社会薬学研究の「なぜ」と「気になる」を形に:日本社会薬学会第44年会 若手企画「社会を見る目 薬学に活かす〜若手が語る研究のおもしろさ〜」

日本社会薬学会第44年会において開催された若手企画「社会を見る目 薬学に活かす〜若手が語る研究のおもしろさ〜」は、若手研究者が自らの実践や体験を通じ、社会薬学研究の魅力と可能性、そして「研究するおもしろさ」を語り合う貴重な機会となった。
オープニングでは、熊本大学の近藤悠希氏から説明があった。自身の研究経歴や社会薬学会との出会いを振り返りつつ、本学会は若手の活動に対して非常に好意的であり、自由にチャレンジできる環境が整っていることが強調された。また、歴史ある若手の会の歩みや、懇親会を含めたネットワークづくりの重要性についても触れられた。
各演者の講演では、まず昭和医科大学の熊木良太氏が「理想と現実の間 薬局の『なぜ』を可視化する」と題し、病院薬剤師としての実務経験から生まれた日常のギャップや「なぜ」を起点とした5つの研究を紹介した。減薬提案を躊躇する背景の概念化や、患者・薬剤師間の情報共有に対する認識のズレ、常用薬の災害用備蓄の実態、PAC(個人別態度構造)分析を用いた栄養介入の課題整理、がん患者の栄養相談ニーズなど、質的・量的手法を用いて可視化するプロセスを説いた。現場の身近な疑問を学術的な問いに落とし込み、仲間と手探りで形にしていくプロセスの醍醐味と大切さが語られた。
続いて、昭和医科大学の宮﨑ひとみ氏が「社会の『気になる』を研究する『患者心理から教育へつないだ抗菌薬適正使用研究』」と題し、病院でのAST(抗菌薬適正使用支援チーム)活動から抱いた市中における抗菌薬適正使用への疑問を契機とする一連の研究を発表した。混合研究法を用いて処方に納得できない保護者の心理探索を行い、防衛動機理論に基づき適正使用意志の規定要因を分析。さらに行動経済学のフレーミング効果を応用した啓発動画を作成・実地検証するという、基礎から応用・社会実装へと研究がどんどん発展・展開していく楽しさと意義を力説した。
次に、大阪医科薬科大学の庄司雅紀氏が「誰一人取り残さない薬物療法を目指して:これまでとこれからの私の社会薬学研究」と題して講演を行った。障害の社会モデルの視点に基づき、うつ病患者に対する認知行動療法を応用した服薬支援や、知的障害を有する人への医療情報提供におけるミスコミュニケーションに関するインタビュー調査を紹介した。当事者とのワークショップを通じた共同創造により、相互理解を深める「患者理解のサイクル」を回しながら新たな教育プログラムを開発していく、やりがいと面白さが示された。
兵庫医科大学の矢原恵美氏は「臨床の疑問からエビデンスへ 回復期リハビリテーションにおける量的・質的研究の融合」と題し、オンラインで登壇した。回復期リハビリテーション病棟の患者を対象に、FIM(日常生活動作指標)とMRCI-J(処方複雑性指標)を用いた量的解析を行い、処方の複雑性解消が特定の患者群のADL改善に寄与する可能性を提示。さらに多職種連携意識の概念化を目指すインタビュー調査(質的研究)へとつなげるアプローチを通じて、現場の「声」からエビデンスを紡ぎ出すおもしろさを共有した。
さらに、奈良県立医科大学附属病院の鈴木渉太氏が「多様化社会における薬剤師の役割:患者中心の医療を目指したエビデンス構築」と題して講演を行った。薬局勤務時の困りごと(臨床疑問)を出発点に、ピクトグラムや多言語を活用した服薬指導ツールの検証、やさしい日本語や市販薬に関する啓発動画の作成(外国人患者支援)などの実効的な取り組みが紹介された。加えて、オーストラリアで開発された患者中心性を測る尺度を日本語版に翻訳・検証し、患者経験価値を正しく評価するプロジェクトなど、社会のニーズに合わせて研究の幅を広げ、薬剤師の新たな役割を切り拓く探求の楽しさが語られた。
最後にクロージングリマークスが行われ、若手研究者が自らの疑問やアイデアを持ち寄り、研究を楽しむ輪をさらに広げていくことへの強い期待とともに、フロアとの活発な総合討論へと引き継がれ、盛況のうちに企画は終了した。



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