に出たとき、病院や薬局では本当に多様な背景を持つ方々と出会います。これまでの経験は、将来、薬剤師として患者さんの背景に寄り添うためのかけがえのない財産になると信じています。将来的には、地域の薬局が処方箋の有無にかかわらず、学校帰りの子供がふらっと立ち寄って悩み相談や宿題ができるような、ユースセンターの役割も担える場所になれば――。そんな新しい薬剤師のカタチを模索していきたいです。
―薬学生にメッセージをお願いします。
薬学部の勉強は確かに大変で、私も最初は「勉強しかしていない自分」に焦りを感じていました。でも、「まずはやってみよう」という思いを大切に一歩踏み出したことで、講義室では出会えない多様な価値観に触れることができました。薬剤師として将来、多くの患者さんと向き合うとき、学生時代に多様な経験をしたことは、必ず皆さんの強みになります。難しく考えすぎず、今しかできない経験を楽しみながら、小さな一歩を踏み出してほしいと思います。
プロフィール
鈴木憲子(すずき・のりこ)
2004年生まれ。北里大学薬学部4年。大学2年生時、文京区青少年プラザb-labにて8カ月間活動し、「ユースワーク」について学ぶ。その経験をもとに、ユースワークを軸とした任意団体「クレヨン」を設立し、代表に就任。現在は、薬学の知識を生かしながら、中高生の居場所づくりに取り組んでいる。また、一般社団法人日本薬学生連盟2026年度副会長外務理事を務める。趣味はバスケットボール。中学・高校・大学と一貫して部活に励み、中学では区選抜に選出。大学では医療系学生の関東大会において春秋連覇を達成した。
Instagram:crayon_youthcenter



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