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泉州メディカが挑む「地域循環型フレイル予防」主観と客観のギャップから始まる、健康寿命延伸への新たなアプローチ

和田さん
和田さん

少子高齢化が加速する現代、薬局の果たすべき役割は劇的な変化を遂げている。一般社団法人泉州メディカ理事長の和田憲周さん(外来がん治療専門薬剤師、漢方・生薬認定薬剤師、スポーツファーマシスト)は、運営する8つの薬局全てを「健康サポート薬局」として届け出、地域の健康寿命延伸に向けた独自のフレイル予防プロジェクトを推進している。


■ 薬局の「独自性」と「可視化」への挑戦

プロジェクトは2025年6月に本格始動した。その根底には、地域住民との関わりの中で健康寿命を延ばすきっかけをつくりたいという情熱と、大手チェーンにはない中小薬局ならではの「独自性」を打ち出したいという戦略的意図がある。最大の特徴は、単なる測定会に留まらず、活動を「可視化」し、地域全体を巻き込んだ循環型モデルを構築している点にある。

 

■ 測定会の実態:対話とデータによる現状把握

測定会は薬剤師の業務状況やスペースを考慮し、店舗のみならず地域の公民館も活用して実施される。1回あたり2〜3時間、20〜30名程度の定員を設け、一人ひとりに丁寧に対応できる体制を敷いている。

会の冒頭では「フレイルとは何か」という趣旨説明を行い、参加者の意識を高める。評価は多角的だ。主観的評価として日本老年学会の「基本チェックリスト」等を用いたアンケートを実施し、本人の認識を把握する。並行して、体組成、歩行速度、握力といった客観的な数値を測定し、認識と実態の乖離を確認する。

 

測定会の様子
測定会の様子

■ 2026年、地域を支える「寄付の循環型モデル」の進化

この取り組みは健康管理に留まらず、社会貢献へと直結している。測定会の参加者1人につき500円を法人が拠出し、地域の子ども食堂やフードバンクへ寄付する仕組みを導入しているが、2026年(今年)からはこの連携をさらに深化させる予定だ。寄付を受けた団体が次回の測定会の集客を支援するなど、薬局単独ではない地域一体となった活動への発展を目指している。住民が参加すること自体が地域貢献になり、その支援が巡り巡って住民の健康を守る場を広げる。この「良好な循環」こそが、地域包括ケアシステムの一助となる。

 

■ 個別フィードバックと「スモールステップ」の提案

プロジェクトが最も重きを置くのは、後日に薬局で行う個別のアドバイスである。薬剤師は測定結果に基づき、主観と客観のズレを丁寧に解説する。「自分は大丈夫」と過信していた者にリスクを提示し、逆に過度な不安を抱く者には安心を与えることで、心理的な行動変容を促す。

アドバイスの際は、画一的な目標を押し付けない。歩行が困難な者には「まずは1,000歩から」といった、生活背景に即した「スモールステップ」を提示する。この達成感の積み重ねが、確実な行動変容へと繋がっていく。

 

■ 学術的エビデンスの構築:薬学的知見を社会の指標へ

和田さんは、現場の活動をエビデンスとして社会に認めてもらうため、学術的裏付けを極めて重視している。大阪大谷大学薬学部の倫理審査を経てアンケートデータを収集・分析するなど、緻密な調査体制を整えてきた。今回の測定会では、お薬手帳の情報を活用し、睡眠薬などの特定薬剤の服用と転倒リスクの相関関係についても詳細な分析を進めている。単なる運動機能の測定に留まらず、薬物療法とフレイルの関係性を解明しようとするこの試みは、地域医療における薬剤師の専門的価値を客観的に証明する重要なステップといえる。

また、現在は大学院にも籍を置き、より高度な視点から研究を続けている。

一方で、今後の課題も明確だ。現在の参加者の8〜9割が女性であり、地域参画の意識が薄くなりがちな男性高齢者をいかに巻き込んでいくかが焦点となっている。口コミなどを通じて、外出を億劫に感じている層へいかにリーチするかが、プロジェクトの次なる課題だ。

 

■ 信頼される薬剤師を目指して

和田さんは、次代を担う薬学生に対し、単に「薬を渡す人」に留まってはならないと強く訴える。超高齢社会の最前線で求められるのは、確かな薬学的知識という土台の上に、患者の生活背景や孤独、時には経済的な不安までをもくみ取り、多職種と連携して「暮らしと命」の双方を支える力だ。

現場で向き合うのは「病気」ではなく、血の通った「人間」である。だからこそ、和田さんは「知識や技術は後からでも学べるが、誠実さや人に寄り添う姿勢は、日々の歩みの中で自分自身で育て続けなければならない」と、内面を磨くことの重要性を説く。

また、国家試験という大きな壁を乗り越えた先に待っているのは、安泰な日々ではない。「薬剤師免許の取得はゴールではなく、そこからが本当のスタートである」と言い切る和田さんの言葉には、プロフェッショナルとして一生学び続ける覚悟が込められている。

2040年を見据え、オンライン診療やAIの活用が当たり前となる激動の時代がすぐそこまで来ている。だからこそ、変化を恐れず、目の前の患者に対して当たり前のことを当たり前にやり抜く。その真摯な姿勢を持ち続けることこそが、地域医療の未来を切り開く唯一無二の鍵となるだろう。

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