top of page

「おもろい」で越えていく医療の未来 ~Healthcare Venture KNOT 2026開催レポート

9 分前
読了時間: 10分
Healthcare Venture KNOT 2026会場風景

10月10日、東京・日本橋にて、医療・介護・福祉の関係者が集い社会的インパクトの創出を目指すイベント「Healthcare Venture KNOT 2026」(ヘルスケアベンチャーノット)が開催された。

今年で9回目を迎える年次の催しで、ベンチャーキャピタルの株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズと医療法人社団おうちの診療所が主催している。

医療介護の従事者をはじめヘルスケアスタートアップ、投資家、企業などが一堂に会し、起業家によるピッチコンテストをメインイベントとして、社会課題について討論するトークセッションも行われ、現場の課題とビジネスの知見を結びつける(結ぶ=KNOT)ことで、未来につながる継続的なコラボレーションの起点となることを目指す。今回のテーマが「未知を結び、"おもろい"で越えていく」と題されているように、繰り広げられたプレゼンや関係者の発言の中にも、合理性だけではなくウェットな感性やユーモアが生む繋がりが垣間見える空間となっていた。

ここでは2つのトークセッションと起業家ピッチコンテストの模様を紹介する。


“KNOT(結び目)”を強くしながら総力戦で知恵を出し合っていくことの重要性


トークセッション①「どうする?医療現場の今」


トークセッション①「どうする?医療現場の今」では、モデレーターを務めた慶應義塾大学特任教授・ハイズ株式会社創業者の裵英洙氏のもと、4名のパネリストが登壇し、それぞれの現場が直面する喫緊の課題と、それに対する実践的な取り組みを発表し、議論が交わされた。


【登壇者】

鉄村信治 医療法人健和会 奈良東病院 理事長、社会福祉法人大和清寿会 理事長

武久敬洋 平成医療福祉グループ 代表

姫野亜紀裕 医療法人八女発心会 姫野病院 理事長

一岡亮大 株式会社クラシテク 代表取締役

モデレーター:裵英洙 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科/健康マネジメント研究科 特任教授、ハイズ株式会社 創業者・取締役


Healthcare Venture KNOT 2026トークセッション①

奈良東病院理事長などの要職を務める鉄村信治氏は、有効求人倍率が全国ワースト2位という奈良県の深刻な介護人材不足を背景に挙げ、中長期的な中核人材を育成するための留学生プログラムに注力していると語った。世界唯一の資格である「介護福祉士」のブランド化や質の担保を図り、将来的に母国やグローバルでリーダーとなる人材を増やすことが重要であると強調した。


続いて、平成医療福祉グループ代表の武久敬洋氏は、地方を中心にスタッフ確保が困難になり、病院経営が立ち行かなくなる危機感を訴えた。スタッフが楽しく働ける環境づくりを目指し、資格者間のヒエラルキーをなくすための全員同デザインの制服着用、「先生」と呼ぶ文化の廃止、チームワーク向上のための2泊3日の合宿など、数々の先進的な取り組みを行っていると紹介した。また、認知症病棟の身体拘束ゼロ化など、現場の理解を事前にじっくり待つのではなく、経営者が強い意志を持って「まずやってみる」ことの重要性を説いた。


医療法人八女発心会理事長の姫野亜紀裕氏は、日本のハイコンテキストな文化において、スタッフの納得感や幸福感、愛社精神を高めることの重要性を指摘。経営者の考えやこれまでの決定プロセスを学習したAIエージェントを導入し、トップの分身として職員と対話させることで、個々の職員に組織の文脈やストーリーが行き届く仕組みを作っていると述べた。また、AIのコストパフォーマンスの良さに着目し、先行投資として積極的に活用している姿勢を示した。


株式会社クラシテク代表取締役の一岡亮大氏は、北海道などの広大な地域における深刻な人手不足や、ベテラン医療事務の不在によるレセプト返戻の増加といった現場の課題を挙げた。その解決策として、熟練の医療事務業務をクラウドやAIで補う仕組みを構築したものの、現場で使われなければ意味がないため、誰もが使い慣れているLINEなどのUIに徹底的に寄せることで、導入のハードルを下げてスムーズな稼働を実現したと語りました。


最後に登壇者5名のクロストークでは、日本の医療・介護全体を見据えた方向性として、外国人人材に選ばれるためのキャリア構築支援や、病院特有の閉鎖的な文化を一般的な社会文化へと開いていく必要性が話し合われた。さらに、病院同士の連携だけでなく、病院にサービスや物品を提供する業者同士がコンソーシアムを組み、営業コストを削減してその分を医療現場へ利益還元する仕組みの提案や、複雑化する制度コストを現場が払い続ける構造への問題提起など、多角的な議論が展開された。人手不足や社会保障費抑制という高い壁に対し、非医療と医療、現場と経営、行政とビジネスといった垣根を越え、「KNOT(結び目)」を強くしながら総力戦で知恵を出し合っていくことの重要性が共有され、セッションは締めくくられた。


