医薬品流通の最前線を知る――。薬学生実務実習で見える「卸薬剤師」の真価―ケーエスケーの取り組み
- toso132
- 20 時間前
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「後世に良い薬剤師を残したい。その一助になればと、積極的に支援することを会社として決めた」。そう語るのは、株式会社ケーエスケーの執行役員であり、薬事統括部長を務める杉本豊志氏だ。同社は、薬学教育が6年制へと移行し実務実習がスタートした2010年、医薬品卸としてどこよりも先駆けて学生の受け入れを開始した。あれから15年余り。同社の取り組みは、今や近畿圏の薬学教育における「不可欠なインフラ」となっている。
「オール薬剤師」で学生を支えるという決断
実務実習の幕開けは、文部科学省の「薬学教育モデル・コア・カリキュラム」に、「流通機構に関わる人々の仕事を学び、薬剤師業務と関連付けて説明できること」という項目が盛り込まれたことがきっかけだった。当時、現場を指揮していたメンバーの思いは極めて純粋だ。「後生の医療を担う一員として、医薬品卸の薬剤師も、オール薬剤師の立場から何か支援できないか」。この信念に基づき、同社は日本薬剤師会や文部科学省、近畿圏の14大学、府県薬剤師会へ丁寧な打診を行い、独自のカリキュラムを構築していった。結果、初年度の2010年には1,205人という膨大な数の学生を受け入れ、業界に大きな衝撃を与えた。当時は医薬分業がより良い形で進展することを切望していた時期。同社は、社会貢献に加え、得意先である薬局との信頼を深めるという二面性の目的を持って取り組んできたという。
卸勤務の薬剤師は「情報の質を支える」教育者
現在、同社が提供する1日完結の実習プログラムは、薬局内では完結しにくい「流通の深部」と、そこで働く薬剤師の多角的な職能を学ぶ場だ。
【主な学習プログラム】
・災害時医療:地震や災害時、いかにして生命線を守るか
・医療安全とトレーサビリティ:偽造医薬品の混入を防ぐ追跡管理(回収を含む)の仕組み
・麻薬の譲渡譲受:卸の現場における厳格な記録と管理の実際
・GDP(適正流通ガイドライン):国際基準に基づく厳格な品質管理
同社は、実習において「なぜ薬剤師でないとダメなのか、その必要性を理解してもらうこと」を最も重視しているという。その象徴的な役割が、日々医療機関を訪問するMS(医薬品卸の営業職)へのバックアップだ。
卸薬剤師は、MSが医療現場へ届ける学術資材の作成や研修を担当し、彼らが提供する情報に誤りがないか、薬機法などの法規に抵触していないかを専門的な視点で精査している。同社は、こうした「MSが医療現場へ届ける情報が適正であるかを監督すること」こそが、卸における薬剤師の重要な役割の一つだと考えている。
実習に訪れる学生の中には、医薬品流通の仕組みそのものを初めて知る者も少なくない。「医薬品の卸の毛細血管型の流通網によって、効率よくかつ迅速に届けられることを知った」と驚く学生に対し、営業の最前線を知識で支え、情報の信頼性を担保する卸勤務の薬剤師の姿を見せる。それは、学生たちが自身の専門性の生かし方を見いだす貴重な契機となっている。

現場を知ることで変わる「プロ同士の信頼関係」
医薬品流通の裏側を知ることは、将来のチーム医療の質を直結して変える。杉本氏は、かつてある病院の新人薬剤師をケーエスケーの支店体験に受け入れた際のエピソードを披露してくれた。その若手薬剤師は、支店での営業の流れを体験する中で、偶然にも勤務先の病院から「大至急、薬を持ってきてほしい」という電話が入る場面に遭遇する。MSがセンターへ走り、奔走する姿を横で見ていたその薬剤師は、後の手紙にこう綴ったという。「病院の中から『急ぎで』と当たり前のように電話をしていましたが、その裏側でこれほど多くの人が動いているとは知りませんでした。病院での医薬品の自己管理の重要性にあらためて気づきました」
流通の根幹を知れば、臨床現場に出た際、卸側へのリスペクトが生まれ、コミュニケーションの質が変わる。それが結果として、患者へのスムーズな薬の提供につながるのだ。
薬学生へのメッセージ
昨今の採用市場は内々定時期が早まり、学生が将来をじっくり考える時間が削られている。しかし、同社が実習を継続するのは、あくまで学生が広い視野を持ち、自らの足元を固めるための「教育支援」だ。
「大学に所属しながら、フラットな視点でさまざまな企業を見られるのは今の特権。病院、薬局だけでなく、卸という世界もある。早い時期に就職先を決めてしまうのではなく、いろんな世界を自分の目で見て、じっくり吟味してほしい」。
同社の実習は2025年度も年間合計1,038人の学生を受け入れている。京都薬科大学や大阪医科薬科大学、神戸薬科大学をはじめ、近畿一円の学生たちが、今日もここで「流通のプロ」の視点を養っている。
「我々の実習は、参加した学生に『楽しく、かつ有意義だった』と思ってもらえることを常に心がけている」と杉本氏。医薬品流通を薬剤師の専門性で支える。その真価を知ることは、将来どの道に進むにせよ、あなたの薬剤師人生をより深く、誇り高いものにしてくれるだろう。



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