【横浜薬科大学】大類洋特別栄誉教授が創製した新機序の抗HIV薬「イドビンソ®」が日本で発売
- toso132
- 4 日前
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2026年4月15日、横浜薬科大学特別栄誉教授の大類洋氏が分子設計・合成した化合物を基盤とする新たな抗HIV薬「イドビンソ®(一般名:イスラトラビル)」が、世界に先駆けて日本国内で発売された。

産学官連携による結実と社会実装
本剤の開発は、大類氏による同大学での基礎研究に端を発する。大類氏が設計した化合物は、ヤマサ醤油株式会社および国立国際医療研究センター所長の満屋弘明氏による生物学的評価を経て、MSD株式会社による臨床試験へと引き継がれた。大学発の独創的な分子設計が、数十年の歳月を経て社会実装に至った点は、日本の創薬研究における極めて重要な成果といえる。
従来の抗HIV薬の課題
HIVは、自身のRNAをDNAへと作り変える「逆転写」というプロセスを経て増殖する。従来の核酸系逆転写酵素阻害薬は、このDNA合成の過程で「偽の材料」として取り込まれ、DNAの伸長をその場で停止させる仕組みを持っていた。しかし、ウイルスが変異すると、薬が取り込まれにくくなったり、作用をすり抜けたりする場合があり、十分な治療効果が得られない症例が長年の課題となっていた。
独自メカニズム「二段階の阻止」
イドビンソ®の最大の特徴は、従来の薬剤にはない二つの作用点を同時に持つことにある。
① トランスロケーション(移動)の阻害
HIVがDNAを合成する際、逆転写酵素は材料を一つ取り込むごとに一歩ずつ前進するが、本剤はこの「前進する動き(トランスロケーション)」そのものを物理的にブロックし、DNAのコピーがそれ以上進まないように強く抑制する。
② 遅延型チェインターミネーション(停止)
万が一、一段階目のブロックをすり抜けてDNAの伸長が進んでしまった場合でも、本剤は「少し先」の段階で合成を強制終了させる。この「時間差での停止」により、変異ウイルスによるすり抜けを二段構えで防ぐことが可能となった。

逆転写酵素の移動(トランスロケーション)
HIVがDNAを作る際、逆転写酵素という酵素は、材料を1つ取り込むごとに少しずつ前に進みながらコピーを進めていく。この「一歩ずつ前に進む動き」をトランスロケーションと呼ぶ。
遅延型のチェインターミネーション
通常の薬は、DNAに取り込まれた瞬間にコピーを止めるが、本薬はすぐには止めず、少し進んだ後でコピーを止める特徴がある。このように「少し進んでから止まる」仕組みを、遅延型のチェインターミネーションと呼ぶ。
新しい治療薬がもたらす意義
本剤の登場は、医療現場に多大なメリットをもたらすと期待されている。まず、複数の作用点を持つことから、薬が効かない変異ウイルスが生まれにくいという耐性抑制の効果がある。また、生体内での安定性が高く効果が長く持続するため、将来的には服用回数の削減や投与量の低減、さらには副作用の軽減に寄与する可能性がある。既存の薬で効果が不十分だった患者にとっても、新たな治療選択肢として大きな希望となる。大類氏の独創的な発想が、産学官の連携を経て、HIV治療の未来を切り開く実用薬として結実した意義は極めて大きい。
大類 洋(おおるい ひろし)
横浜薬科大学 特別栄誉教授・理事。生物有機化学・分析化学を専門とし、生体内で機能する分子の設計・合成研究において世界的な業績を有する。1942年東京都生まれ。東京大学農学部農芸化学科卒業後、理化学研究所を経て東北大学教授、同大学院生命科学研究科教授を歴任。2005年に東北大学名誉教授、2006年より横浜薬科大学教授、2021年より特別栄誉教授、2025年より理事。 日本学士院賞(2010年)をはじめ、日本農学賞・読売農学賞、日本分析化学会学会賞などを受賞。2015年瑞宝中綬章受章。



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