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創薬エコシステムの未来とは? 日本を代表する研究開発拠点のリーダーたちが語る

  • ito397
  • 22 時間前
  • 読了時間: 6分

再生医療のiPS細胞(山中伸弥氏)や、がん免疫治療薬の発見につながった研究(本庶佑氏)をはじめ、今年もノーベル生理学・医学賞に坂口志文氏、同化学賞に北川進氏が選出されたように、日本では世界的に見てもトップレベルの革新的な基礎研究が生まれています。

このように日本は創薬の分野で非常に高いポテンシャルがありつつも、スタートアップ企業が育つ環境が不十分だったり、国際基準での製品開発への遅れなど、世界市場での競争に打ち勝つためには、多くの課題があります。

10月9日、パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催されたバイオ産業の大規模展示会「BioJapan 2025」において、「創薬拠点クロストーク:10年後の日本の創薬エコシステムの未来」と題したセミナーが行われました。

国内を代表する4つの地域創薬研究拠点のリーダーたちが一堂に会し、それぞれの特長と課題を共有。お互いに連携をとって日本発の創薬エコシステム(*)を作り出す可能性について意見を交わしました。日本の創薬産業が世界で再び存在感を示すために、国内に閉じた競争やセクショナリズムを超えて、「連携とグローバル化」を目指すべきという方向に議論は展開しました。


*エコシステム … 元は「生態系」を意味する言葉で、企業や人材、技術、資金が集積し高い生産性を持つ環境・インフラが整った仕組みを指す。



「創薬拠点クロストーク:10年後の日本の創薬エコシステムの未来」パネリスト


柏の葉キャンパス 土井俊彦氏(国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院 病院長)


湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク) 藤本利夫氏(アイパークインスティチュート株式会社 代表取締役社長)


中之島クロス 澤芳樹氏(一般社団法人未来医療推進機構理事長/大阪けいさつ病院院長)


神戸医療産業都市 森浩三氏(神戸市役所企画調整局医療産業担当局長)


ファシリテーターは米国のライフサイエンス系スタートアップ支援施設「ラボセントラル」のCEOであるマギー・オトゥール氏が務めました。


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日本のエコシステムが国際化できない要因と課題


はじめに4拠点の代表によるそれぞれの特長を紹介するプレゼンが行われ、続いてのディスカッションでは現在の日本の創薬エコシステムが抱える大きな課題として、「グローバル化の遅れ」と「投資の難しさ」が指摘されました。

湘南アイパークの藤本氏は、海外の投資家から「国民1億人の中にいったい幾つのバイオクラスターを作るつもりなのか」「日本はブラックボックスで、どこに投資していいのかわからない」と指摘されてしまうように、情報が集約されていない現状を挙げ、日本の各拠点をつないで情報共有をはかる重要性を訴えました。

また、中之島クロスの澤氏は、日本の投資家でさえ、国内よりアメリカでの投資を好む実情に触れ、「日本でいくら投資しても先が見えにくい」という課題を克服するため、最初から「米国FDA(**)承認ができるレベルのエコシステム」を目指す必要性を述べました。さらに、アントレプレナーシップ(起業家精神)の不足も課題として挙げられ、特にアジア圏とのハングリー精神の差も、日本の競争力を鈍らせているとの意見もあがりました。


**FDA … アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)。食品、医薬品、動物薬、化粧品、医療機器、玩具など)の安全性・有効性を確保するための機関。アメリカで医薬品を販売するためには、このCDER(FDA)で新薬の承認を取得する必要がある。


日本の創薬産業が世界で再び存在感を示すためには


10年後の未来を見通すための方向性についても意見が交わされました。そこでは、地理的に日本各地の創薬開発拠点群がバラバラに動くのではなく、それぞれの強みを活かした役割分担と有機的な連携の必要性が語られ、「シーズの掘り起こし」、「0→1のスタートアップ育成」、「出口・臨床試験」、「実用化」といったお互いを補完し合う関係を目指すことが共通の見解となりました。

