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【薬局四方山話】喉の痛みと漢方

  • toso132
  • 3 時間前
  • 読了時間: 5分

地球堂薬局 田代健




今回は、漢方のディープな迷宮を数分だけ体験してもらおうと思う。

2024年の薬剤師国家試験に、「風邪をひいて寒気がする」患者に防風通聖散を選ぶことの可否を問う問題が出たので、ここを出発点にしよう。

 

防風通聖散といえば「やせ薬」の印象があるが、元来は体に蓄積した熱を排出する処方だ(だから国試のように「寒気がある」患者には使えない)。江戸時代の医師・目黒道琢は『餐英館療治雑話(さんえいかんりょうじざつわ)』で「喉の腫痛の患者は、10人に8-9人までは実熱証で、虚証のものは1-2人にすぎない。不注意な医師は咽頭痛を見ると実熱証と早とちりし、防風通聖散や清咽利膈湯(せいいんりかくとう)で患者に害をなすことが少なくない」と書いており、本来は咽頭痛を含む急性の発熱性疾患に用いる。

以下では、OTCで使える喉の漢方薬の構成生薬を整理してみる。先人達が実際にこう考えて生薬を足し引きしたということではなく、彼らの病理モデルや治療戦略の差異が構成生薬にどう反映されるかをつかんでもらいたい。

 

(i) 『和剤局方』(宋)

『和剤局方』の医学はセルフメディケーションの先駆けでマイルドな処方が多いのだが、「積熱」の章には涼膈散という処方が載っている。一言でまとめると、「発熱し顔が真っ赤に充血し、便秘している状態」を、下剤と苦寒薬と発汗剤の組み合わせで解熱する薬だ。

涼膈散 = 大黄+朴硝(ぼくしょう)+甘草+連翹(れんぎょう)+山梔子(くちなし)+黄芩(おうごん)+薄荷


(ii) 金元(きんげん)学派(宋〜金)

『和剤局方』とは対照的に攻撃的な解熱治療に軸足を置いたのが劉河間(りゅうかかん)で、涼膈散を土台に症状別のアレンジを加え、さらにはそれを全部乗せた防風通聖散を新たに作った。具体的には

(+)咽喉痛、涎嗽(えんそう)がある時は桔梗、荊芥(けいがい)を追加(桔梗は喉の痛みの薬)

(+)鼻血や吐血がある時は当帰、芍薬、生地黄を追加(四物湯(しもつとう)で血を落ち着かせ乾燥し過ぎを防ぐ)

(+)排尿困難や排尿痛(淋)がある時は滑石、茯苓(ぶくりょう)を追加(尿からも熱を排出する)

(+)突発性の目眩がある時は川芎、石膏、防風を追加(荊芥と合わせて祛風(きょうふう)する)

というトッピング全ての上に

(+)麻黄と白朮(びゃくじゅつ)(胃から汗へ水分を運ぶ)

を追加し

(-)生地黄+茯苓(麻黄と茯苓を併用する処方はほとんど存在しない)

で防風通聖散になる。


(iii) 温補学派(明)

金元医学には胃腸への負担が重いという課題があり、胃腸の保護を重視した薛立斎(せつ りつさい)は温補学派の先駆者と呼ばれた。彼が考案したのが清咽利膈湯だ。

清咽利膈湯 = 防風通聖散 -(A) + (B)

(A) 取り除いた生薬:川芎+当帰+芍薬+白朮+麻黄+石膏+滑石

発汗や利尿による解熱を止めると同時に、血を補う生薬が不要になるので中止する

(B) 追加した生薬:金銀花+牛蒡子+黄連+玄参

体の水分を維持しつつ熱を冷ますことのできる生薬を追加し、乾燥を防ぐ

清咽利膈湯は国内で製品化されていないが、ニキビに使う清上防風湯の構成がよく似ている。


(iv) 温病学派(清)

