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データとマインドの融合が起こす製薬のイノベーション――サノフィ、アッヴィ、患者中心へ挑む二つのトランスフォーメーション

  • toso132
  • 16 時間前
  • 読了時間: 6分

左から、AnswersNews編集長の前田雄樹氏、サノフィ株式会社スペシャルティケアビジネスユニット Alliance Immunology Franchise コマーシャルエフェクティブネスグループリードの金子弘輝氏、アッヴィ合同会社の人事本部長の松山京隆氏
左から、AnswersNews編集長の前田雄樹氏、サノフィ株式会社スペシャルティケアビジネスユニット Alliance Immunology Franchise コマーシャルエフェクティブネスグループリードの金子弘輝氏、アッヴィ合同会社の人事本部長の松山京隆氏

2026年5月に幕張メッセで開催された「インターフェックスWeek 東京」の特別講演にて、「患者中心を実現する外的DX×内的DX〜サノフィとアッヴィが描く二つの変革軸〜」と題したセッションが行われた。

本セッションは、デジタルツールやデータを駆使した社外へのアプローチである「外的DX」と、データに基づく社員の働き方改革からアプローチする組織変革「内的DX」という、異なるベクトルから「患者中心」の実現を目指す両社の取り組みを紹介するものだ。


デジタルとデータで患者の声を起点とするビジネスモデルへ

前半の講演では、まずサノフィ株式会社のスペシャルティケアビジネスユニット Alliance Immunology Franchise コマーシャルエフェクティブネスグループリードである金子弘輝氏が登壇した。

サノフィでは、長年掲げられてきた「Patient Centricity(患者中心)」の理念を一歩進め、2023年に「Integrated Patient Engagement(患者とともに)」という言葉へ定義を刷新した。患者参画が最終段階のみに限られていた状況から一歩進み、事業全体を通して患者とともに意思決定を行っていく姿勢を明確にしている。

金子氏は、製薬企業が直接取得できる個人の医療データに制限がある中で、市場のインサイトや多様なフィードバック、患者データをAIと連携させ、高速かつ大規模に処理するビジネスエコシステムの構築について言及した。

特に注力しているのが、患者の治療のジャーニーにおける「治療前」と「治療継続期間」という二つのフェーズへの関わりである。まず治療開始前の不安解消に向けては、原因が分からない不調や受診への抵抗感を持つ層に対し、パートナー企業と協働して疾患啓発や受診勧奨を行うアプローチを進めている。さらに治療開始後においても、従来の「MRから医師への正しい情報提供」という一方通行のモデルから、患者一人ひとりの必要とする声を起点とした活動へとデザインを変更した。これに加えてモバイルアプリの継続改善なども行うことで、患者が最適な治療と出会い、それを安心して継続できる仕組みづくりを行っている。結果として、MRは医師が目の前の患者を具体的にイメージできるような、解像度の高い情報提供活動が可能になったという。

変革を推進するうえでのリーダーシップについて、金子氏は「周囲の無関心」が最大の障壁であると指摘した。マインドセットを変えるため、同じメッセージを短い期間で何度も繰り返し発信し続けること、そして小さなプロジェクトで具体的なアウトプットという名のクイックウィンを出し、コンセプトが真に患者のためになっていると周囲に証明することの2点を徹底したと語った。


居住地選択型営業職(エリアパートナー)がもたらす社員エンゲージメントと患者貢献

続いて、アッヴィ合同会社の人事本部長である松山京隆氏が登壇し、「社員体験(EX)を起点に作る患者中心の働き方改革」をテーマに、営業職のMRおよびエリアマネジャーを対象とした居住地が選択できる「エリアパートナー制度」(2026年1月開始)の取り組みを紹介した。

松山氏は、従来、製薬業界では全国転勤が当然とされてきたが、その環境は変化しつつあることについて説明した。転勤には社員の成長や組織の活性化という効果がある一方で、担当MRの頻繁な交代は医療関係者、その先にいる患者への影響につながることなる。また、共働き世帯の増加などの社会環境の変化に加え、社員のライフプランや家族への影響も大きくなっている。さらに、転勤までの期間の長さや頻度に対する不公平感もあり、エンゲージメントを低下させる要因にもなっていたという。

この新制度の導入にあたっては、リーダーたちから、特定の地域(首都圏など)に人材が偏るのではないか、一気に希望が殺到したら配置転換ができなくなる、といった不安や仮説的な懸念が寄せられた。

これに対し、事前に全営業職を対象としたオープンなアンケート調査を実施した。その結果から、懸念されたほど首都圏に偏ることはないというデータを示し、リーダー層の不安を検証し解消していった。さらに、全国転勤型社員(ナショナルパートナー)の手当を拡充するなど、不公平感をなくす設計を施した。

制度開始前年の9月に募集を開始したところ、対象となる営業社員の約2割がエリアパートナーを希望した。そのうちの約7割の希望をすでに実現し、残りの3割の社員についても3年以内に実現する方向性である。


「変革」を阻む壁をどう乗り越えたか

後半のパネルディスカッションでは、AnswersNews編集長の前田雄樹氏がモデレーターを務め、金子氏と松山氏を交えて「いかにして組織の変革を実現したか」という共通のテーマで、より深掘りした議論が交わされた。

前田氏から、変わることや変えることへの課題とそれをどう乗り越えたか、という問いが投げかけられると、両者からは変化への抵抗をどうマネジメントするかという本質的な知見が共有された。

松山氏は、変革を行う際には事前のアンケートといったデータの提示が不可欠であるとした。一方で、データだけに頼る危うさにも言及した。アンケートの回答という文字情報だけではすくい取れない、現場の真の課題やニュアンスを把握するため、自身もほぼ毎月のように全国の営業所に足を運び、現地のMRと同行して直接声を聞くという「肌感覚」も重要視している。

この人事トップによる現場同行の姿勢は、新制度の成果そのものにも直結している。エリアパートナー制度によってMRが特定の地域に根ざして活動を継続できるようになれば、データやAIの分析だけでは決して見えてこない、その地域固有の課題や医師・患者のリアルなニーズを現場で経験値として積み上げることが可能になる。これこそが、医師や患者へこれまで以上のベストなバリューを届けるための「想像力」や「好奇心」を社員の中に育むのだと松山氏は述べた。

この松山氏の意見に対し、デジタルやデータを扱う立場である金子氏も深く共感した。金子氏は、変化を推進する側にとって一番怖いのは、反対意見よりも反応がないという「無関心」であると指摘。アンケートの数字やシステム上のデータだけを見ていると、現場の本当の納得感や温度感、あるいは潜んでいる無関心さを見落としてしまう危険性がある。だからこそ、マクロなデータだけに頼るのではなく、ミクロな現場の声という肌感覚を往復することではじめて、推進リーダー自身が変革への恐怖を乗り越え、確信を持ってプロジェクトを前に進めることができるのだと、自身の経験を交えて応じた。

また松山氏は、この一見して患者中心と直接関係のなさそうな人事制度の改革について、社員の声を聴きながらスピーディに変革を推進することで、「患者さんと社員に最大のインパクトをもたらすために日本のヘルスケアを変革するリーダーになる」というビジョンの達成につながると総括した。

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