『病院の当たり前』を問い直し、未知を結んで“おもろく”越える地域医療の未来


トークセッション②「どうする?地域医療の未来」


トークセッション2では、おうちの診療所中野の石井洋介院長がモデレーターを務め、大学病院経営や行政政策、現場の事務長、スタートアップの視点を持つ4名のパネリストが登壇。人口減少や少子高齢化が進む中、これからの地域医療をどう持続可能にし、再編していくかについて多角的な議論が交わされた。


【登壇者】

吉村健佑 千葉大学医学部附属病院 次世代医療構想センター センター長・特任教授、慶應義塾大学医学部 医療サステナビリティセンター 特任教授、千葉県健康福祉部医療整備課 医師確保・地域医療推進室

中村洋心 新潟県 福祉保健部長

荒木庸輔 特定医療法人新生病院 常務理事

和泉大志 株式会社ジェイエムインテグラル 代表取締役

モデレーター:石井 洋介 おうちの診療所中野 院長、株式会社omniheal 代表取締役


Healthcare Venture KNOT 2026 トークセッション②

冒頭、千葉大学の吉村健佑氏は、医療を考える三要素である「コスト」「アクセス」「質」のバランスを取りながら、労働時間の短縮や医療資源の効率化・集約を進める必要性を指摘。また、新潟県に出向中で小児科医でもある中村洋心氏は、初期研修医向けに地域の課題解決や組織運営を学ぶ「イノベーター育成臨床研修コース」の取り組みを紹介し、上越地域などにおける病院機能の再編や一体的運営を進めている現状を語った。


特定医療法人新生病院の荒木庸輔氏は、長野県信濃町という高齢化が進む地域において「病院の当たり前を問い直す」実践を行っていると述べ、急性期から高齢者中心の「ケア」を中心としたモデルへとシフトし、事務職も含めたすべての職種がケアする人として役割を再定義していく重要性を強調した。


株式会社ジェイエムインテグラル代表の和泉大志氏は、医師としてのキャリアや遠隔医療・オンライン診療の現場での経験を踏まえ、法的な整備が進む一方で、地方における実際の利活用にはまだ課題があることや、今後はテクノロジーを活用した広域的な医療維持の仕組みが必要であると訴えた。


後半のディスカッションでは、医師の確保やマネジメント、医療機能の集約に対する住民の合意形成の難しさが議論された。単にマクロなデータや効率性を示すだけでは住民の納得を得ることは難しく、オンライン診療の活用などによって地域の医療機能をむしろ拡充・維持できるという見せ方や、見えない医療の質やプロセスを見える化して丁寧に説明していくアプローチが不可欠であると意見が一致した。

最後に登壇者からは、現状維持バイアスを乗り越えて新しい変化を主体的に起こしていくことの重要性や、自分たちの医療やケアに対する信頼と誇りを持つこと、そしてAIやフィジカルテクノロジーなどの進化を見据えつつ、人と人とのつながりを諦めずに地域医療の未来を切り拓いていこうという強い決意が語られ、セッションが締めくくられた。


社会課題にディープダイブした起業家5名による渾身のビジネスプラン発表


Healthcare Venture KNOT 2026 ピッチコンテスト画面

そしてメインイベントとなる「Knot Program インパクト起業家ピッチコンテスト」では、今回5名がビジネスプランを発表した。5名とも5カ月にわたる事前プログラムで講義とメンタリングを受け、実際に医療現場でのフィールドワークを経て課題の抽出を行いエントリーに至っている。プレゼンに対しては審査員が5名、多角的な審査項目により厳しくも的確な審査を行った。


【審査員】

片桐大輔 千葉大学アントレプレナーシップセンター 教授

瀬尾 萌 ゆうちょアセットマネジメント株式会社 地域・インパクト投資部 ディレクター

天辰優太 平成医療福祉グループ 副代表

榎並将志 株式会社笑美面 代表取締役社長

黄 春梅 インパクト・キャピタル株式会社 代表取締役


「地域に眠る医療資源を、必要な人へ」

守安 巧(国際医療福祉大学 医学部医学科)


