薬剤師として社会に貢献することを念頭に行動してほしい
- toso132
- 5月2日
- 読了時間: 7分
更新日:5月7日
公益社団法人日本薬剤師会 会長
岩月 進

「薬剤師および薬局に関する制度の改正」「DX推進」「Amazonファーマシー」など、薬剤師を取り巻く環境が劇的に変化している。これから先、薬剤師の将来はどうなっていくのか。ここでは、日本薬剤師会会長の岩月進氏に未来の薬剤師像や薬学教育について聞いた。
―薬剤師、薬局の取り巻く環境が劇的に変化する中、今の薬剤師に求められる資質をお教えください。
薬剤師という資格は国から付託された資格であることを忘れてはいけません。ここ数十年、薬剤師を取り巻く環境は変化しましたが、どんな状況になったとしても国民に奉仕することを念頭に置いて行動しなければならないのです。免許を取得すれば、薬剤師法に基づいた権限が与えられますが、それと同時に自らの行動に対して責任を負うことでもあります。今一度、自覚を持ってほしいと思います。
近年の規制改革や規制緩和の考え方は、免許がなくても一定の要件を満たせば許容するというものですが、薬剤師に限らず免許というものは、行政処分の対象になるわけですから、ミスをすれば責任を負わなければなりません。そこが実は免許の一番大事なところなのです。「私のせいじゃない」「機械が間違った」それで済むのであれば免許そのものの必要性が問われるのです。
―国は、薬剤師の業務を「対物から対人へ移行する」ことを打ち出していますが、その意味するところをお教えください。
調剤に関わる薬剤師の必読書である『第十三改訂 調剤指針』の中には、薬剤師業務を「対物と対人」に分けていますが、その考えをまとめたのは私です。それを受けて多くの関係者が、薬剤師業務を「対物から対人へシフトする」ことを提唱していますが、厳密に言えば、この考えは誤りで、対人業務は対物業務の精度を上げるための手段です。患者情報を引き出し、医薬品情報とマッチングして個別最適化した調剤をするというのが本来の意味なのですが、いつの間にか対人業務を充実させることのみがクローズアップされたのです。
―薬剤師を輩出する大学の果たすべき役割は大きいと思いますが、現在の薬学教育についてどのような考えをお持ちでしょうか。
第一に学生だけでなく、薬学教育に関わる人たちが常に薬剤師の根本的な精神を意識してほしいと思います。
現在の6年制薬学教育は、調剤、さらに言うと医薬分業について熱心に教育しているという印象はぬぐえません。しかしながら薬剤師として社会に貢献することは、調剤だけではありません。医薬品開発や品質管理の仕事として製薬会社や卸、CRO(医薬品開発業受託機関)、公務員として保健所や麻薬取締官、自衛隊など、業種は多岐にわたっています。10年ほど前からWHO(世界保健機関)やFIP(国際薬剤師・薬学連合)は、西アフリカ諸国で蔓延している感染症の対策チームの一員として薬剤師を派遣し、公衆衛生管理に従事させ、一定の成果を上げています。成功体験を持っている彼らからすれば、南アジアについても目を向けているのですが、本来アジアのリーダーであるべき、日本や韓国、台湾が積極的に取り組むべき事案なのに、いまだに進展が見えない状況を見て、アジアの薬剤師が公衆衛生に関わるべきではないかという声も上がっています。日本は自然災害が多い国なのですから、災害対策も含めた環境衛生や公衆衛生にも目を向けるべきだと思います。
製造業に目を向けると、今後、国内市場はシュリンクしていきますので、アジアへの進出はより加速し、それに伴い薬剤師の需要も高まっていくでしょう。そう考えると英語をはじめとした語学も重要になってきますね。
コミュニケーションスキルを高めるプログラムも数多く用意されていますが、薬剤師として一番重要なのはバイタリティーです。例えば地方の病院に勤めた際、地域にとけ込めないから辞める、夜勤や休日出勤は嫌だということでは困ります。どういう環境におかれても強い意志を持ち合わせなければなりません。その次に必要になるのがテクニカルなスキルで、コミュニケーションスキルは3番目です。バイタリティーとテクニカルスキルを身につけたうえで、その知識や技能を患者さんにどう還元するかといったときに、コミュニケーションスキルが必要になってくるのです。
