【ドラッグストアMD研究会】ドラッグストアの未来戦略:物販から「サービス」への進化30周年記念セミナーで各社が描くロードマップ
- toso132
- 9月4日
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2025年9月3日、ドラッグストアMD研究会が開催した30周年記念上半期政策セミナーは、ドラッグストア業界の未来を巡る重要な議論の場となった。記念座談会「ドラッグストアの未来戦略~ドラッグストアはどのように進化していくのか?~」では、各社の代表者が具体的な数値や事例を交えながら、未来に向けた独自の戦略を披露した。
業界の現状と変革の必要性
進行役を務めた株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役の日野眞克氏は、米国のドラッグストア大手ウォルグリーンが直面している経営危機を例に挙げ、単なる「物販の場」からの脱却が不可欠であると警鐘を鳴らした。ウォルグリーンの苦戦要因として、フロントエンド(物販)の粗利益率が10年で8ポイントも低下し、25%から17%まで下がったことを指摘。さらに、ウォルグリーンやCVSが店内に併設したクリニック事業から撤退する一方で、アマゾンはプライム会員1.8億人(米国のみ)を対象に、月額9ドル(約1350円)のサブスクリプションでオンライン診療や処方箋サービスを提供している現状を挙げ、オンラインチャネルへの対応の遅れが大きな脅威になっていると述べた。
マツモトキヨシ:ビューティー特化のデジタル戦略
株式会社マツキヨココカラ&カンパニー取締役の松田崇氏は、同社の強みである「ヘルス&ビューティーの高い構成比」(全体の72%)と「都市部での高いシェア」を最大限に生かした戦略について語った。
同社は、銀座や原宿など、顧客の流入が圧倒的に多い中間人口比率2800%のロケーションにフラッグシップストアを展開。これらの店舗を単なる販売拠点ではなく「マーケティングの場所」と位置づけ、店頭での購買が口コミやSNSでの拡散につながる「逆ファネル」というマーケティング手法を提唱した。実際に、先行投資として店舗を活用したブランドは、キャンペーン前後で売り上げが最大2.3倍に増加した事例や、自社プライベートブランドのシャンプーが発売初日でノンマス商品のカテゴリシェア20%を獲得した事例を挙げ、店舗起点のマーケティングの有効性を示した。これは、通常であれば量販店では扱わないような専門性の高い商品(ノンマス商品)であっても、ドラッグストアが持つ「店舗」というリアルの場で、適切なマーケティングと接客を行えば、爆発的なヒットを生み出す可能性があることを示している。
また、アプリを核としたデジタルプラットフォーム戦略も強調。デジタル顧客の接触頻度は月間100〜150回、顧客生涯価値(LTV)は非デジタル顧客の110%であり、ビューティー診断やオンライン処方箋サービスなどの利用でLTVは最大3.1倍に引き上げられると説明した。
スギ薬局:リアルとデジタルを融合した予防サービス
スギホールディングス株式会社代表取締役副社長の杉浦伸哉氏は、「生まれてから亡くなるまで切れ目なく関わる」という「トータルヘルスケア戦略」を掲げ、全国に2300店舗(うち調剤薬局1100店舗)というネットワークを最大限に活用した。同社は、リアルとデジタルの両面から予防サービスを強化し、顧客一人ひとりに寄り添ったサービスを提供している。
同社は、一次予防から三次予防まで予防全般をサポートする「スギウェルネス」や、漢方専門の「漢方薬局」といった専門性の高いリアル店舗を増やし、顧客が身近な場所で専門的なアドバイスを受けられる体制を構築している。また、デジタル面では、歩数計測アプリ「スギサポwalk+」などを通じて顧客接点を強化し、PHR(個人の健康記録)の活用を目指している。これにより、顧客の健康状態を継続的に把握し、適切な予防サービスを提案することが可能になった。
さらに、調剤薬局の役割を再定義し、「門前薬局」「調剤併設型ドラッグストア」「在宅医療専門拠点」など、機能を細分化・集約化することで、地域医療への貢献と生産性の向上を両立させている。地域行政や医療機関、ケアプランセンターと連携し、ドラッグストア単体では解決できない健康課題にも対応することで、地域のワンストップヘルスケア拠点への進化を目指している。DX活用においては、服薬支援アプリなどを通じて製薬企業と連携し、服薬指導の質を高めるとともに、専門性の高い薬剤師を育成することで、顧客の健康管理に深く関わっている。これらの取り組みを通じて、スギ薬局は地域包括ケアの中核的な存在となることを目指している。
新生堂薬局:テクノロジーと対面接客の融合
株式会社新生堂薬局代表取締役社長兼CEOの水田怜氏は、「健康寿命の延伸と社会保障費の抑制」への貢献を会社の存在意義(パーパス)とし、「ヘルスケアステーション」の確立を目指す戦略を語った。この戦略は「優れたテクノロジー」と「温もりあるコミュニケーション」の融合を核としている。
その旗艦店である「新生堂ヘルスケアステーション薬院」では、管理栄養士が常駐し、健康測定や健康相談に応じることで、多職種連携による総合的なサービスを提供している。また、「タニタカフェ」と連携し、食事を通じた健康増進をサポートしている。独自のテクノロジーとしては、タブレットを活用した登録販売者向けのカウンセリングツール「健康台帳」を開発した。このシステムは、顧客の健康データや相談内容を客観的に記録し、症状やアレルギー情報、既往歴などを基に最適な医薬品を提案することを可能にした。導入店舗での実績では、カウンセリングを行った顧客の約1%に対し、受診勧奨された事例が報告された。これにより、店頭での相談を通じて、未病段階の顧客に適切な受診勧奨を行うことが可能になり、ドラッグストアが地域医療のハブとして、重篤な疾患の早期発見にも貢献している。
さらに、福岡県や飯塚市などの行政と包括連携協定を締結し、地域の健康課題解決に貢献している。例えば、地域住民向けの健康イベントや子供向けの職業体験イベントなどを開催することで、顧客との信頼関係を築き、持続的な事業成長を目指している。
ドラッグストアの未来は「サービス」にあり
今回の座談会は、各社が単なる「物販の場」から脱却し、顧客の健康と生活に深く関わる「サービスとしてのドラッグストア」へと進化しようとしていることを明確に示した。日野氏は最後に、今後のニューフォーマットとして、オンラインと親和性の低い「フード&ドラッグ」の可能性にも言及。米国ウォルマートの食品市場シェアが23%に達する一方、アマゾンはわずか2%に留まっている事例を挙げ、食料品がリアル店舗の重要な差別化要素であるとの見解を示し、業界のさらなる変革を予見させた。







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