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患者が求める医薬品情報とは?

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2025年6月10日、一般社団法人くすりの適正使用協議会の講演会で、認定NPO法人支えあい医療人権センターCOMLの山口育子理事長が「患者が欲しい医薬品情報とは」と題し、医療現場における患者と情報の課題、そして「くすりのしおり」の活用について講演した。


医療現場における患者と情報の課題

COMLがこれまで対応した7万1,000件以上の電話相談から見えてくるのは、いまだに患者の期待が医師に一極集中している現状である。これは、チーム医療が浸透している医療者側とは対照的に、医師以外の医療職が自身の専門性や役割を患者に十分に伝えられていないためだと山口氏は指摘する。薬剤師についても、「薬のプロ」とは認識されているものの、その具体的な役割が患者には見えにくく、「役割の見える化」が喫緊の課題とされている。

また、説明不足を訴える相談が後を絶たない現状も浮き彫りになった。インフォームドコンセントが「説明すること」と解釈され、医療者からの一方通行な情報提供になりがちである点が原因である。たとえ薬剤師が丁寧に説明しても、患者が一度に多くの専門情報を全て理解し記憶することは困難であり、結果として「聞いていない」と捉えられるケースが多いとのこと。この問題を解決するためには、説明後の「患者の理解確認」が不可欠であり、患者自身に説明内容を言語化してもらうことで、理解度や誤解の有無を把握し、早期の情報共有を図るべきだと提案した。さらに、患者と医療者が情報を共有し、共に考えて決めていく「Shared Decision Making(共有意思決定)」の重要性も強調された。


医療コミュニケーションの課題と国民性

山口氏は、現在の患者が抱える大きな課題として、「理解できていない人が多い」点を挙げている。情報過多の社会において、患者の周囲には情報があふれているにもかかわらず、それを適切に受け止め、理解し、自らの意思決定につなげられる人は少ないのが現状である。特に、わからないことを「わからない」と言えず、理解できていないのに頷いてしまう患者が多いことを指摘し、医療者側からの「確認」の必要性を訴えた。

また、患者と医療者の間に生じる「思いのずれ」も課題である。例えば、医療安全のための患者確認も、その目的が患者に伝わっていない場合、不信感やトラブルに発展することがある。インターネットの普及により、誤った情報をうのみにしたり、それを武器にしたりする患者もいるため、患者側の情報リテラシー向上が喫緊の課題であるとした。薬剤師には、患者に信頼できるサイトを案内するなど、情報リテラシー向上への寄与が求められている。

加えて、医療現場での質問の意図が患者に伝わっていない問題も指摘された。薬局での個人情報記入の際も、その目的が説明されないために、患者が適切に情報提供しないケースがあるという。ルーティンワークであっても、その理由や目的を伝えることで、患者が自身の情報提供の重要性を理解し、適切な連携が促進されると述べた。

これらの課題を克服できない背景には、日本において子供の頃から医療の仕組みや受診の仕方を学ぶ機会がないこと、そして日本人全体が日常的にコミュニケーションが苦手であるという国民性が影響していると山口氏は分析している。医療におけるコミュニケーションは高度なものであり、自己決定や自己主張を苦手とする傾向も、患者が主体的に医療に参加することを阻害していると述べた。

治療スタイルの変化も、患者の孤独感を増幅させている要因である。かつての入院中心の治療から外来治療が主流となり、医療者との関わりが減少したことで、患者は副作用への対処などを孤独な状況で行うことが増えている。だからこそ、薬局の薬剤師の存在が重要であると強調し、薬剤師の役割発揮を長年訴え続けてきたものの、目に見える変化が少ないことにジレンマを感じていると述べた。

医薬分業が進み、処方箋の受け取り率が8割を超えた現在でも、複数の医療機関にかかり、複数の薬局を利用し、複数のお薬手帳を持つ患者が少なくないため、一元管理という薬剤師の重要な役割が果たされていない現状も指摘された。マイナンバーカードによる一元管理も進むと見込まれるが、普及には時間を要することから、患者に対して一元管理の必要性を具体的に説明することの重要性を強調した。

講演の最後に、山口氏は、患者にとって分かりやすい情報提供のために、「くすりのしおり」や「ミルシルサイト」のさらなる充実を強く求めた。現状では、一部の製薬会社で患者向け資材が整備されていないケースがあり、それが患者に「情報提供に後ろ向きな会社」という印象を与えかねないとの懸念を示した。患者の理解促進に不可欠な患者向け資材の掲載率が、現在の約25%から50%、さらには75%へと向上し、患者に前向きな製薬会社が増えることを期待し、講演を締めくくった。

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