2030年、HIV流行終結への挑戦。ギリアド・サイエンシズが「知ることから、できることへ。」プロジェクトを発足
- toso132
- 3 日前
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2026年3月25日、東京・赤坂にて、2030年までのHIV流行終結を目指す新たな取り組み「知ることから、できることへ。HIV流行を終わらせよう。メッセージフォト&ムービープロジェクト」の発足会が開催された。同プロジェクトは、認定NPO法人ぷれいす東京、社会福祉法人はばたき福祉事業団、魅惑的倶楽部(エキゾチッククラブ)、community center ZEL、一般社団法人金沢レインボープライドという5つの当事者支援団体等と、ギリアド・サイエンシズ株式会社が協力して推進するものである。医療従事者、支援団体、クリエイターが手を取り合い、HIV/AIDSに対する正しい理解の普及と、社会的なムーブメントの創出を目的としている。
日本の課題「診断率」の向上を目指して
国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、2030年までのHIV流行終結を掲げ、その指標として「95-95-95」(診断率、治療率、ウイルス抑制率を各95%以上にする)という目標を提示している。日本国内では治療率とウイルス抑制率において既に95%を達成している一方、診断率については依然として90%に届いていない。UNAIDSが掲げる2030年の目標期限まで、残された時間はあと5年。日本が世界に先駆けて流行終結を実現できるか、今まさにその真価が問われている。
写真の力が社会を変える。レスリー・キー氏の思い

プロジェクトのスペシャルパートナーには、世界的に活躍するフォトグラファーのレスリー・キー氏が就任した。レスリー氏は、2010年に同プロジェクトに参画する金沢レインボープライド共同代表の松中権氏らから「LGBTQ+を可視化して日本を変えていこう」という企画を受けたことが、フォトグラファーとして社会貢献に深く関わるきっかけだったと振り返った。当時は企業の賛同も限定的であったが、一歩ずつ歩みを進めた結果、2026年現在では多くの自治体でパートナーシップ証明書が導入されるに至った歴史に触れ、継続的な発信の重要性を説いた。
レスリー氏は、「写真は1枚のきっかけで、誰かの考えを変える力がある。今回のプロジェクトも、元気な写真を通じて、まだ知らない方々にメッセージを届けたい。2030年の目標に向けて、みんなでこのプロジェクトをシェアし、和を広げていこう」と述べ、写真が持つ「対話のきっかけ」としての力に期待を寄せた。
パネルディスカッション:専門家らが語る現状と未来への提言
パネルディスカッションでは、医療、地域支援、当事者活動など、それぞれの立場から深い洞察が語られた。

医療現場のギャップと「いきなりエイズ」の課題
東京医科大学八王子医療センター教授の平井由児氏は、現在も新規診断者の約3割がエイズを発症してから見つかる「いきなりエイズ」の状態にあることを深刻な課題として挙げた。医療が進歩し、適切に治療すればウイルスが検出されないレベルまで抑制できる現代においても、「感染するとすぐに亡くなる」といった古い認識が社会に根強く残っている。平井氏は、都心と地方、あるいは世代間にある知識のギャップを埋めることの重要性を説き、特に高齢化社会において介護現場などでも正しい知識が必要とされる時代が来ていると強調した。
地方におけるスティグマと検査への壁
琉球大学大学院医学研究科助教の仲村秀太氏は、沖縄県における現状を報告した。沖縄では3人に2人がエイズ発症後で見つかるという極めて厳しい状況にあり、その背景には地方特有のコミュニティーの狭さと、それゆえに生じる強い「スティグマ(社会的偏見)」があるという。仲村氏は、医療リソースは整っているものの、偏見を恐れて検査にアクセスできない人々が多いことを指摘し、社会全体でこの負のイメージを払拭していく必要性を訴えた。
若年層へのアプローチと進化した予防法「PrEP」
認定NPO法人ぷれいす東京代表の生島嗣氏は、HIVが若い世代にとって「自分とは関係のない、リアリティーのないもの」になっている現状に警鐘を鳴らした。かつてのような死の恐怖が薄れた一方で、最新の予防法である「PrEP(プレップ:曝露前予防内服)」などの重要な情報が、届くべき層に届いていない。PrEPとは、HIVに感染していない人が、性交渉の前にあらかじめ予防薬を服用することで、感染のリスクを極めて低く抑えることができる手法である。生島氏は、コミュニティーの中だけでなく、もっと広い一般社会の中でこうした最新の予防法も含めて語り合える環境をつくることが、診断率の向上に不可欠であると述べた。
地方からの意思表示とレッドリボンの意味
魅惑的倶楽部(エキゾチッククラブ)理事長の鈴木恵子氏は、静岡県を拠点とする活動から、地方ではいまだにHIVが「どこか遠い世界の話」として捉えられている実感を語った。鈴木氏は、レッドリボンを身につけるといった小さな意思表示が、当事者にとっては「この街にも理解者がいる」という大きな安心感につながることを強調した。誰一人取り残さない社会をつくるために、日常の中で賛同の意を示すことの価値を再確認させた。
薬害の歴史を風化させず、全ての人が生きやすい社会へ
社会福祉法人はばたき福祉事業団の後藤智己氏は、薬害被害者の遺族の声を代弁した。すでに多くの被害者が亡くなっている中で、遺族たちは「この事件があったことを、そして亡くなっていった人がいたことを忘れてほしくない」と願っている。後藤氏は、病気を持つ人が生きやすい社会をつくることが、結果として全ての人にとっての生きやすさにつながると語り、過去の教訓を未来の流行終結へとつなげる決意を示した。
誰もが参加できるプロジェクト:無関心をアクションへ
同プロジェクトは、特定の団体や当事者だけでなく、広く一般の人々が参加できる仕組みとなっている。レスリー・キー氏が撮影するポートレートに加わることだけが参加ではない。公開されたコンテンツに対してSNSで「いいね」を押す、あるいはシェアするといった、日常の中の些細な行動も、立派な賛同のアクションとして位置づけられている。
司会を務めた松中氏は、差別をしないと心の中で決めるだけでなく、一歩踏み出して「賛同の意思」を可視化することの重要性をあらためて強調した。正しい知識を得ることが第一歩となり、それが検査の受診や偏見の解消へとつながっていく。著名人から一般市民までが参加するこのフォトプロジェクトは、2030年の流行終結に向け、社会全体の関心と行動を呼び起こす強力な原動力となることが期待されている。




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