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言葉と文化の壁を超えた医療へ――サノフィが中高生・大学生と挑む「インクルーシブな未来」


サノフィ株式会社が、医療や製薬といったヘルスケア分野に関心を持つ学生を対象とした夏休み特別授業を開催した。


400万人超の在留時代に問われる「医療コミュニケーションの課題」

同プログラムは、同社のサステナビリティ活動(CSR)の一環として実施され、今回で5回目の開催となった。当日は、通常業務の傍ら自ら有志で集まった従業員やボランティアスタッフなど約60人が、未来のヘルスケア分野を担う中高生・大学生を迎えた。

今年のメインテーマは、「言語マイノリティが直面する医療現場の障壁」である。

出入国在留管理庁の発表によると、2025年末時点の在留外国人数は前年比9.5%増の412万5,395人に達し、初めて400万人を突破した。外国人の増加に伴い、言語や文化の違いによる「医療の分断」をいかに解消し、誰もが平等に安心な治療を受けられる環境を築くかが、現場の緊急課題となっている。

イベントは2026年8月21日の13時30分から15時45分にかけて、サノフィ株式会社の東京オペラシティタワー本社にて「医療の未来を考える 高校生・大学生サマープログラム ― 外国人患者の言葉と文化の課題。患者を支える仕事を学ぼう ―」と題して開催された。


医療への「トラスト・ギャップ(信頼の差)」をどう埋めるか

導入セッションでは、サノフィがグローバルに推し進める取り組み「A Million Conversations(AMC)」が取り上げられた。

AMCは、これまで十分な医療支援が届きにくかったコミュニティとの間に信頼を再構築し、よりインクルーシブな社会を目指すプロジェクトである。過度の緊張や過去の苦い経験によって生じた「信頼の溝」に光を当て、真の解決には当事者一人ひとりの声に注意深く耳を傾けるプロセスが欠かせないと訴えた。


オノマトペの罠と「当たり前」の無意識な押し付け

パネルディスカッションでは、医療・通訳・製薬の最前線に立つパネリストらが登壇し、現場での具体的なズレについて議論を交わした。


1. 「ズキズキ」は伝わらない――言葉の壁と過度な配慮

医療×「やさしい日本語」研究会の武田裕子氏は、受付から診察、会計、服薬指導に至る受診のあらゆる過程で外国人が言葉の壁を感じている実態を指摘した。武田氏は、病院での緊張から普段言えるはずの言葉が出てこなくなる状況や、「ズキズキ」「ピリピリ」といった日本語特有のオノマトペ(擬音語・擬声語・擬態語などの総称)が症状の伝達を難しくしている背景を話し、相手に配慮した「やさしい日本語」を使うことの重要性を説いた。

これに対し、サノフィの外国籍社員も自らの経験を振り返りつつ、日常生活では困らなくても医療の場では言葉の壁を実感すると共感を示した。そのうえで、医療者が良かれと思って行う丁寧すぎる特別な話し方よりも、普段通りの自然な言葉遣いのほうがかえって聞き取りやすく理解しやすい場合があると話し、現場における意識のギャップを明かした。


2. 文化・生活習慣の多様性が生む「誤解」

全国医療通訳者協会NAMIの森田直美氏は、言葉だけでなく文化や習慣の違いが認識の齟齬を引き起こす実例を紹介した。具体例として、1歳6カ月児健診でスプーンを使って食べないことから発達上の問題を疑われかけたものの、詳しく聞き取ると家庭内で手で食べる習慣があった事例を挙げた。森田氏は、医療者側が自分たちの普通や当たり前を全ての患者に当てはめないことが重要であるとし、普段はどのように過ごしているかを一人ひとりに確認する姿勢の大切さを強調した。


3. 多言語対応と「伝わるデザイン」の実践

サノフィで患者向け資材を担当する社員は、主要製品において日本語に加え英語や韓国語、中国語、ポルトガル語などの冊子を用意している取り組みを紹介した。必要とされる全ての言語に対応する難しさにも触れつつも、国籍にかかわらず届けるべき情報は同じであるという考えから、図表を多く取り入れるなど直感的に理解しやすい資材づくりを心がけていると説明した。


「やさしい日本語」の実践と多様なキャリアの提示

後半のプログラムでは、学生たちが主体的に課題解決とキャリア構築について考える時間が設けられた。


相手に寄り添う「やさしい日本語」体験

武田氏とイ・ティンザ・キン氏の指導のもと、実際の診察シーンを想定した「やさしい日本語」への書き換えワークショップが行われた。受講した学生からは、具体的な症状を伝える難しさを感じたという声や、自分が難しいと思う言葉と外国人患者が理解しづらいと感じる言葉には違いがあるという新たな気づきが発表された。

講師陣からは、文章をシンプルにして「です・ます調」で伝えることやジェスチャーを交えるといった工夫に加え、名前を呼びかけたり相手の言語で挨拶したりして緊張を和らげるコミュニケーションの重要性が伝えられた。



病院にとどまらない「医療への貢献」を知る

最後の「ジョブアドベンチャー」では、研究開発、メディカル、マーケティング、営業などの職種で働く社員が各ブースで学生を迎えた。学生たちはブースを順に巡りながら、社員のキャリアの歩みや学生時代の専攻がどのように仕事へ生かされているかについて直接対話を重ねた。

医療現場での勤務という一般的なイメージにとらわれず、製薬企業という立場から社会課題に挑む多様なキャリアパスに触れることで、参加した学生たちにとって未来の選択肢と可能性を広げる機会となった。



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