清の時代には猛暑や海外交易に伴う疫病が相次ぎ、温補学派や『傷寒論』のような温める医学にかわり、温病学という「冷やす医学」が発達した。この医学は、激しい熱性疾患における脱水を警戒し、初期に軽い生薬で治す点が特徴だ。代表的な処方に呉鞠通(ご きくつう)が考案した銀翹散(ぎんぎょうさん)があり、いろいろな商品名でOTC化されている。筆者の薬局でも、これを常備薬にしているお客さんはいる。

銀翹散 = 清咽利膈湯 - (C) + (D)

(C) 取り除いた生薬:黄連+黄芩+山梔子→冷やして乾燥する生薬を除去

防風→温めるための生薬を除去

大黄+朴硝→大便から解熱するルートは胃腸まで熱が侵入した段階で使用する

玄参→呉鞠通の三焦弁証ではもっと後の段階で使う生薬

(D) 追加した生薬:淡竹葉+淡豆豉+蘆根→淡竹葉と蘆根は体液を増やしつつ熱を冷ます

銀翹散は「喉の痛み」に加え「熱感などの全身症状」「喉の乾燥感」「便秘がないこと」を確認するのがポイントだ。


(v)  江戸医学

京都の和田東郭は、銀翹散と似た方向性の咽喉痛治療を工夫していた。耳下腺炎の薬・駆風解毒湯に桔梗と石膏を加え、冷やしてうがいしながら飲むと効果的だとし、現在でもOTCをそう指導しながら販売する。ポイントは「喉の炎症だけを取る」点だ。

駆風解毒湯 = 清咽利膈湯 - (E) + (F)

(E) 取り除いた生薬:(C)+薄荷+金銀花

薄荷→発汗の必要性はない

金銀花→潤しながら解熱という方針はとらない

(F) 追加した生薬:羗活+石膏

羗活→首に薬を効かせたい

石膏→うがいで局所的に強力に解熱したい

 

漢方薬を使う際の「寒熱」の評価は当然として、便通を含めた「潤燥」の重要性も垣間見てもらえただろうか。完成された「中医理論」に基づき体系的に弁証論治を進める漢方に魅力を感じる人もいるだろうが、筆者は、先人達がさまざまな状況で工夫してきた治療法を目の前の患者にどう生かすかという歴史との対話にこそ醍醐味を感じている。


喉の痛みの漢方の変遷

 

涼膈散

防風通聖散

清咽利膈湯

銀翹散

駆風解毒湯

出典(出版年)

『和剤局方』(1107以降)

『黄帝素問宣命論方』(1172)

『外科発揮』(1528)

『温病条弁』(1798)

『蕉窓方意解』(1813)

著者

 

劉河間

薛立斎

呉鞠通

和田東郭

発散薬

 

麻黄

 

 

 

 

 

防風

防風

 

防風

 

 

荊芥

荊芥

荊芥

荊芥

 

薄荷

薄荷

薄荷

薄荷

 

 

 

 

牛蒡子

牛蒡子

牛蒡子

 

 

 

 

 

羗活

寒涼薬

 

 

黄連

 

 

 

黄芩

黄芩

黄芩

 

 

 

山梔子

山梔子

山梔子

 

 

 

連翹

連翹

連翹

連翹

連翹

 

 

 

金銀花

金銀花

 

 

 

石膏

 

 

(石膏)

 

 

 

 

淡竹葉

 

 

 

 

 

淡豆豉

 

 

 

 

 

蘆根

 

 

 

 

玄参

 

 

補益薬

甘草

甘草

甘草

甘草

甘草

 

 

当帰

 

 

 

 

 

芍薬

 

 

 

 

 

白朮

 

 

 

活血化瘀薬

 

川芎

 

 

 

瀉利薬

大黄

大黄

大黄

 

 

 

朴硝

芒硝

朴硝

 

 

 

 

滑石

 

 

 

化痰止咳平喘薬

 

桔梗

桔梗

桔梗

(桔梗)


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