博士の知が未来をひらく――「未来の博士フェス2026」開催

2026年9月25日、東京国際フォーラムにて公開フォーラム「未来の博士フェス2026 ~博士と拓く、知が活きる社会~」が開催された。文部科学省主催、経済産業省および科学技術振興機構(JST)が共催する本フェスは、今年で4回目の節目を迎えた。現地およびオンライン配信のハイブリッド形式で行われ、アカデミアのみならず産業界や行政から約400人の参加者が集結した。高度な専門性と課題解決能力を備えた博士人材が、多様なフィールドで活躍するための新たな一歩を踏み出す一日となった。
産官学が手を取り合う

開会にあたり、主催者・来賓の双方が登壇し、博士人材への強い期待と手厚い支援の継続を力説した。文部科学省文部科学副大臣の中田宏氏は「博士人材は高度な専門性に加えて、何よりも自ら課題を発見・発掘して、他者と協調しながら新たな価値を創造できる人材である」と語り、社会課題の複雑化に応えるポテンシャルを評価した。続いて共催の経済産業省から、イノベーション政策統括調整官の福地真美氏が登壇し「新技術立国の実現を支える中心的な存在が博士人材だ。研究を通じて培われた課題設定力、分析力などの多様な能力にも目を向けてほしい」と企業側へのメッセージを投げかけた。
また、JST理事長の橋本和仁氏は「社会全体が知の社会になり、高い知識と経験を持った方をあらゆる現場が求めている。世の中を知るためにジョブ型インターンシップなどの制度を積極的に活用してほしい」と熱意を込めて呼びかけた。
さらに国会からの強い後押しとして、衆議院議員で元文部科学大臣の渡海紀三朗氏と参議院議員の有村治子氏も登壇した。渡海氏は「博士人材の皆様が持つ高度な専門性と探求心は、これからの社会や産業を牽引する強力な原動力である。イノベーションの創造と社会課題の解決に向け、研究の場にとどまらず、企業や行政といった多様なフィールドでその力を存分に発揮できるよう、国としても支援の拡充と環境整備に全力で取り組んでまいりたい」と力強く語った。続いて有村氏は「博士号を持っている方は、知のトレーニングができ、サイエンスで人を説得することができる証左だ。自らの専門性と倫理観と責任感を持って社会を変えていく力になってほしい」と熱いエールを送った。
熱意と知性が交差する――若手博士学生のプレゼンテーション

続くショートプレゼンテーションでは、先端領域で活躍する博士後期課程の学生6人が登壇し、自らの研究成果と未来へのビジョンを熱っぽく語った。
まず登壇した大阪大学薬学研究科博士後期課程1年の朝野怜氏は、iPS細胞から作製した「肝臓オルガノイド」とゲノム編集技術を組み合わせ、個々の体質に対応した薬物動態や肝毒性を評価する高精度な予測系の開発について発表した。新薬開発における最大の阻害要因である肝毒性を細胞段階で早期に予測することで、より安全かつ安価な医薬品を迅速に患者へ届けることを目指している。朝野氏はキャリア形成にも触れ、研究室配属から進路選択までの約2年間という短い期間で学生に研究を「面白い」と感じさせることが重要だと述べ、外部の学会や展示会で自らの研究価値を客観的に認識できる機会を学生に積極的に与えてほしいと訴えた。
続いて、金沢大学自然科学研究科博士後期課程2年の松島啓介氏は、脳の記憶形成において重要な役割を果たすタンパク質「CaMKII(カムケーツー)」の構造解明に関する研究を報告した。松島氏は、ナノスケールの分子の動きをリアルタイムで観察できる「高速原子間力顕微鏡(高速AFM)」を活用し、長年未解明であった「α型とβ型が混ざり合った12量体構造」を世界で初めて動画として捉えることに成功した。誰も見ることができなかった現象を最初に目撃する醍醐味を語った松島氏は、自ら解析手法を立ち上げたプロセスの力を生かし、将来的にタンパク質から個体レベルまで一貫して脳を解明し疾患治療に貢献したいと力強く展望した。
筑波大学理工情報生命学術院博士後期課程2年の多田遥香氏は、協調学習においてグループ内の感情的多様性に着目した感情推定AI支援システムの研究と、自身の起業活動を紹介した。カメラ映像から感情を推定しその差分をスコア提示することで、学習者同士が互いの感情差に気づき、発話や関わり方を調整できるように支援する実証実験をつくば市内の中学校で実施している。また、株式会社Griteenの代表として女子小中学生向けプログラミングスクールを運営する多田氏は「誰もが自分の『やってみたい』に挑戦できる教育を自分の手で作っていきたい。研究と起業の往復を続けながら、研究成果が社会で使われ続ける仕組みへ育てていく」と宣言した。
名古屋大学医学系研究科博士後期課程2年の布施絢史郎氏は、医師としての臨床経験を原点に、アルツハイマー型より重症とされる「レビー小体型認知症」の発症前段階を解明する研究を発表した。症状が出現する5〜10年前から脳の機能低下が始まっていることに着目し、健康診断データや初期の自覚症状(便秘や睡眠異常など)を追跡。機械学習(AI)を用いて多角的な検査データとの関連性を解析している。布施氏は「日本において1分に1人が認知症と診断されている」という現状に触れ、認知症が発症する前に治癒する社会の実現を目指し、1分も無駄にすることなく研究を進めたいと意気込みを語った。
奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科博士後期課程2年の山本富也氏は、情報科学(AI)を活用して半導体や電池などの新材料を効率的に設計する「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」の研究や、シンガポール南洋理工大学への留学経験を発表した。物理学者ファインマンの「作れなければ理解したことにならない」という言葉を引き合いに出し、AIで提案・設計された未知の材料から新しい物理法則を見つけ出したいと野心を示した。専門領域の転換や国内外での挑戦を経て実感した「一人ひとりが協力して作り上げる共創のインパクト」を大切にしたいと述べた。
最後に登壇した山形大学理工学研究科博士後期課程1年の小松芙羽氏は、カーボンニュートラル実現に向けたCO₂分離膜の研究開発について明かした。小松氏はナノ粒子表面に高分子を被覆する「粒子共存重合法(PwP法)」を用いて、界面欠損や凝集のない高機能なCO₂分離複合膜(MMM)を開発しており、スタートアップ支援プログラムへの挑戦も進めている。「ただ良い材料を作るだけでなく、どこで、誰に、どのように使われるかまで考えられる研究者になりたい」と語り、研究シーズを社会実装へつなげ、現場のフィードバックを再び研究へと還元していく持続的な循環を作りたいと意欲を見せた。
未来への展望
全ての発表を終え、コメンテーターを代表して早稲田大学理工学術院教授・SPRING/BOOST委員長の笠原博徳氏が総括を行った。笠原氏は登壇した学生たちの挑戦を絶賛し、「好きなことに打ち込んで目標達成に向け努力を重ねる姿は、世界トップに登り詰めた研究者たちと全く同じだ。皆様が将来、世界のトップと同等に活躍する姿が目に浮かぶ」と語った。さらに、JSTの各種スタートアップ支援施策やエコシステムを最大限に活用し、世界のベンチャーへと成長してほしいと激励の言葉を贈った。
午後に開催されたポスターセッションでは、学生同士だけでなく、多様な業界から集まった企業関係者との対話が交わされた。異分野とのチームアップや知見の共有を通じて、博士の専門性が社会へ還元される未来を確信させる、活気あふれるフェスとなった。



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