また、薬剤師国家試験の合格率は、高校生の学校選択の大きな要素であることは認めますが、だからといって大学は国家試験対策予備校ではありません。
―日本の人口減少と高齢化が進む中、2040年問題も控えています。岩月先生が考える未来の薬剤師像についてお教えください。
2040年には労働人口が減少し、過疎化や医療者の偏在も今より深刻になることが予想されます。それを解消するために、オンラインで服薬指導をしてドローンを使って薬を届ける機会も増えるでしょう。しかし忘れてはいけないのは、オンライン服薬指導のような非対面のやり取りは、どんなに精度を高めたとしても真正性(人やデータなどの対象物が本物であること)の疑問がつくわけです。例えば、警察が取り調べをオンラインではやらないのは真正性を担保するためです。私たちは人の命に関わる仕事に従事しているわけですから、IT技術を駆使しながらどうやってその真正性を担保するかということを念頭に置きながら仕事をすべきでしょう。
これまで専門家は知識や体験を切り売りしてきましたが、今後それはAIにとって替わられるでしょう。では何が必要なのか、それは想像力です。例えば薬が飲めなかったら、飲めない理由ばかりを探すのではなく、飲める方法を患者さんとのやり取りの中で見つけ出すというように、患者さんや家族の一つひとつの言葉から想像力を働かせて、最適な薬物治療を導き出すことが求められるのではないでしょうか。
―2024年6月から岩月体制がスタートしました。日本薬剤師会のビジョンについてお聞かせください。
医療提供体制が病院完結型から地域完結型に移行される中、薬局の役割はますます大きくなっています。在宅医療やOTC医薬品の販売、健康相談といったように薬局のサービスはさまざまありますが、1つの薬局ですべてのサービスを提供することは難しいのが現状です。それを解消するために、地域の薬局が手を取り合って、地域の中に疑似的な大規模薬局を整備していく必要があるかと考えます。専門性の高い治療が必要な患者さんを対応する薬剤師がいなければ、専門薬剤師が在籍する薬局と連携する、あるいは専門薬剤師が先頭に立って地域の薬剤師の底上げを図ることも必要になるでしょう。これについては地域によって事情が異なりますので、地域の薬剤師会が主体的になって行動してほしいと呼び掛けているところです。
―先日行われた衆議院選挙の投票率は53.85%で、戦後3番目の低さでした。特に若者の政治離れが叫ばれる中、「投票」を通じて政治参加することの意味をお教えください。
薬剤師は法の定めにより、国から付託された資格です。薬剤師法にうたわれた使命を果たさなければ、国から免許は不要といわれる可能性もあります。したがって免許を使って仕事している以上、政治に関心がないという考えはもってほしくない、というのが大前提です。その上で免許を使って、社会に貢献するためには、働く環境を整備する必要があり、それを実現するためには、現場の薬剤師の生の声を政治の中枢に訴えなければいけません。現場で起こっている課題があるけれど、法律が足かせになってうまく患者さんに対応できないといったこともあります。それを怠れば、現場の実情を知らない人がつくった制度ばかりになってしまい、現場ではうまく機能しません。私たちの意見を代弁してくれる薬剤師の資格を持った人が、政策決定に関わる場にいることは大事なことなのです。国家により効率的に貢献する、そのための手段として政治があるのだと思っていただければと思います。
もし自身で政治の世界に身を投じて、薬剤師が地域で活躍できるための政策をつくりたいと考えている方は、全国に薬剤師会の支部がありますので、そちらにお問い合わせいただければ幸いです。
岩月 進(いわつき・すすむ)
1978年名城大学薬学部卒業。2004年から2010年、2020年から2024年日本薬剤師会常務理事を経て、2024年第26代日本薬剤師会会長に就任。2017年から現在まで愛知県薬剤師会会長も務める。厚生労働省医道審議会薬剤師分科会構成員、厚生労働省社会保障審議会医療保険部会臨時委員、厚生労働省薬事・食品衛生審議会薬事分科会要指導・一般用医薬品部会臨時委員などを歴任。

第58回日本薬剤師会学術大会
2025年10月12日(日)~10月13日(月・祝)の2日間、国立京都国際会館にて開催

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