Healthcare Venture KNOT 2026守安巧プレゼン

医学部在学中の守安巧氏は、中村哲医師の「目の前の人を救うために医療の手段にとらわれない」姿勢に感銘を受け起業に挑戦。熱中症死者数の増加など、高齢者が地域の医療・介護インフラに接続できていない構造的課題に着目している。 その接続の要である地域包括支援センターの現場が求める「ネクストアクションの可視化」を実現するタスク管理データベースを開発。さらに電話相談の音声自動文字起こし・タスク抽出機能を併せて業務効率化を目指すと発表した。

審査員からは、「20歳とは思えない強い思いがあり、現場を回ってプロダクトを磨き上げる姿勢が素晴らしい」(黄氏)、「熱中症の課題解決に包括支援センターを選ぶアプローチのセンスが良い」(天辰氏)と評価された。


介護現場とテクノロジーの間を埋める実装支援『ラストワンマイル』

臼居 航(筑波大学 理工学群 社会工学類)


Healthcare Venture KNOT 2026臼井航プレゼン

筑波大学の臼井航氏は、介護現場と最先端テクノロジーの間に存在するギャップを埋める実装支援「ラストワンマイル」を発表した。多種多様なシステムやDXツールが存在する一方で、現場では依然として紙や手作業による非効率な管理が残っており、職員の負担となっている。そこで同氏は外部のDXチームとして現場に深く入り込み、対話と伴走を通じて業務の自動化や成功体験を創出し、現場の行動変容を促している。

審査員からは、「泥臭く現場に入り込む姿勢と熱意が素晴らしい」等と評価された。


親とのあいだに、もう一人。離れて暮らす親と家族が楽しみながらゆるくつながれる『BabuuTalk』

堀田一希(株式会社BabuuTalk 取締役)


Healthcare Venture KNOT 2026堀田一希プレゼン

堀田一希氏は、離れて暮らす高齢の親と家族が楽しみながらゆるくつながれるコミュニケーションサービス「BabuuTalk(バブートーク)」を発表した。従来の高齢者監視・見守りツールとは異なり、AI生成の赤ちゃんキャラクター「バブーちゃん」が家族と親の間に入り、関西弁で日常の音声やテキストの問いかけを代行する。親御さんはタブレットを置くだけで操作不要、家族はLINEアプリで簡単に利用でき、適度な距離感で負担の少ないコミュニケーションを実現する。

審査員からは、「めちゃくちゃいい」(榎並氏)、「監視のような冷たさがなく、介護現場の視点に基づいたほっとするアプローチ」(天辰氏)との声が掛けられた。


在宅医療専用のAI記録支援・多職種連携ツール「kowairo」

宗 大貴(株式会社医伝士 代表取締役/医師)


Healthcare Venture KNOT 2026宗大貴プレゼン

宗大貴氏は、在宅医療におけるAI記録支援および多職種連携ツール「kowairo(コワイロ)」を発表した。在宅医療現場では医学的な正しさ以上に患者の価値観(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)の共有が重要だが、多忙を極める訪問看護師や医師の間では十分な情報連携や記録が後回しになりがちである。同ツールは、日々の訪問時の音声をAIが自動で記録・構造化し、患者の価値観や個別情報をACPデータとして多職種間で共有・蓄積することで、患者の意向に沿った一貫したケアの実現をサポートする。

審査員からは、「患者の希望や価値観を可視化するという本質的な課題に対して非常に意義深いアプローチである」等と評価された。


「シングルマザー・子育て女性の就労課題を解決する在宅医療向けBPO・診療アシスタント人材育成事業」

平井大輝(株式会社CLACK 代表取締役)


Healthcare Venture KNOT 2026 平井大輝プレゼン

平井大輝氏は、シングルマザーや子育て女性の就労課題を解決するため、在宅医療向けBPOおよび診療アシスタント人材を育成・派遣する事業を発表した。貧困家庭で育った自身の原体験から、女性やシングルマザーの貧困問題に強い問題意識を持ち、生成AI時代にホワイトカラーの雇用が揺らぐ中、超高齢社会で人手不足が深刻化する在宅医療・訪問診療領域に着目。現場のクリニックが抱える地域連携や事務・人事の負担を、育成した子育て女性チームによるBPOや現地人材派遣を通じて解消することで、クリニックの経営改善と女性の多様な働き方の両立を目指す。

審査員からは、「医療従事者が苦手とする地域連携や営業の代行はニーズが高く非常に良いアイデア(榎並氏)」等の評価をうけた。


Healthcare Venture KNOT 2026堀田一希優勝

以上5名のプレゼンが行われ、厳正な審査の結果「めちゃくちゃいい」と評された「BabuuTalk」の堀田一希氏が最優秀賞を受賞、参加者投票によるオーディエンス賞も合わせて2冠受賞する結果となった。こうしてつつがなくイベントは閉幕した。

コメント


bottom of page