地域の健康を守る「次世代型かかりつけ薬局」の構築へ―東京大学×イオン×ウエルシア薬局、フレイル予防の実証研究を開始―
- toso132
- 2 日前
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2026年3月16日、イオン株式会社、ウエルシア薬局株式会社、および東京大学は、地域高齢者の「フレイル・オーラルフレイル予防」に関する実証研究の説明会を開催した。同プロジェクトは、日常的に多くの人が訪れる「薬局」を起点に、健康寿命延伸のための新たな社会モデルを構築することを目指している。
薬局を「測定・相談」の身近な拠点へ
説明会の冒頭、イオン株式会社ヘルス&ウエルネス事業担当責任者の久木邦彦氏は「生活産業としてイオンが貢献しうる健康テーマであり、日常的に訪れる場所だからこそ、気づきの機会を提供できる」と、薬局という場が持つポテンシャルを強調した。
現在、自治体などが実施するフレイル測定会は、健康意識の高い層が集まりやすい一方で、本当に支援が必要な層に届きにくいという課題がある。東京大学未来ビジョン研究センター・高齢社会総合研究機構特任講師の田中友規氏は「フレイルとは、加齢に伴い心身の予備能力が低下し、健康と要介護の中間に位置する状態を指すが、適切な介入によって元の元気な状態に戻れる『可逆性』が最大の特徴である」と解説した。
特に高齢者においては、5種類以上の薬を服用するなどの「ポリファーマシー(多剤併用)」が、副作用による転倒や食欲不振を招き、フレイルを加速させる要因となる。田中氏は「薬の専門家である薬剤師が関与し、安心・安全な薬物療法を提供することは、フレイル対策において極めて重要な視点である」と述べた。
オーラルフレイルから始まる負の連鎖を防ぐ

今回の研究で特に焦点が当てられているのが「オーラルフレイル」だ。これは、滑舌の低下、食べこぼし、わずかなむせ込みといった些細な口の機能低下を指す。口の機能が衰えると食の偏りや食欲低下を招き、それが低栄養や筋肉量の減少(サルコペニア)につながり、最終的に全身のフレイルを進行させる。
この早期発見と啓発のため、同事業では以下の「実施内容と評価指標」を導入している。

イレブンチェック:東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢氏が開発した11項目の質問票。口腔(むせ、硬いものが噛めない)、栄養、運動、社会性といった多面的な問いにより、フレイルの兆しを短時間で可視化する。
指輪っかテスト・ふくらはぎ周囲長測定:両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎの最も太い部分を囲む簡易測定。
握力測定:筋肉量や筋力を数値化し、身体的フレイルの程度を把握する。
オーラルフレイルチェック・滑舌測定(パタカ測定): 「パ」「タ」「カ」の音を一定時間に何回発音できるかを測定し、口の動きの巧緻性や咀嚼・嚥下に関わる筋力を評価する。
実装可能なモデルの追求
今回の取り組みの核心は、単なるイベントに留まらない「継続性」にある。自身も薬剤師として現場経験を持ち、現在は東京大学へ出向しているイオン株式会社ヘルス&ウエルネス戦略チーム医療・産官学連携グループ、および東京大学高齢社会総合研究機構学術専門職員の畑野光賞氏は、以下の2つの研究概要を説明した。
薬局薬剤師への教育の実施:今後6カ月間でウエルシア薬局の約750店舗の薬剤師に対し、飯島氏監修の専門教育を実施する。フレイル予防の知識を習得させるだけでなく、薬剤師自身の意識・行動変容を評価し、専門職としてのスキルアップを図る。
実証研究の実施:千葉県内の20店舗において、実際の業務の中でフレイル予防介入を行う。薬剤師が患者の服薬指導と並行して「イレブンチェック」や「測定」を行い、その有効性を検証する。実演では、自然な会話の中から測定へ繋げる様子が公開された。
実証研究のイメージとしては、測定結果を数値として可視化し、それに基づいた「口腔支援・栄養支援」を行う。さらに、必要に応じて「歯科受診勧奨」や診療所との「多職種連携」を促進し、併設ドラッグストアの利点を生かした「健康相談・商品案内」へとつなげる。これにより、来局のたびに小さな変化を確認できる「実装可能な薬局モデル」の構築を目指す。
ウエルシア薬局株式会社調剤運営本部調剤企画部部長の秋山洋一氏は、全国で約7,000名の薬剤師を抱え、在宅訪問も強化している現状に触れ、「2030年に向けた『地域ナンバーワンの健康ステーション』の実現に向け、最も身近な場所で安心して相談できる体制を整える」と意欲を示した。
イオングループ全体での展開を検討
説明会では、将来的な事業展開についても言及された。今回の実証研究を通じて得られる知見は、特定の店舗や地域に限定されるものではない。同研究で構築されるモデルの有効性が確認されれば、将来的にはイオングループ全体において、このフレイル予防の取り組みをどのように広げていけるか、多角的に検討していく方針である。
「地域で薬局がいかに気づきの拠点となるか、これは社会的に極めて重要な挑戦である」という田中友規氏の言葉通り、薬局は今、処方箋を調剤する場所から、健康を維持するための「次世代型かかりつけ拠点」へと進化しようとしている。地域のハブである薬局がこの役割を担うことで、超高齢社会における新たなセーフティネットの構築が期待される。



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