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EBPMを推進し、薬剤師の社会的価値を高める

更新日:7月8日

公益社団法人日本薬剤師会理事

慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室HTA公的分析研究室 特任研究員

日髙玲於


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2024年6月30日、日本薬剤師会理事に就任した日髙玲於さん。北里大学薬学部に在学中に一般社団法人日本薬学生連盟学術委員長として活動した。卒業後、薬局に従事し、在宅医療等に取り組む。その後、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科へ進学し、1年間で短期修了し公衆衛生学修士(MPH)を取得した。現在は、慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室HTA公的分析研究室で特任研究員として研究に取り組んでいる。ここでは、日髙さんの近況やこれから求められる薬剤師像について聞いた。


──大学ではどんな生活を送っていましたか。

軽音部で活動したり、学園祭の実行委員を務めたりと割と活発な学生生活を送っていました。5年生からは日本薬学生連盟の学術委員長として全国規模の薬学生の団体を運営していました。

自分の人生の転機がいくつかあるのですが、日本薬学生連盟での活動はその一つです。アクティブな人って大学の中で少し浮きがちなのですが、全国の同世代の仲間に出会えたことで、自分の生き方を肯定できるようになりました。探究心やチャレンジ精神をもって活動している仲間に出会えたことが大きな励みになりました。それから北里大学の先生方にもたいへんお世話になりました。特に研究室の指導教官であった鈴木順子先生には薬事関連の制度のことや、社会の中の薬剤師の在り方など、いろいろご指導いただき、私に薬剤師としての道を示してくれました。


日本薬学生連盟で活動していた頃の日髙さん
日本薬学生連盟で活動していた頃の日髙さん

──卒業後の進路についてはどう考えていましたか。

最初の頃は、大学に病院があったので病院薬剤師にあこがれていました。4年生時に社会薬学会に参加した際、在宅医療で活躍している薬局や病院の先生のお話を伺い、在宅緩和ケアに携わりたいと思うようになりました。

学生時代、母が肝臓がんになって、見つかったときはステージⅣ、余命3カ月と診断されました。家族として母が医療者からサポートを受けているところを見ていたのですが、看取るのは難しいことだと痛感しました。


──看取りが難しいというのはどういうことですか。

家族が見ている患者の姿と医療者が見ている姿は、必ずしもイコールではないということです。普段、母はベッドでぐったりしているのですが、訪問医が来ると、母は起きて医師の質問にしっかりと受け答えをしていました。そして訪問医が帰ったら、ぐったりして3~4時間寝てしまいます。医師に気を使っていたのだと思います。最善の治療をするために患者から聞き取ることも大事なことだと思うのですが、あえてひくことも大事なのではないか、在宅緩和ケアは奥深いと思うようになり、卒業後は薬局に就職しました。


──薬局ではどんなことをしていましたか。 

1年目から在宅医療を担当し、患者からいろいろなことを学ばせていただきました。例えば30代でがんに罹患された方。小さいお子さんがいらっしゃいました。なぜこんな若い人ががんにならないといけないのかとやるせない気持ちを持ちながらサポートしていました。しかしそれは現実で、その中で薬剤師として、人として、患者が人生を全うするためにどう支えるのかということを常に考えていました。また、がんといっても腫瘍の種類が異なると症状やケアの仕方が違いますので、その度にガイドライン等を勉強して医師に提案していました。

医師との関わりについても現場で働いてみて気づくことがありました。医師の専門領域外の薬の選択について相談を受ける機会が多くありましたので、医師の専門性を十分理解したうえで、情報提供することを心掛けていました。例えば、緩和ケアを受けているがん患者の便秘の頻度は比較的高いため、排便コントロールが必要です。内科や循環器の医師の場合、その対処法についてはあまり詳しくないこともあります。便秘を解消するために、医師に処方提案したり、患者に生活指導したりしていると、便秘が改善されるようになりました。最初は苦労しましたが、実績を積み重ねることで他職種との信頼関係を構築することができました。


