いのちの「鍵」を創り出す。女子高校生がのぞいた創薬の最前線と未来のキャリア
- toso132
- 2 日前
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2026年3月23日、東京・北の丸公園にある科学技術館の一角は、未来の科学者を目指す女子中高校生たちの熱気に包まれていた。これは、公益財団法人山田進太郎D&I財団が主催する女子中高生向け理系領域のツアー体験型プログラム「Girls meet STEM」の一環として開催された、春休み特別企画である。
今回は日本製薬工業協会(製薬協)が初めて参画し、「いのちを救う科学のチカラー くすりが生まれる瞬間をのぞいてみよう! Girls meet STEM 2026 Spring Session」を実施した。理系進路に関心を持つ生徒約30人が、創薬の深淵に触れた一日の模様を紹介する。
本プログラムの最大の目的は、国際女性デー(3月8日)に合わせ、女子高校生が理系の道に進んだ製薬企業に在籍する女性社員との交流を通じて科学を身近に感じ、自身のキャリアの可能性を広げることにある。現在、日本のSTEM(Science、Technology、 Engineering、Mathematics:科学・技術・工学・数学)分野における大学卒業者に占める女性比率は、OECD加盟国の中で最下位という厳しい状況にある。この現状を打破し、次世代の女性研究者を育成することが、財団と製薬協共通の願いである。
定員30人に対し、全国から約450人もの応募が殺到した事実は、創薬という分野への関心の高さと、理系キャリアを志す女性たちの熱望を如実に物語っていた。
分子模型が明かす「くすりのカタチと仕組み」

イベントは、薬がどのように生まれ、体内でどう働くのかを学ぶ講義から始まった。製薬協産業政策委員会の舩木美歩氏(中外製薬)は、薬が効く仕組みを「鍵と鍵穴」の関係に例えて解説。病気の原因となるタンパク質(受容体)という「鍵穴」に対し、ぴったりとはまる構造を持つ「鍵」=「薬の分子」を見つけ出すことが創薬の核心であると説明した。
舩木氏は、一つの薬が完成するまでには、ターゲットとなる分子の「微妙な改変」を幾度も繰り返し、薬効や副作用のバランスを整えながら仕上げていくプロセスがあることを強調。また、低分子医薬品のみならず、iPS細胞を用いた再生医療やデジタルアプリ療法といった新しい治療法の広がりについても触れ、創薬のフィールドが多様化している現状を紹介した。
続いて、この理論を体験するために分子模型を用いたワークショップが行われた。生徒たちが最初に取り組んだのは、精神を安定させる作用を持つセロトニンの構築である。黒、白、赤の原子パーツを設計図と照らし合わせ、骨格を一つひとつ組み立てていく。完成後、さらにこのセロトニンと「片頭痛」の関係について解説が加えられた。

セロトニン不足により拡張した血管を縮めるため、研究者はセロトニンと似た構造を持ちつつ、より適切に作用する分子を追求する。生徒たちは組み立てたセロトニンの一部を「改造」し、特定の頭痛薬(トリプタン系製剤)へと作り変える作業に挑戦。構造をわずかに変えることで機能が変化する様子を指先で確認し、レクチャーで聞いた「分子の改変」の重要性を確かめていた。
現場のリアルを札に込める「創薬かるた」

続いて、薬ができるまでの膨大なプロセスを学ぶ「創薬かるた」の作成ワークショップが行われた。創薬は単に有効な分子を見つければ終わりではない。基礎研究から動物試験、さらにはヒトを対象とした臨床試験を経て、国に承認されるまでには10年以上の歳月と、成功確率3万分の1という気の遠くなるような努力が必要となる。
各テーブルには「心強い助っ人」として、製薬企業で実際に働くプロフェッショナルたちが加わった。生徒たちは、目の前の絵札を見つめながら「これにはどんな背景があるのか」と助っ人に問いかけ、開発現場の苦労や喜びを聞き出しては、自分たちの感性で読み札の文句を考案していった。
完成した読み札が次々とホワイトボードに貼り出されると、会場はその独創的な表現に沸いた。社会課題を鋭く突いた「み・未解決 ドラッグ・ロス大問題」や、公衆衛生の危機を生徒らしい言葉で表現した「や・やばいぞ 薬剤耐性菌が発生中」、そして創薬の原点を称える「き・基礎研究 新薬への第一歩」など、いずれも個性が光る作品ばかりである。カラフルな札がずらりと並んだホワイトボードは、生徒たちが創薬の複雑なプロセスを自分たちの言葉として消化した証そのものであった。
なお、生徒たちの情熱が込められたこれらの「創薬かるた」は、製薬協の公式X(旧Twitter)にて3月末日に公開される予定である。
現役女性社員の背中を追う、真剣な座談会


プログラムの締めくくりは、生徒たちが待ち望んでいたキャリア座談会であった。現役の研究者や開発担当者など、理系の道を切り開いてきた製薬企業の女性社員が、生徒たちの輪の中に飛び込んだ。
20分間のセッションが2回行われる中で、飛び交う質問は具体的で切実なものばかりであった。なぜ今の仕事を選んだのかといった動機や、仕事とプライベートの両立、あるいは大学での学びがいかに現場で生かされているかなど、ライフデザインからキャリア形成に至るまで幅広い話題がのぼった。
「科学のチカラ」を次世代へ
午後1時に始まった3時間のプログラムは、あっという間に幕を閉じた。分子模型という「物質」に触れ、かるた作りで「プロセス」を学び、座談会で「生き方」を吸収した生徒たち。科学技術館を後にする彼女たちの表情には、未知の領域へ挑む科学者としての第一歩を、力強く踏み出したような誇らしさがあふれていた。
この熱気は、今回の1回きりのイベントに留まるものではない。今年の夏には、製薬協の会員企業各社が独自に高校生を対象とした体験イベントを実施する予定だ。



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