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【日本家庭薬協会】次世代経営者が描くセルフメディケーションの未来図

  • toso132
  • 10月23日
  • 読了時間: 6分

更新日:10月24日


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原澤氏
原澤氏

日本家庭薬協会未来事業推進委員会は、2025年10月14日に委員会開催300回を記念する決起集会を開催した。決起集会実行委員長の原澤周一郎氏(原沢製薬)は、今回の企画背景について、「祝うこと」ではなく、「家庭薬の未来に危機感を抱き、次の時代につながる集会にしたい」という強い思いがあったと説明した。この思いから、セミナーとパネルディスカッションを主軸とするプログラムが組まれ、国民皆保険制度が直面する構造的な課題に対し、家庭薬の歴史に根差す「自助」の精神を再認識し、次世代が具体的な戦略を示す場となった。



未来事業の歴史に刻まれた「協業」の重要性

森下氏
森下氏

日本家庭薬協会会長の森下雄司氏(森下仁丹)は挨拶に立ち、自身が約15年近く前、若手会として次世代育成を目的とした活動から「未来事業」に関わってきた経緯を明かした。森下氏は、現在の実行委員が業界に対する危機感を持って企画を立案し活動していることを高く評価したうえで、委員会が300回の歴史の中で、当初想定していた「未来」は変化しているとの認識を示した。

現在の委員会活動は、インバウンド対応、海外販売、協業など、一社単独ではリスクや負担が大きい課題に対し、業界団体として各社が協力し、リスクを制限しながら新しいチャレンジができる場を提供している点に大きな意義があると述べてた。森下氏は、委員会が次世代の経験を積む場としての役割も担っていると強調し、「次の100回に向けて」業界が一丸となり未来に向けて課題に向き合っていく決意を表明した。



藤井氏
藤井氏

続いて、未来事業推進委員会委員長の藤井隆太氏(龍角散)が「家薬の歴史をテーマに」と題して講演した。藤井氏は、委員会の前身が約30年前に存在した「協業委員会」と「国際委員会」の再編・統合により発足した経緯を説明し、当時から共同研究、共同開発、共同配送、共同販売といった先進的な検討が行われていたと回顧した。複数の造り酒屋がブランドを一本化した事例など、他業界の成功モデルを引用しながら、一社では困難な課題を克服するためには、業界内での「協業」が不可欠であることを強調した。アライアンスを組むうえでの原則として、対外的な交渉力の最大化、プロジェクトの出入り自由、そして不必要な情報の非公開を徹底していると説明した。



医療制度の危機を「追い風」とする「自助」の提言

講演後半では、厚生労働省社会保障審議会医療保険部会にも携わる藤井氏の視点から、日本の医療制度が直面する危機的状況について語った。藤井氏は、急激な高齢化による医療費増大と、給付と負担のバランスがアンバランスになっている現状を指摘し、政府の医療費適正化計画にもかかわらず状況は悪化の一途を辿っていると懸念を示した。

藤井氏の見通しでは、今後は大病院への集中と、国民が簡単に今まで通りに受診ができなくなる状況が現実になるとされる。藤井氏は、「病院へ行くのが一番時間がかかり、待ち時間も長い、薬も高くなる」という状況は、国民の受診抑制を招きかねないものの、これを「追い風」として捉え、「患者の行動変容(セルフメディケーション)を促す好機」とすべきであると論じた。

日本の医療制度の根底には、医師を貴重な存在とし、軽い症状は家庭薬などで対応し、それでも治らない場合に医師に頼るという「自助」の精神があったとし、この精神こそが今後の日本の医療を支える鍵になると提言した。

一方で、藤井氏は、医療用で使用される強い薬の安易なOTC化には、誤解による自己判断での使用が増え、事故につながる危険性があるため反対の姿勢を示した。「高いリスクの薬はOTC不可、低いリスクの薬はOTC化を検討」という段階的な導入の必要性を訴え、業界として将来をしっかり設計していくべきだと締めくくった。


パネルディスカッション:家庭薬の多角的価値と次世代戦略

坂上氏
坂上氏

藤井氏の提言を受け、次世代経営層によるパネルディスカッションが行われた。進行役を務めた坂上聡太氏(樋屋製薬)は、年間約45兆円にも上る医療費増加による財政圧迫という課題を挙げ、家庭薬メーカーがどのような役割を担い、貢献できるかを多角的に掘り下げることを促した。



地域社会における貢献:ライフラインと相談体制

パネリストらは、地域社会の高齢化や災害時といった課題に対し、家庭薬が「ライフライン」「応急処置」「相談体制」として多角的に貢献していることを確認した。

柴田氏
柴田氏

柴田穣氏(大幸薬品)は、「正露丸」が上下水道未整備の時代から第一選択薬として重宝されてきた歴史に触れ、災害時を含む緊急時のライフラインとしての役割を強調した。森宏之氏(丹平製薬)は、歯痛薬「今治水」が、災害時や海外出張などすぐに医療にかかれない状況下での応急処置のニーズに応えていると述べた。

大泉梓氏(大和生物研究所)は、直販の「相談薬局」の組織が、コロナ禍において顧客の健康相談を受け付け、不安の解消と自助努力の促進に貢献できた事例を紹介した。堀厚氏(救心製薬)は、医師に簡単にかかれない未来を見据え、家庭薬メーカーは薬だけでなく情報も含めて提供すべきであり、日頃から家庭薬を備えることが最大の防衛策となると結論づけた。

森氏
森氏
大泉氏
大泉氏
堀氏
堀氏



財政への貢献:タイパとQOLという新しい価値

セルフメディケーション推進による医療費適正化への貢献については、新しい切り口が提示された。

柴田氏は、人気のクリニックでの長時間待機を避け、OTC薬で迅速に対応する「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する層へのアプローチが、医療機関の不要な受診抑制に繋がると指摘した。森氏は、高齢化が進む中で、医療の適正化を促すのは責務とし、DXと連携した高齢者への個別医療的な情報提供による「消費者教育」の重要性を強調した。

大泉氏は、海外の事例として、医療費無料だが薬代は原則自己負担というデンマークの仕組みが、「健康であることが経済的」なインセンティブを生み出していることを紹介した。堀氏は、OTC化による医療費削減効果に加え、家庭薬のもう一つの魅力が「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上」を通じた予防効果であると主張した。堀氏は、乗り物酔い止めによる外出促進の例を挙げ、QOL向上による経済効果を今後もっとアピールしていく必要があると力説した。




グローバルでの信頼構築と次世代の決意

グローバル社会における役割について、堀氏は、日本の家庭薬が海外で人気を博しているのは、世界的なセルフケアの重要性の高まりの中で「日本の家庭薬の品質」が注目されている結果であるとし、外国人にも正確な情報を届ける責務があり、情報と品質をセットで提供する姿勢がグローバルでの信頼を築く大前提になると述べた。

最終講として、パネリストらは、委員会の「アイデアベースの議論ができる」強みを生かし、アジア市場への情報発信、新製品開発、そして次世代が主体的に業界の将来を考えていくことの重要性を確認した。森下氏が掲げた「次の100回に向けて」というメッセージを踏まえ、家庭薬が日本の医療の「自助」の精神を担う存在として、業界が一丸となり、未来を切りひらいていく決意を表明した。

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