柏の葉の土井氏は、グローバル開発において「日本のサイエンスのシーズが育成しきれてない現状がある」とし、この10年でアカデミアシーズをどう育てるかが重要だと語りました。

また神戸市の森氏は「西日本のシーズ掘り起こしやバイオものづくり」といった役割を担い、湘南アイパークの神戸進出を例に挙げ、「地域間の有機的な連携」をこの1年間で具体的に強くしていきたいと述べました。


国内の優れたリソースを連携することで国際競争力の回復へ


澤氏はこの連携を「天の時、地の利、人の輪」という三位一体の要素によって加速されると説明しました。政府によるスタートアップ支援やCDMO事業(医薬品開発製造受託)への注力は「天の時」であり、狭い国土に高いサイエンスリソースが分散している状況は「地の利」、これを活かすため、産官学、産業界、アカデミアが一体となるチーム作りこそが「人の輪」であるとし、これを加速することで10年後には日本の高いサイエンスが人類に貢献することができる、という期待感を示しました。

海外から見てわかりやすく、投資しやすい環境を整えることが、日本の創薬エコシステムの国際競争力回復に不可欠であると結論づけられ、国内での閉じた競争やセクショナリズムを打破して連携とグローバル化を最優先すべきという共通認識が示され、セミナーは締めくくられました。


【参考】4つの創薬研究開発拠点プロフィール


柏の葉キャンパス~国立研究開発法人 国立がん研究センター 東病院 (千葉県柏市)


国立がん研究センター東病院を核としている「臨床と出口」があることが強みで、臨床試験のサンプルを「すぐにスープの冷めない距離」で運んで解析して次のシーズ開発につなげるという循環型の創薬開発拠点が成立している。特に抗がん剤分野の治験が増えている。高品質な臨床データは海外からも評価されている。三井不動産の共用ラボには日本で唯一のCAP認定(***)検査会社、帝人、台湾TLDSなどが入居。最近では米国CROのセラリスも参入。放射性医薬品の製造を20年前から進めてきていた。


湘南ヘルスイノベーションパーク(神奈川県藤沢市)

通称:湘南アイパーク。「スイスのように中立的でメッカのように一流研究者が集う憧れの場」を目指す国内最大級の研究施設。現在130社、約2,600人の研究者が集積。年間1,500件のテナント間協業が生まれている。入居するベンチャーの上場実績は昨年東証グロースに2社、M&Aで2社。

今月、米国・ラボセントラルと提携。これによって湘南アイパークのネットワークに属するアジアのスタートアップ企業は米国のバイオテックとの関係構築につなげることができる。


中之島クロス(大阪市北区)

大阪大学医学部発祥の地という「医学の聖地」に、産官学連携で昨年6月にスタート。研究開発をビジネスにつなぐ難関を乗り越えるため、シリコンバレーに倣った一気通貫の仕組みを目指す。一つの建物に研究開発(R&D)と医療(クリニカル)の機能を併せ持ち、ワンストップで開発から臨床に繋ぐシナジー効果を追求。山中伸弥氏もiPS細胞の社会実装の拠点としている。またCOO育成プログラムなどを通じて、文理問わず実践的な人材育成を進めている。


神戸医療産業都市(神戸市中央区)

阪神淡路大震災からの復興の中で1998年にポートアイランドでスタート。現在339社、1万2,700人が活動するエリアに。臨床病院(1,500床)、理研などの研究開発エリア、スーパーコンピューター「富岳」や量子コンピューターなども1〜1.5km圏内に密集している。iPS細胞による網膜移植手術や、「火の鳥」などの手術支援ロボットを輩出した実績がある。バイオものづくり・ロボティクス・AIシミュレーションといった成長領域に注力している。神戸のアイパーク設立を通じて、湘南アイパークとの連携も目指す。


***CAP認定 … 米国病理医協会(College of American Pathologists: CAP)が提供する臨床検査室の国際的な認定プログラム。

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