「薬局の深化〜Beyond the Pharmacy〜」日本調剤グループ学術大会 全国大会を開催

日本調剤株式会社は、職員の専門性や発信力の向上、および現場での優良事例の共有を目的として「2026年度日本調剤グループ学術大会 全国大会」を2026年9月27日に開催した。今年度は「薬局の深化〜Beyond the Pharmacy〜」をテーマに掲げ、現地開催とWeb配信を組み合わせたハイブリッド形式で実施された。7年ぶりに社外からの聴講受け入れも再開され、会場には多くの社員や社外の関係者が詰めかけた。
個々の判断と行動がひらく「薬局の進化」

大会の冒頭、代表取締役社長・社長執行役員の小城和紀氏が登壇し、開会の挨拶を行った。小城氏は、従来の「本部主導型」の運営から脱却し、個々の店舗や薬剤師がそれぞれの役割や能力を発揮して自ら考え行動する体制へのシフトを力強く宣言した。診療報酬改定や病院の機能分化に伴い、患者や医療機関の行動が変容する中、現場主導で信頼とファンを獲得する重要性を強調した。
続いて、教育情報部の弓削吏司氏より、本大会の3つの柱である「専門性の向上」「医療界のリーダーとしての社会への情報発信」「社内での優良事例の共有」について説明がなされた。対人業務へのシフトや医療DXの加速、2040年問題を見据えた在宅医療の推進など、急激に変化する社会構造において、薬剤師・管理栄養士・医療事務・本部が一体となって専門性を発揮していく姿勢が示された。
現場の実践事例:小児薬物療法における薬剤師の伴走と役割
一般演題の口頭発表では、地区選考を勝ち抜いた先進的な取り組みが紹介された。中でも特別講演2では、日本調剤光明池薬局の白鞘裕子氏が「事例から学ぶ小児薬物療法における薬剤師の役割〜『またあの薬剤師さんに相談したい』と言ってもらうために〜」と題して講演を行った。
白鞘氏は、小児領域において「子どもは小さな大人ではない」という原則のもと、年齢や成長段階、各家庭の生活リズムに合わせた細やかな服薬支援を行う重要性を解説した。具体的には、溶連菌感染症に対する10日間の服薬支援において、園や学校の帰宅時間や生活サイクルに応じた投与スケジュールを個別に提案し、確実な服用と定期的な尿検査の必要性について保護者へ十分な声かけを実施している。
また、ネフローゼ症候群などの難治性疾患では、医療機関との「薬薬連携」を活用したサマリーの送受信により入院中の経過を緻密に把握し、ステロイド治療に伴う多毛やムーンフェイスといった外見上の変化に悩む学童期の患者に対して、精神的なケアを含めた寄り添う支援を実施している。さらに、脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬であるエブリスディ等の高額かつ厳格な管理を要する製剤を取り上げ、修学旅行や宿泊学習といった学校行事の際にも安全に携行・保管できるよう具体的な方法を指導している。チャイルド・レジスタンス・キャップから通常のキャップに変更することで「患児本人が自分で薬を服用する練習」を後押しするなど、患者の成長に合わせた働きかけも行われている。
複雑な多剤併用や経管投与、在宅酸素療法を必要とする高度な医療的ケア児へのアプローチとしては、丁寧な残薬整理やスキンケアの提案を行い、過重なケアに直面する家族の精神的・身体的負担を和らげる取り組みが紹介された。

白鞘氏は、日々の業務の中で目指していることとして、「またあの薬剤師さんに相談したい」と言っていただける存在になることを挙げている。飲み合わせや飲み忘れ、保管方法などについて気軽に頼ってもらい、「何か困ったらこの人に聞けば大丈夫」という信頼関係を築くことを何よりも大切にしているという。
小児領域では、患者本人だけでなく、服薬介助を担う家族や学校の先生など周囲の方々への支援も不可欠である。生活リズムやライフステージの変化に合わせ、柔軟な提案をしながら共に歩む「伴走者」でありたいと考えている。
発表後の質疑応答の場面では、混雑する外来業務において丁寧な聞き取りを行うための時間管理の工夫や、高額医薬品の適切な在庫リスク管理、在宅患者の家族への心理的なアプローチ、経験の浅い若手薬剤師へのノウハウ伝承など、実践的なテーマについて深い知見の共有が行われた。
地域住民のウェルビーイングに貢献する地域薬局のコアバリュー
基調講演では、京都大学大学院医学研究科教授の岡田浩氏が登壇し「地域住民の健康とウェルビーイングに貢献する薬剤師:地域薬局のコアバリューと実装科学研究の可能性」と題した講演を行った。
岡田氏は、自身のセカンドキャリアとして薬剤師となった実体験を引き合いに出し、「間違いなく薬を渡す」という正確な調剤・対物業務の先にある、身近な医療者としての薬剤師の真の価値(コアバリュー)について多角的な視点から論じた。
まず「患者主体のケア」と「ソーシャル・キャピタル」の概念に関し、1990年代後半から2000年代にかけて世界的に議論された「薬剤師の存在意義」の変遷に触れた。国際薬剤師・薬学連合(FIP)が従来の対物中心から「患者ケアへの転換」を掲げた歴史を紐解き、薬剤師が患者一人ひとりの生活背景や価値観に深く寄り添い、行動変容の背中を押すコミュニケーションをとることが重要であると説いた。こうした関わりが地域社会における「人と人とのつながり(ソーシャル・キャピタル)」の構築につながり、結果としてHbA1cや血圧といった患者の臨床数値の改善や健康維持に寄与することを、自身が携わった実証研究(COMPASS研究等)のデータを基に示してみせた。
次いで、グローバルな医療制度の趨勢として、諸外国における薬剤師の役割拡張を紹介した。イギリスやカナダ(アルバータ州など)をはじめとする海外では、慢性疾患管理やプライマリケアの領域において薬剤師に処方権や処方変更権が認められるなど、医療システムの中核的なプレイヤーとして機能している現状を共有し、日本における今後の薬局・薬剤師像への示唆を与えた。
さらに、質の高い医学的エビデンスが実際の現場に定着するまでの課題を挙げ、それを社会にスムーズに組み込む方法論である「実装科学」の重要性が強く強調された。住民の生活と医療の間に位置する薬局は、この実装科学を実践するうえで極めて強力なハブになり得ると説明した。そのうえで岡田氏は、身体や診断といった身体・薬剤の領域は医師が担うことが多い一方で、「社会・家族」や「心理・感情」といった要素には患者に身近な薬剤師こそが深く関わることができると述べた。そして、これら全ての要素を統合して捉える「生物心理社会モデル」の視点を持って地域に関わり、現場の薬剤師が自らの実践を振り返ってその効果を明らかにする「研究者」としての役割も果たしていくことで、地域の患者に伴走し続ける薬局の広大な可能性が示され、講演は締めくくられた。



コメント