──在宅医療の最前線でご活躍されていましたが、その後大学院へ進学されました。どうしてこの道に進もうと思ったのでしょうか。

現場で働く中で、制度や法律によって、なかなかうまく仕事ができないと感じることがいくつかありました。例えば患者宅を訪問する際、居宅療養管理指導料を算定するのですが、限られた時間で生産性を上げることも求められます。でも患者の生活背景などを把握するには時間をかけることも必要です。それについて会社から指摘を受けたことはありませんが、質の高い薬物治療を提供することと企業の利益を生み出すこと、この両方について常に意識して仕事に携わりながら、どこかモヤモヤした気持ちを持っていたのも事実です。薬剤師が介入することで患者から感謝される、とてもやりがいのある仕事だと思います。価値の見合ったフィーをつけることはできないか、制度や政策にアプローチするにはどうしたらいいのか、その一つの答えが私の中では公衆衛生学や医療経済学だったのです。大学院では、薬剤師業務を評価するための足掛かりとなる研究をしていました。


──現在、慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室HTA公的分析研究室で特任研究員として研究活動に従事されていますが、どんなことをされていますか。

国立保健医療科学院の委託を受けて、指定された医薬品や医療機器の費用対効果の分析を行っています。わが国では、2019年から費用対効果評価制度が導入されています。これは既存薬を対象として費用対効果を評価し、その評価結果を薬価に反映するものです。分析した結果については国立保健医療科学院を通じて国に提出されています。


──今後の目標を教えてください。

 自分の中で大事にしていることは、 EBPM(エビデンスに基づく政策立案)を推進することです。これまで薬剤師の業界は、厚生労働省から「エビデンス作りを」ということ指摘されてきました。その意味で、薬剤師自身が薬剤師の価値を示すエビデンスを作ること、さらに作った後も制度に落とし込めるようにアプローチをしていくことが重要だと思っていますし、そういったことに携われるようになりたいと思います。

 このたび日本薬剤師会の理事を拝命しました。各都道府県の薬剤師会の皆様の声に真摯に耳を傾け、さまざまな課題解決に向けて取り組んでいく所存です。

  

──日髙さんが考えるこれから求められる薬剤師像について教えてください。

 1つは患者の人生に寄り添って最期まで支えること。現場で感じたことは、患者は十人十色ということ。患者がどんな人生を送ってきたのか、どんな価値観を持っているの

か、そういったことまで把握して、一人ひとりに合った薬物治療が提供できる薬剤師が求められるでしょう。

 もう1つは大学院時代からパブリックヘルスを勉強していて思っていることなのです

が、患者の行動変容を促すことが、健康アウトカムの改善につながるということです。行動変容を促すための言葉がけ、すなわちヘルスコミュニケーションを身につけた薬剤師が求められるのだと思います。余談ですが、調剤報酬で新たに算定できる項目が設けられても、相談いただく健康アウトカムが芳しくなければ、いずれその項目が減算されることもあります。


──最後に薬学生に向けてメッセージをお願いします。

 学生の間にぜひ自分の人生を引き上げてくれる人と出会ってください。そして、その人に出会ったら絶対につかんで離さないでください。『ハリーポッター』で言うと、ダンブルドア校長のような半歩先を照らしてくれる人、『ONE PIECE』だったら、ルフィに麦わら帽子を託したシャンクス、『鬼滅の刃』で言ったら、炭治郎を徹底的に鍛え上げた左近次、『僕のヒーローアカデミア』なら、緑谷出久を育てたオールマイトといった存在です。

 競技かるたを題材とした漫画『ちはやふる』の中では、「たいていのチャンスのドアにはノブがない。自分からは開けられない。誰かが開けてくれたときに迷わず飛び込んでいけるかどうか…」というシーンがあります。目の前にあるチャンスは絶対に逃さないようにしてください。


日髙玲於(ひだか・れお)

1991年生まれ。北里大学卒業後、株式会社千葉薬品に入社。在宅医療研修を修了後に株式会社フロンティアファーマシーに出向。計5年間従事した後に慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科へ進学し、修士課程を1年間で短期修了し公衆衛生学修士(MPH)を取得、その後、慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室HTA公的分析研究室特任研究員に就任、2024年6月30日より公益社団法人日本薬剤師会理事に就任。

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